10年国債のリオープン方式について
6月14日に開催された国債市場特別参加者会合と国債投資家懇談会の議事要旨が17日に発表された。そのなかで財務省から「10年債のリオープン方式について」との提示があった。財務省による発表は下記の通り。
「日本銀行の金融緩和を受けて、今後、銘柄によっては、流動性が低下することも懸念されることから、1銘柄当たりの発行量を十分確保するため、市場実勢にかかわらずクーポンを同一として、強制的にリオープン発行することの是非を検討してはどうかと考えている。また、10年債の強制リオープンの是非を検討しているのは、将来のチーペストとなり得る銘柄の流動性を懸念するためである。」
現在、10年国債の発行は毎月行われており、クーポン(利率)は入札日当日の朝方の実勢利回りに応じて財務省が決定している。つまり実勢利回りに近い利率となることで、発行価格は100円に近いものとなる。利率が実勢利回りと乖離すれば、その分が価格に影響してくる。
現在の10年国債は償還日が四半期に一度に統一されている。3月、6月、9月、12月である。たとえば3月、4月、5月に発行される10年国債はすべて10年後の3月に償還される。償還日が同じで、利率も同じとなると同一銘柄としてまとめられる。これがリオープンと呼ばれる発行となり、2013年3月と4月の10年国債は利率が0.6%と同じであったために同一銘柄となった。償還日や利率が異なると回号が異なり、同じ10年債でも別な銘柄として売買されることになる。
財務省からは、日銀の異次元緩和による国債買い入れによる流動性低下の問題が浮上したことに加え、長期国債先物の価格に影響を与えるチーペストと呼ばれる残存7年国債の厚みを事前に確保するために、同一の償還日のものは利率を統一して3つまとめてひとつの銘柄として発行するというものである。これについて財務省はすでにヒアリングをかけており、賛成・反対の両意見が出ていた。
「事前に意見を聞いた際には、賛成・反対が分かれた。賛成の立場からの主な意見としては、足元のボラティリティの上昇やレポレートの高止まりを受けて、強制リオープン方式は流動性確保に資するというもの。他方、反対の立場からの意見としては、簿価分散の観点や100円に近い価格で購入できることの魅力を挙げられた。このほか、強制リオープンは他の年限にも必要であるとする意見や需給がタイトになった場合には流動性供給入札を工夫することで対応できるといった意見もあった。」
個人的には実勢に応じた毎月の利率設定も必要かなと思いながらも、将来も見据えての流動性を考慮すれば銘柄統一は行った方が良いと思う。ここでは主に反対者の意見をピックアップしてみたい。
「5年債及び10年債の安定消化を支えてきたのは国内預金系金融機関であり、同金融機関にとっては、強制リオープンによる簿価通算が、新たな投資機会の制限になり得る。例えば、相場下落局面においては、リオープン債購入により簿価が下落し、購入した瞬間に評価損が生じることとなり、反対に、相場上昇局面においては、リオープン債購入により評価益状態にある簿価を上げてしまう。」
これは金融機関の投資行動に影響を与えかねない面であり、この点には注意が必要か。 「最終投資家の投資行動を踏まえると、銘柄数が多い方が国債市場の安定に資するため、他の方法を考えるべきである。」
その投資家からはこんな意見も出ていた。
「日本国債の銘柄数は他国に比べても多いと考えており、これ以上銘柄数を増やすよりは、銘柄数をまとめて1銘柄当たりの流動性向上を図ったほうがよいと考える。」
流動性からは選択肢の豊富さで銘柄数が多いほうが売買しやすい面もあるものの、発行量の面からは絞り込んだ方が売買しやすい面もある。10年債だけではなく20年債も含めて検討してはどうかとの意見も多くみられた。これらを踏まえ、財務省は以下の提案を行った。
7月以降の入札において、
1、20年債については、簿価分散のニーズも限定的であったということで、完全なリオープン方式、すなわち3か月間同じ銘柄で通す形とする。
2、10年債については、今後はクーポンが0.1%動く場合でも新銘柄とはせず、リオープンとし、0.2%以上動いた場合は新銘柄にする。
3、2年債、 5年債については、もともと月々の発行ロットが大きいため、現状維持とする。
「この10年債のリオープン方式については、6月償還の7月、8月の入札について実施することとしたい。9月は償還が3か月延長されることからいずれにしても新発債となる。10月以降のリオープン方式については、7月、8月の状況を見ながら、そして9月の国債市場特別参加者会合及び国債投資家懇談会において議論させていただきたい。」(財務省)
上記のように発行方法が変更されるようである。国債市場そのものには大きな影響を与えるものではないが、念のためにチェックしておきたい。しかし、日銀の異次元緩和はこのようなところにも影響を与えつつあるのかと、あらためて感じた次第でもある。