ユダヤ団体がイスラエルを猛批判、「ナチス国家」「ネタニヤフは現代のヒトラー」
イスラエルは、ナチス等による迫害から逃れたユダヤ人が安住の地を求め、建国したユダヤ国家―とりわけ日本も含む西側諸国では、そのような認識が一般的だと言えるでしょう。しかし、世界の国々に暮らすユダヤ人が皆、イスラエルを支持している訳ではないし、イスラエル国内においても、現在のネタニヤフ政権のような、右派・強硬派に異を唱える人々が少なからずいます。中でも、「パレスチナの土地はユダヤ人のもの」というシオニズムに反対するユダヤ人のネットワーク「トーラー・ジュディイズム」のネタニヤフ首相やイスラエルへの批難は、極めて強烈です。
*本記事は「志葉玲ジャーナル-より良い世界のために」から転載したものです。
https://reishiva.theletter.jp/
〇ユダヤ人団体によるイスラエル批判
シオニズムとは、パレスチナの土地はユダヤ人のものであり、ユダヤ人はパレスチナに国を作り暮らすべきだという政治思想で、イスラエル建国の根幹となったものです。他方、イスラエルの対パレスチナ政策、とりわけネタニヤフ政権のような右派・強硬派のそれに批判的な人々からは、シオニズムとは、パレスチナの人々を抑圧したり、殺害したりすることを正当化する政治思想とされているし、実際、それは否定しがたい事実でしょう。
こうした、シオニズムに憤り抗議するのは、パレスチナの人々や彼らを同胞とするアラブ系の人々、イスラム教徒の人々だけではありません。実は、当のユダヤ人の中にも、シオニズムに批判的な人々がいるのです。そうしたユダヤ人による反シオニズムのネットワークの一つ、「トーラー・ジュディイズム」は、その約27万のフォロワーを持つX(旧ツイッター)のアカウントで、イスラエル首相のネタニヤフ氏の訪米について、強烈に批判する投稿を連投しています。例えば、シオニズムに反対する集会の動画と共に、以下のように訴えました。
「アメリカや世界中にはイスラエルとシオニズムに反対するユダヤ人が何十万人もいます」「すべてのユダヤ人がシオニスト*というわけではありません」「イスラエルはユダヤ国家ではなく、ナチス国家です」
*シオニズムを支持する人のこと。
さらに別の投稿では、今月25日に訪米したネタニヤフ首相が米国議会で演説したことについて、「イスラエルのロビー団体は上院議員を金で買収しており、これはアメリカにとって恥ずべき状況です。アメリカ政府は大量虐殺に加担することを選びました」と批判。
また別の投稿では、「ネタニヤフはユダヤ人のリーダーではない」「ネタニヤフは現代のヒトラーです」「彼はジェノサイド(大量虐殺)を行う殺人者。裁判にかけられ、犯したすべての戦争犯罪の償いを受けるべきです」「ネタニヤフを支持することは、大量虐殺とナチスを支持することを意味します」と強烈に批難しています。
〇なぜ、多くのユダヤ人がイスラエルに批判的なのか
この「トーラー・ジュディイズム」程ではないにせよ、シオニズムやイスラエルの右派政権に対し、批判的なユダヤ人の人々には、筆者も取材の中で幾度も会ったことがあります。その経験から言えば、シオニズムやイスラエルの右派政権に批判的なユダヤ人の人々には、大きく分けると以下のような立場や考え方があるようです。
・ユダヤ教を厳格に解釈する、いわゆる超正統派。彼らからすれば、神の意志と力によるのではなく、政治活動でイスラエルを強引に建国したことは、ユダヤ教に反する行為に映る。
・欧米等のイスラエルの外に住むユダヤ人。シオニズムには固執しておらず、普遍的な人権擁護の立場から、イスラエル右派によるパレスチナ占領及び人権侵害や一般市民の殺害に対し、いくらなんでもやりすぎだと感じている。
・イスラエル国民として同国に暮らすユダヤ人。イスラエルの国家としての存在は認めてほしいが、中東和平を支持し、それを破壊しようとするイスラエルの右派政権に対し、批判的。
総じて、上述のような立場・考え方のユダヤ人の人々は、ネタニヤフ首相らのような右派・強硬派がイスラエル全体あるいはユダヤ人全体を代表しているかのように自らの主張を語ることに、強い嫌悪感を持っています。そして、ネタニヤフ首相らがガザ攻撃等で、国際法・国際人道法に反するイスラエルの行為について批判に対し、「反ユダヤ主義」と問題をすり替えて批判を封じることにも、上述のようなユダヤ人の人々は憤っているのです。ユダヤ人による反戦運動のスローガン、「not in our name」には、イスラエル右派・強硬派のやることにユダヤの名を使うな、という怒りが込められています。
〇シオニズムとバイデン政権
このような平和を求めるユダヤ人当事者の声に耳を貸さず、欧米諸国、とりわけ米国がイスラエルの右派・強硬派を支持・支援してきた理由として、やはりシオニズム系のロビー団体や大口献金者に「買収」されてきたということは少なからずあるのでしょう。
直近の事例で言えば、米国のバイデン大統領は、ガザ攻撃で現地市民の犠牲を拡大させているとして、米国産の大型・中型爆弾のイスラエルへの移転を今年5月に一時停止したものの、今月に入って500ポンド(約227キログラム)爆弾の移転を再開しました。これに関して、米ニュースサイト「アクシオス」によれば、シオニストの大富豪で、バイデン陣営に多額の献金をしてきたハイム・サバン氏が、イスラエルへの兵器移転の一時停止についてバイデン大統領に抗議したとのことです(関連記事)。サバン氏の圧力が実際にどこまでバイデン大統領の判断に影響したかは明確ではないものの、ガザの一般市民の避難所となっている国連の学校にもイスラエル軍が攻撃し、それらの攻撃にも米国産の爆弾が使われている中で、米国産爆弾の移転再開を決めたバイデン大統領の責任は極めて重いと言えます。
他方、イスラエルのガザ攻撃への支持・支援は、バイデン大統領の大統領再選を断念させる一つの要因になりました。確かに再選断念の一番の大きな理由は、バイデン氏の高齢とそれによる衰えですが、それだけではなく、バイデン大統領がガザ攻撃の支持・支援によって、特にリベラルな若者達の支持を失った影響もあるのです。こうした若者層からの支持は前回の大統領選で、バイデン大統領が勝利した要因の一つであっただけに、イスラエルの右派政権に過剰に肩入れした代償は大きかったと言えるでしょう。
〇欧米は平和を求めるユダヤ人の声を聞け
冒頭にも書いたように、欧米、とりわけドイツがイスラエル支持を「国是」とする背景には、かつてのユダヤ人迫害への罪悪感、贖罪的な意識があります。しかし、人権侵害や虐殺を真に反省するならば、国際法/国際人道法を重んじなくてはならないし、当然ながら、国際法/国際人道法は特定の国や民族という理由で無視することが許されるものではありません。戦争犯罪に憤るユダヤ人の真っ当な声に、米国はじめ西側諸国の政府関係者は耳を傾けるべきです。
(了)