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尹錫悦大統領の弾劾訴追案可決→職務停止が「濃厚」に…与党代表が態度を一変、票決の前倒しも(第二報)

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
弾劾訴追案に賛成する立場を表明した韓東勲与党代表(右)。10月、大統領室提供。

 (6日15:00、第二報更新)

 韓国の最大野党・共に民主党が7日19時に票決すると明かした、尹錫悦(ユン・ソギョル、63)大統領の弾劾決議案。可決には与党から8票の造反が必要な中、与党が否決の党議拘束をかけたことで否決の可能性が高まり、同じ野党内からも「時期尚早だったのでは」という声も出ていた。

 だが6日朝、与党の韓東勲(ハン・ドンフン、51)代表が昨日までの態度とは一変、可決に回る意を明らかにしたことで尹大統領の弾劾をめぐる政界の動きは急展開を迎えている。情勢をまとめた。

●戒厳から弾劾訴追案発議、事態の流れ

 3日22時23分、尹錫悦大統領が「共に民主党など従北左派の暴挙を国民に知らせるため」(※)敢行した非常戒厳の宣布。

 23時を機に戒厳司令部より一切の政治活動を禁止する内容を含んだ布告令が発表され、国会を封鎖するため280人の戒厳軍が国会に展開した。大統領以外に戒厳を解除できる唯一の方法である国会による解除要求案の可決(議員の過半数賛成)を阻止するためであった。

 この目的を察した議員補佐陣や国会職員そして市民が戒厳軍と国会内外で対峙する中、翌4日1時に国会で解除要求案が可決された。尹大統領がこれを受け入れることで戒厳令は同5時30分に正式に解除された。

4日未明、警察により封鎖された国会正門前で戒厳解除の声を上げる市民たち。筆者撮影。
4日未明、警察により封鎖された国会正門前で戒厳解除の声を上げる市民たち。筆者撮影。

 わずか6時間で45年ぶりの戒厳状況が解除された訳だが、事態発生からまだ72時間も経っていない。その間、国会を中心に一連の戒厳の過程が再構成されている。

 おおまかな筋としては、金龍顕(キム・ヨンヒョン、65)国防長官が尹大統領に建議し、実行役を担ったというものだ。尹大統領と同じ高校の一年先輩だ。同長官は4日に辞意を表明し、5日午前尹大統領がこれを裁可した。

 とはいえ、尹大統領の責任が免除される訳ではまったくない。非常戒厳は大統領の権限であり、宣布したのも大統領本人だ。

 このため「戦時・事変またはこれに準ずる国家非常事態」でもない中、名分のない非常戒厳を宣布した尹大統領の責任を問う声が上がり、共に民主党をはじめとする野党は4日に「辞任」を要求した。

 だが尹大統領がこれに応える気が全くないことが判明したことで、野党側は「弾劾」というカードを切る。野党6党は4日夕方、合同で国会に弾劾訴追案を発議した。これは手続きを経て、6日0時49分から国会で票決可能な状態になっている。

(※)戒厳が解除された4日午後、尹大統領が国務総理や与党代表、与党院内代表(国対委員長)を集め面談した席でこう発言したと、韓国メディア『月刊中央』が報じた。

●韓東勲氏の「旋回」で可決が濃厚に

 弾劾訴追案が国会で可決される場合、尹大統領はすぐに職務執行停止なり国政の一切に関与することができなくなる。そして国務総理が大統領代行となる。

 その後は180日以内に憲法裁判所が最終判断を下す。

 弾劾訴追案を認容する場合、尹大統領は罷免され、60日以内に新たな大統領を選ぶ選挙が行われる。同案が棄却される場合には尹大統領は職務に復帰する。

 可決に必要な票数は200だ。現在、野党は192議席であるため、与党・国民の力から8票の造反票が必要となる。

 しかし6日晩の時点で、与党は否決で党議拘束をかけると明かし、7日19時頃に行われるとされる票決で否決となるという見方が大勢を占めていた。

 しかし7日朝、与党の韓東勲代表は緊急最高委員会の席で「尹錫悦大統領の早期の職務執行停止が必要と判断する」とはっきりと述べた。

 同氏はさらに「昨晩、戒厳令を宣布した当日に尹大統領が、主要政治家などを反国家勢力という理由で逮捕するよう、高校の後輩である呂寅兄(ヨ・イニョン、55)国軍防諜司令官に指示した事実、そして大統領が政治家の逮捕のために情報機関を動員した事実を信頼に足る根拠を通じ確認した。」と明かした。

 また「呂寅兄防諜司令官が、逮捕した政治家を果川(クァチョン、ソウル南方)の収監しようとしたという具体的な計画があったことも把握した」と述べた。

韓国の国会議事堂。11月、筆者撮影。
韓国の国会議事堂。11月、筆者撮影。

 3日23時48分以降、国会に展開した戒厳軍の目的の一つに、国会議長や与野党の代表の身柄を拘束することがあったという点は事態発生当初から指摘されてきたが、韓東勲代表はその証拠を掴んだということになる。

 同氏はまた「尹大統領は今回の事態に不法に関わった軍の人士に対する措置を行っておらず、呂寅兄防諜司令官への人事措置(解任など)すら行っていない」と述べ、「(大統領は)今回の不法な戒厳が間違っていたと認めていない」と語った。

 この「認めていない」という部分については、本記事の冒頭で引用した4日午後の尹大統領との面談の際に、韓東勲氏も直接確認したものと思われる。

 『月刊中央』の記事ではこの時、尹大統領は「自ら進んでの下野(辞任)はしない」と述べつつ「従北左派をやっつけるために国家権力を動員しなければならないので、党が団結して手伝ってほしい」と党に頼んだという。

 韓氏は「だからこそ、尹大統領が大韓民国の大統領職を継続して遂行する場合には、今回の非常戒厳のような極端な行動が再現される憂慮が強く、それにより大韓民国と大韓民国の国民たちを大きな危険に陥れる憂慮が大きいと考える」と続け、「今はただひたすら、大韓民国とその国民のことだけを考えるべきだと私は信じる」と結んだ。

 弾劾訴追案の可決を進めるという決意表明だった。

非常戒厳下で国会本会議場への戒厳軍の進入を防ぐために作られたバリケード。4日、筆者撮影。
非常戒厳下で国会本会議場への戒厳軍の進入を防ぐために作られたバリケード。4日、筆者撮影。

●野党もこれに呼応、与党からは早速「造反者」も

 韓東勲氏がどんな証拠を持っているのかはまだ明らかになっていないが、韓氏の「造反」発言には大きな意味がある。

 4日午前1時、国会で非常戒厳解除要求案が可決された際、票決に参加した議員は190人だった。この中に18人の与党・国民の力の議員が含まれていた。いわゆる党内の「韓東勲派」と分類される議員で、事態発生直後から「戒厳は違憲」と位置づけた韓氏と行動を共にしていた。

 この18人が造反する場合、弾劾訴追案が可決されることは言うまでもない。実際に、韓氏の発言直後、18人の中で最もベテラン(6選)の趙慶泰(チョ・ギョンテ、56)議員は弾劾に賛成する立場を表明した。

6日午前、弾劾訴追案への賛成を表明する趙慶泰議員。聯合ニュースをキャプチャ。
6日午前、弾劾訴追案への賛成を表明する趙慶泰議員。聯合ニュースをキャプチャ。

 趙氏は「一日でも早く(弾劾への)時間を短縮すべきだ」とも述べ、7日まで待つ必要がないという立場も明かした。

 これを受け、共に民主党も6日の11時30分に非常議員総会を招集した。同党の関係者は筆者に「今日(6日)19時に票決が前倒しされる可能性がある」と述べた。

 なお、非常戒厳宣布後の4日に行われ、5日に発表された『リアルメーター』社による世論調査では、73.6%が尹大統領の弾劾に賛成するとした(反対24.0%)。

 さらに6日発表された『韓国ギャラップ』社による定例世論調査(調査期間3日〜5日)では、尹大統領の支持率(国政への肯定評価)は16%と過去最低を記録した否定評価は75%)。

===以下、第二報(6日17:30更新)===

 現段階でひとまず6日内の弾劾訴追案の票決はないようです。

(続報が入り次第、更新します)

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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