凍てつく財政破綻の街、夕張を歩いてみた~ある不動産鑑定士・公認会計士・税理士の思ったこと
■はじめに
国内の各地で、人口減少・高齢化が問題になっています。聞けば、小さな自治体はやがて消滅するとの意見もあるとか。
たまたま、1月に北海道旭川市で不動産鑑定に訪れる機会がありました。しかも筆者の個人的な友人で夕張に一時期、勤務していた方がおられるので、その方からの情報も踏まえながら、残念ながら財政破綻してしまった夕張をモデルケースとして、「これからの地方の在り方」を考えてみたいと思います。
■まず、夕張とはどんな市
夕張市は、北海道の中央部に位置します。夕張市役所へは札幌駅からおおよそ東へ70Km強(道路距離)です。但し、かつて存在した夕張駅へのJR線は札幌から行くには反対の方向に伸びていたため大赤字で廃止になり、札幌からの公共交通は所要1時間50分前後の1日三往復の高速バスのみという状況です。
また、人口激減も著しいです。
もともとは炭鉱で栄えた街ですが炭鉱閉鎖等もあって、ピークの昭和35年4月時点の人口が116,753人であったところ、令和5年12月1日現在で6,433人。言い換えれば、94%以上もの人口が減少しています。
■夕張に行ってみた
夕張市へはバスです。ただ、令和5年9月に、札幌から夕張の中心部へのバスがそれまで二つのバス会社で運行されていたのが一社が撤退し、1日三往復に減便されました。この他、JRの帯広・釧路方面への特急に乗って、市の南側の新夕張駅からバスという手段等もありますが、迂回になる上にやはり便数は限られます。
1月10日、その貴重なバスに乗り、吹雪で時間が遅れましたが夕張市中心部の終点のバス停「レースイリゾート」に着きました。
降り立って感じたのは、とにかく人がいません。そもそもバスもガラガラで、夕張市内まで乗り通した客も数人でした。これでは減便も無理もないですし、むしろ三往復だけでもよく生き残った感すらあります。
バス停の横にはかつてのJR夕張駅がある筈ですが、雪に埋もれてその様子が見て取れません。スキー場だけは稼働していましたが、ホテルも人影が見当たらない状況です。
そして、何より、店がほとんど開いていません。シャッター街と化していて、数十年前の映画の看板がやたらに目立つ状況です。それが映画祭のために意図的なものか、単に昔からの更新が遅れているのかは不明ですが、時代遅れ感が凄いです。筆者の見た限りでは、「新しい映画」の看板は乏しいように思いました。
実は、筆者は夕張の名物の食堂でもあれば食べようと思っていたのですが、食指が動く食堂がなく、結局、札幌に戻って味噌ラーメンとなりました。このことが商業繁華性の乏しさを物語っているでしょう。
■市役所で話を聞いてみた。
市役所では、まずは地域振興課に話を聞きます。聞けば、概要は以下でした。
・市役所は消防等も含めて100人程度。余剰人員は整理し、市の業務でも広域自治体の集合で対応できるものはそうする等、最大限、人件費は節約している。
・事業者は、一部に大手企業の施設もあるが、地域振興課での相談は小規模な事業者がメイン。
・特産品は夕張メロンを基軸にしており、観光施設は黄色いハンカチ広場、石炭博物館。
次に財政課に話を聞きます。
・財政破綻をしたが、地方債・再生振替特例債を起こして、固定資産税等の税収と合わせて返済している。勿論、地方交付税やふるさと納税の収入もある。
・財政破綻に伴い、役所の人件費や事業関連の支出を大幅に削った。事業関連は具体的には社会教育事業、補助事業等を削った。
■税収~固定資産税・都市計画税の推移を見てみる。
次に、夕張市の税収を見てみましょう。
ここでは、税収と、税収の中でもウエイトの大きい固定資産税都市計画税の推移を見てみます。
実は、筆者の予想では、固定資産課税標準額に基づき計算される固定資産税・都市計画税による税収は毎年、継続的に減少しているものと思っていました。
確かに、土地の固定資産課税標準額やこれに基づく税収は毎年減っています。これは、人口減や高齢化の進行で土地需要の減退の結果、公示価格等やこれと連動する固定資産税評価額の価格減少があるからと判断されます。ただ、上記の表の通り、建物と比較してその税収はわずかです。
一方で、意外でしたが、建物の固定資産課税標準額は令和3年に急に上昇していました。この点を税務課に尋ねると、「ある企業の建物の減免特例の期間が切れた」からとのことでした。
筆者も今回、初めて知ったことですが、夕張市のような過疎地の場合、地価が低廉なために土地の税収よりも、高額の課税が見込まれる企業の巨大な建物等の税収のインパクトが大きいようです。
地方の財政が難しい状況の都市は、変に小細工を講じるよりも、企業城下町になる方がよいのだ…と改めて考えさせられました。
そして、固定資産税・都市計画税に限らず、ふるさと納税による税収等も含めて、せっかく増えた税収を、「有効に使う」こともまた、来てくれた企業に対する礼儀とは思いました。
■夕張に勤務していた友人に聞いてみた話
以下は夕張に行く前日に前述の友人と札幌の居酒屋で酒を交わしながら聞いた話です。そして、筆者の責任において書く印象に残った情報です。ですので、齟齬がある危険性はご理解いただければと思います。
・空室だらけの複数ある集合住宅にそれぞれ賃借人がいたが、一棟に全て集約した。そこに住んでいた老人たちは「住み慣れたこの部屋が…」と集約に抵抗し大変だったが、何とか集約した結果、冬季の暖房費等が大幅に節約できた。
・今まではバス網も、市のすみずみまで行っていたが、どれも大赤字。JR夕張駅まで来るJR線の廃止を契機に、市内のバス網も基幹路線だけに絞り、それ以外に行く場合は「その地域に住む人のみ廉価に乗れるタクシー」で代替することにした。結果、公共交通の負担は軽減された。
■ある議員の指摘も、耳を傾ける時期には来ている
筆者はある議員そのものを支持する気はありませんし、中立的な立場からとの前提で、意見を申し上げます。
要旨、能登の地震後の情報発信として、地震前から維持困難であった集落は多額の資金を用いて復興して住人である老人が寿命を迎えた段階で廃村とするより、移住を選択しては…との指摘がありました。
もちろん、批判はあるのは承知です。その上で申し上げると、筆者は賛成です。むしろ、災害発生前から推進すべきと思っています。
「数十人しかいない集落のために、巨額の負担をかけてインフラを整備する必要があるのか」という点は、まず考えるべきでしょう。
税の支出、即ち、歳出が、日本の産業促進・国力強化や日本の文化育成、あるいは未来を担う日本の子供たちの成長、地球環境の保全に役立つなら、賛同できます。
しかし、数十人しかいない集落の維持が、これらに役立つでしょうか。
地方交付税や、ふるさと納税で都市部から地方への税収の移転がなされています。
大都市の一部の自治体の長はふるさと納税による地方への税収の流出を批判していますが、筆者はその意見には反対です。なぜなら、「地方があるからこそ、東京が潤う」からです。
但し、地方の側も、「税収の使い方」には礼儀をつくすべきでしょう。
前述の集合住宅の移転の話でも、老人が「住み慣れたこの部屋で…」とかなり抵抗したようですが、暖房費等が節約できたように各自治体の中心部への集約で負担軽減ができます。
「住み慣れたこの家で…」との発言に対し、筆者は「では、あなたのその要望のために、社会にどれだけの負担がかかるのか」と問いかけます。
これからの時代は、個人の思いだけで数十人程度の人が少ない集落を維持することは、再考すべきです。
なぜなら、その集落の維持が、昔からの建物が建替えられなかったり道路寸断等の理由で災害時により被害を拡大する他、その集落への道路・ライフライン等のインフラ整備にも負担がかかるからです。
集約した土地を災害に強い街にすれば、万が一の被災時に被害が抑えられる可能性が高まる他、能登の地震でも色々とありましたが、救助隊も入りやすくなる点も忘れてはならないでしょう。
もし、どうしても「その集落に住み続けたい」という人がいるならば、「もう自治体ではインフラの面倒は見ませんが、自己責任で」という条件を呑んだ人に限定すべきとすら思います。
集約化で、インフラ整備で食べていた企業は困るでしょうが、地方の税の支出も軽減されます。
しかも、無駄な資源消費を回避するため環境にも優しい他、資源を他に回せますから日本の国力にも寄与します。その上、集約によって人が集中しますから、商業施設も採算が得られやすくなるので、ショッピングセンターやスーパーマーケットの有無にもよりますが、筆者が夕張で食事をできなかったような例を見るまでもなく、店舗利用の利便性は増すでしょう。
繰り返しますが、集落の集約で、税の支出はまだまだ軽減できると感じます。
市内に大きな建物を所有して高額の固定資産税・都市計画税を払ってくれる人やふるさと納税をしてくれた人への礼儀の意味でも、集約して負担を軽減する必要性。夕張市の場合は一つのモデルケースと思いますけれど、今後、多くの地方で推進すべきと思いますが、いかがでしょうか。
現場からは以上です。