「私じゃなくてもいいんじゃないの?」と不安を口にしたら、婚約が壊れました~スナック大宮問答集72~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***ユカさん(仮名。独身、37歳)との対話***
同世代の友だちは子育て中。男女関係の悩みは共感してもらいにくい
――僕のメールマガジンに登録してくれた際、「都内に住む、婚約破棄になってからスナックにハマった者です」という自己紹介文に笑いました。そのままスナックのママになれそうな経歴ですね。
ありがとうございます(笑)。今年2月に婚約破棄になってからしばらく落ち込んでいました。スナック通いで癒されてようやく前向きになってきたので、友だちの紹介でもなくて婚活パーティーでもない場にも出てみようと思ったんです。スナック大宮にも参加させてもらいました。
――30人弱での飲み会でしたが楽しめましたか?
はい。年齢層は思ったよりも高めだったのですが、みなさん話しやすかったです。バツイチで恋人や結婚相手を探している方もいて、私の話も聞いてもらいました。この年齢になると、同世代の友だちは子育て中だったりして、恋愛の話には共感してもらいにくくなっています。スナック大宮のような集まりは貴重です。
裏表がない性格の彼。自分への愛情の有無を聞いたら素直過ぎる答えが返って来た
――婚約が破棄になってしまった経緯を聞いてもいいですか?
相手は同じ会社に勤める、年次が1つ下の後輩です。去年の1月に転勤で東京に来たときに同期から紹介してもらい、付き合うようになりました。去年の夏ごろまでは順調で、結婚の話もとんとん拍子で進んでいたのですが、私がマリッジブルーになってしまったんです。
――最初はユカさんのほうが結婚に躊躇したのですね。
彼からの愛情が感じにくく、この先の結婚生活に自信がなくなってしまいました。裏表がない性格が好きだったのですが、不安になって「結婚相手は私じゃなくてもいいんじゃないの?」と聞いたら、「誰かと比べたわけじゃないからわからないけど」なんて余計な前置きをするんです。そんな本心は聞きたくありませんでした。
――うーん。ユカさんの質問も愚かだし、彼の答えもアホですね……。
私は面倒臭い性格だと自覚しています(笑)。32歳ぐらいから婚活を真剣にやっていましたが、交際をしても「この人は違う」と思ったら短いターンで次に進んでいました。
彼との関係は順調だったし、私のことを大事にしてくれなかったわけでもありません。結婚に関しては彼のほうが腹が決まっていたと思います。きっと、私のほうが彼を好き過ぎて、気持ちがぐちゃぐちゃになってしまいました。
土下座をする勢いで謝った日々。でも、一度崩れた信頼関係はもとに戻らなかった
――人間臭くていいですね! でも、出会ってから1年も経っていない相手の愛情を試すような質問はしてはいけないと思います。
その通りですね……。彼と出会ってからは「次はない」という覚悟で結婚生活に飛び込もうと思っていたのですが、「結婚してからうまくいかなかったらどうしよう」という不安が出て来てしまいました。
去年の秋に入籍するつもりでした。でも、私が「結婚が怖い」と言い出して延期になり、信頼関係が崩れてしまったんです。その後は土下座する勢いで彼に謝ってよりを戻したこともありましたが、今年になってから「距離を置きたい」「時間をくれ」と言われるようになりました。
――嫌な予感がしますね。
私のせいなので信頼関係が戻るまで時間がかかるのは仕方ありません。でも、2人の関係なので一緒に悩みたいと伝えたところ、「他に好きな人がいる」という言葉が出てきたのです。そのときの私の感想は「やっぱり」でした。二股をかけられていたわけではありませんが、私と出会う前から知っていた同僚のことが気になっていると聞いて諦める気持ちになりました。
――また同僚ですか。いろいろある会社だな……。それから半年間は婚活はせずに飲み歩いているわけですね。
結婚のために貯めたお金は、エステ代などではなく、すべて飲み代に使っています(笑)。男友だちに連れて行ってもらったスナックが2軒ともめちゃ楽しい!
私はスナックを「アットホームなキャバクラ」のように想像していましたが、店によっては全然違うんですね。オネエのママがいるお店での会話が特に楽しくて、ママからは「こんなところで飲んでいて時間がもったいないわよ、バカ!」なんて叱ってもらっています(笑)。他のお客さんたちとのあと腐れのない関係も好きです。おかげでだいぶ元気になって今に至ります。
*****
失敗を認めて「私ってバカだよね」と笑いのネタにしていると今よりは強くなれる
以上がユカさんとの対話だ。婚約破棄になった相手には本命の彼女がいた、と思えば「やっぱり! 結婚しなくてよかった」と納得がいきやすい。しかし、それでは疑心暗鬼になりがちなユカさんの今後に生かされない。「ご縁を信じて結婚しておけば愛情をゆっくり深められたはずなのに」とちゃんと後悔したほうが良いと思う。
愛情や何でも話し合えるような関係性は時間をかけて育てるものであり、夫婦になってからでも一定の努力と緊張感は必要だ。親しき仲にも礼儀あり。「あなたの相手は私じゃなくてもいいんじゃないの?」などという質問は相手を縛ろうとするもので、かえってその心を離してしまうことを肝に銘じておくべきだと思う。
結婚資金をエステ代ではなく楽しい飲み代に使っている、という話は興味深い。本当に辛い時期はひとりでやり過ごすしかないけれど、心の傷が少し癒えてきたら温かみのある酒場で「あと腐れのない関係」の他人に話してみるのは良いと思う。「私ってバカだよね」と笑い合っているうちに客観的に自分を見つめられるようになり、もう一度前を向けるようになったりする。失敗や弱みは隠さずに笑いのネタにすると、今よりは強くなれるかもしれない。