市販薬のレシートは捨てるな ~ 2017年からの新しい節税方法「セルフメディケーション税制」
2017年を迎え、ある異変がドラッグストアの店内で生じたことに、皆さんはすでにお気付きでしょうか?
値札や市販薬の包装のあちらこちらに「税 控除対象」というマークが、貼られているのです。
これは、2017年より始まった新しい医療費控除制度の一環として行われているものです。
節税につながりますので、ドラッグストアでもらうレシートは、ぜひ捨てずに取っておきましょう。
市販薬限定の医療費控除が始まる
新しく始まる医療費控除の名は、「セルフメディケーション税制」。何やら難しそうな名前ですが、ひとことで言えば、市販薬の購入費に限定した医療費控除です。
「それならば従来からある医療費控除を使えばいいのでは」と思われた方もいらっしゃるでしょう。確かに、今ある医療費控除においても、市販薬の購入費は控除対象として認められています。
ただし、今の医療費控除には、医療費の合計が年間「10万円」、または「所得の5%」(所得が2百万円未満の場合)という足切りラインがあり、その額を超えないと使えません。たとえば所得が100万円の方であれば、医療費が5万円を超えなければ医療費控除を適用できません。
医療費控除のハードルの高さに二の足を踏み、「医療費控除なんてどうせ関係ないし」と、病院の領収書や薬局のレシートを捨てていた方も少なくないでしょう。
それに対し、新しいセルフメディケーション税制では、足切りラインが年間「1万2千円」と低めに設定されています。利用のハードルが高かった医療費控除が、今年からより身近になったのです。
たとえば、年収450万円の方が、家族分も含め年間総額で6万2千円分の市販薬を購入し、このセルフメディケーション税制を使って5万円(6万2千円マイナス1万2千円)の控除を行うと、約1万円の節税につながります。
セルフメディケーション税制は、所得税・住民税の計算の際に所得から控除されます。年末調整では適用できませんので、適用するには確定申告が必要です。
対象となる市販薬は?
そもそもセルフメディケーション税制導入の主な目的は、年々増え続ける国等の医療費負担を減らすことです。国の気持ちを代弁するなら、「自分で治せるような軽い病気は、できるだけ病院に行かずに市販薬で治してくれ」といったところでしょう。
この目的から、セルフメディケーション(自己治療)税制の対象となるのは、「スイッチOTC医薬品」に限定されています。
ちなみにスイッチとは医療用から一般用に転換されたもの、OTCとはOver The Counterの略で、カウンターで購入するものという意味です。要するに、かつて処方せんで出されていた医療薬だったもので、一般でも買える市販薬に転換されたものが、スイッチOTC医薬品です。処方箋をもとに調剤薬局で出される薬は、スイッチOTC医薬品には該当しません。
市販薬だったら何でも対象になるというわけではなく、対象商品は一定の有効成分を含むとして厚生労働省に指定を受けたものに限られます(2017年1月2日現在 約1500品目)。
筆者が確認した範囲では、かぜ薬、湿布薬、胃薬、皮膚病の薬などの代表的な市販薬は、ほぼ対象となっているようです。ただし、葛根湯など漢方薬、絆創膏、包帯、マスク、サプリメント、栄養ドリンクは対象外です。
酔い止め、下痢止め、お酒を飲む前に飲む肝臓を元気にする薬なども、今のところ対象外のようですし、花粉症の対症薬や目薬など、対象商品と対象外の商品とが混在している市販薬もあるようです。
面倒でも厚生労働省のホームページで商品名を確認するか、店頭で以下のように確認されることをおすすめします。
対象商品はマークで見分けよう
店頭での具体的な見分け方ですが、対象商品には、パッケージに「セルフメディケーション 税 控除対象」というマーク(共通識別マーク)を表示することが推奨されています。また、ドラッグストアによっては、見やすいように値札の近くに同様のマークを掲示する方針のところもあるようです。
ただし、この共通識別マークの表示は法定義務ではないため、まだ表示していないケースも多いようです。筆者が1月1日に某大手ドラッグストアの複数の店頭で確認したところ、表示があるのは一部の商品のみでした。これだと、対象かどうか不明な場合には店員に確認するしかありません。聞くほうも聞かれるほうもお互いに手間がかかりますので、急ぎ対応をお願いしたいところです。
レジでもらうレシートでも対象商品の確認ができます。どの店でも、2017年1月1日購入分からレシートに「★」印がセルフメディケーション対象薬品の名前の横に付けられているはずです。このレシートは、そのまま確定申告の際に用いることができます。
適用するための条件は?
セルフメディケーション税制には、もう一つ大事な条件があります。
それは申告する本人が、確定申告の対象となる年に、(1)インフルエンザなどの予防接種、(2)定期健康診断、(3)特定健康診査(メタボ健診)、(4)人間ドッグやがん検診(市町村・健保組合等が実施)などのうち、いずれか一つを受けていることです。つまり健康維持や疾病予防のためにそれなりの努力(一定の取組)をしている人のみが、控除を受けられることになります。
これら一定の取組をしたことを証明するために、領収書または結果通知表等の提出が確定申告の際に求められます。
一定の取組を求めておいておかしな話ですが、これら予防接種・健診にかかった費用自体は、セルフメディケーション税制において控除できません。セルフメディケーション税制のさらなる普及のために、条件とされている予防接種・健診に対する費用も控除対象とすることが望まれます。
なお、これらの予防接種・健診と、購入する市販薬との間の関連性は求められていません。したがって、たとえば水虫薬など、予防接種・健診とまったく関係の無い市販薬であっても控除対象にできます。
適用する際の留意点
セルフメディケーション税制が適用されるのは、2017年1月1日以降の購入分からです。今年行う確定申告では適用はできず、来年の確定申告からの適用です(2021年12月31日購入分までの時限立法)。
生計が一緒の家族の市販薬品の購入費をまとめて、家族でもっとも収入が多い1人の所得から控除することができます。ただし、控除を行う本人自身が、予防接種・健康診断等の「一定の取組」を行っていることが条件となります。
なお、セルフメディケーション税制で控除できる市販薬購入費の総額の上限は、「10万円」と決まっています。したがって控除額は、足切りラインの1万2千円を差し引いた8万8千円が上限となります。
また、これまで説明してきたセルフメディケーション税制と、従来からある医療費控除の両方を同時に適用することは認められていません。したがって、いずれを選択したほうが有利か、確定申告の際に判定が必要です。
どちらが有利かは、「医療費控除の対象となる医療費の総額マイナス10万円」と「セルフメディケーション税制の対象となる市販薬購入費の総額マイナス1万2千円」のいずれか大きいほうの金額で判断します。前者が大きければ既存の医療費控除、後者が大きければセルフメディケーション税制を適用するほうが、節税額が多くなり有利です。
いずれが有利になるかの判定は、1年間の医療費・市販薬代を集計してからでないとできません。何度もくどいようですが、病院でもらう領収書、ドラッグストア・薬局でもらうレシートは、なくさずに一年間保管するようにして下さい。