出演女優を処刑…北朝鮮「禁断のビデオ」のゆがんだ実態
北朝鮮では、アダルトビデオ(AV)に関わる一切が違法となる。その法的根拠は次のようなものだ。
刑法183条(退廃的な文化搬入、流布罪) 退廃的、色情的で醜い内容を反映した図画、写真、図書、歌、映画などを許可なく外国から持ち込んだり制作したり流布したり違法に保管している者は1年以下の労働鍛錬刑に処す。複数回または大量に搬入、制作、流布、保管した場合には5年以下の労働教化刑に処す。罪状の重い場合には5年以上10年以下の労働教化刑に処す。
厳しい取り締まりにもかかわらず、AVが摘発される事例は後を絶たない。
少し前に槍玉にあげられたのは北朝鮮の最高学府、金日成総合大学の学生たちだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、平壌の幹部の話として、昨年11月末に、平壌市の東大院(トンデウォン)映画館で成人録画物(AV)を制作、流布した金日成総合大学の学生4人と卒業生9人に対する公開裁判が、被告の親や平壌市内の学生など多数が参加させられた上で行われたと報じた。
被告らは金日成総合大学コンピュータ科学学科の学生、卒業生で、コンピュータを利用して合成動画を作る技術に長けていると伝えられている。
彼らは、海外を行き来する外交官やその子女が一時帰国の際に密かに持ち込んだ米国、日本、韓国のアダルトビデオがコピーされたSDカードを入手、それをさらに過激な動画として編集し、USBメモリに入れて1個100ドル(約1万800円)以上で販売していた。
平壌の別の情報筋は、判事、検事、裁判を主管した平壌市保安局(警視庁に相当)のいずれのものかは明らかにしていないが、裁判で主張された内容を詳しく伝えている。
まず、「人類の歴史の発展において最も重要な変革は社会主義建設であり、その過程においてはありとあらゆる敵対的、非社会主義的な現象に直面する」と指摘、それをなくすための階級闘争は必然的に伴うと主張し「非社会主義との闘争は、特殊な人であっても例外にはならないとし、幹部に対して警鐘を鳴らした。
この「非社会主義」とは、当局の考える社会主義にそぐわない現象のことで、密造酒、虚礼虚式、森林破壊、服装の乱れ(特に女性)、自然保護、賭博、勤務怠慢など多岐に渡る。
そして「革命の継承者である青年に対する思想教養をひとときでも傍観すれば、社会主義国家の存立と発展に取り返しのつかない結果をもたらす」とし「青年の間で退廃的なブルジョア生活文化を根絶やしにしなければ、革命の敵どもに社会主義制度がまるごと飲み込まれる」などとも主張した。
権力、権限を利用して国民からワイロを搾り取っている司法関係者が、そのような主張をしても何の説得力もないだろう。
一般の大学生がこのような犯罪を犯せば、拷問を含む厳しい取り調べを受けた上で、少なくとも労働鍛錬隊(軽犯罪者向けの刑務所)や教化所(一般の刑務所)送りとなる。
しかし、被告の親らは平壌市党(朝鮮労働党平壌市委員会)や司法機関の主要幹部だという。裁判で「社会主義の本来の姿とは一致しない不健全で異色的な成人録画物を制作した子どもの教養問題」、つまり躾がなっていないと激しく批判し、顔に泥を塗ることで、処罰の代わりとしたようだと情報筋は伝えている。
だが、AVの制作、流布は一つ間違えば命すら危ぶまれるほどの行為だ。
韓国のメディア、デイリーアンは2013年9月、北朝鮮筋の話として、人民俳優のピョン・ミヒャンが出演したアダルトビデオが日本で出回り、それを見た在日本朝鮮人総連合会(総連)の関係者が本国に通報したことで発覚し、ピョン・ミヒャン以外の制作に関わっていた人たちは、家族の見守る中で全員が絞首刑に処せられたと報じた。
(参考記事:女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー)
ピョン・ミヒャンについては死刑にされたという説と、人民俳優の称号を奪われ、追放されたという説がある。
総連の内部事情に詳しい日本の某消息筋は2013年、デイリーNKの取材に「1980年代から日本で製作された淫乱物が北朝鮮に流入し始めた。当時、北朝鮮に出航していた万景峰号を通し人づてに北朝鮮に渡っていた。淫乱物を入手し北朝鮮に送る総連内の専門チームもいた」と語っている。