【アベンジャーズと共演した日本特撮ヒーローは誰?】米国市場で展開されたウルトラマンの活躍と再生とは?
みなさま、こんにちは!
文学博士の二重作昌満(ふたえさく まさみつ)です。
特撮を活用した観光「特撮ツーリズム」の博士論文を執筆し、大学より「博士号(文学)」を授与された後、国内の学術学会や国際会議にて、日々活動をさせて頂いております。
さて11月も中旬を迎え、気温の高低差が激しい日々が続きますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか?
今回のお話のテーマは「アメリカ」です。
突然ですが、みなさまはアメリカと聞くとどのようなイメージを思い浮かべますか?
広大な国土、息を呑むような大自然、銃社会、ボリューミー、ハリウッド、ディズニー・・・
ブレインストーミング式に連想してみると、良くも悪くも様々なイメージが自由に思い浮かぶかと思います。
「お前はどうなの?」と聞かれると、私が思い浮かべるのは、国立公園、テーマパーク、ハワイ、博物館、映画・・・等でした。
私事ですが、学生時代に研修やプライベートで度々アメリカ本土を訪れながら、イエローストーン国立公園内の巡検のほか、フロリダ州のウォルトディズニーワールド内のバックステージ内(パーク従業員=キャストさんが働く裏方)を度々見学しつつ、現地のパーク事情を学ぶ機会がありましたほか・・・
幼少期から現在にかけてハワイでよくロングステイをしていたので、現地での生活やアクティビティ、お買い物事情(特にクリスマスや年末の玩具商戦等)にも触れてきた故、本土やハワイでの思い出を辿りながら、これらのイメージを連想していました。
さてさてそんな多種多様なイメージの浮かぶ広大なアメリカですが、日本からたくさんの人々が観光やビジネス、留学等の目的で現地に訪れている傍ら、ハローキティやピカチュウ、さらにはスーパーマリオ等、我が国を代表するたくさんのキャラクターが進出しており、現地の日常生活に溶け込んでいます。
写真のように、フロリダ州のウォルトディズニーワールド内のエプコットセンターでは、ディズニー施設内にも関わらず日本のキャラクターグッズが販売されていたり、ハワイでは仮面ライダーのTシャツが販売されたりしていたんですよ。
さてさて・・・そんな数あるキャラクター達の中で、今回焦点を当てるのはアメリカの「ウルトラマン」。
仮面ライダーやスーパー戦隊シリーズと並び、日本を代表するスーパーヒーローであるウルトラマンが、どのようにアメリカに溶け込んできたのか、本記事では概要的にお話ししていきたいと思います。
※本記事は「私、アニメや特撮にくわしくないわ」「ウルトラマンを観たことがないわ」という方にもご覧頂けますよう、可能な限り概要的にお話をしておりますので、ゆっくり肩の力を抜いて、気軽にお楽しみ頂けたらと思います。
【米国本土からハワイまで!】日本から流星のスピードでやって来たウルトラマン達の活躍とは?
さてここから、アメリカでのウルトラマンの展開について後述していきますが、本題に入る前に少しだけウルトラマンシリーズについて概説をさせて頂けたらと思います。
ウルトラマンシリーズは、株式会社円谷プロダクション制作の特撮ヒーロー番組『ウルトラマン(1966)』(及び特撮怪獣番組『ウルトラQ(1966)』)を起点とする特撮シリーズです。
『ウルトラマン(1966)』は全編カラー作品として制作され、オレンジ色の衣装に身を包んだ科学特捜隊のハヤタ隊員が、宇宙からやってきた銀色の超人・ウルトラマンとなって怪獣や宇宙人達から地球の平和を守る内容で、国内で放映されました。
身長40mの銀色の巨人(ウルトラマン)が巨大な怪獣と戦い、最後は必殺光線(スペシウム光線)で怪獣を退治するという物語はたちまち子ども達の心を掴み、最高視聴率42.8%、平均視聴率36.8%を記録する大人気番組となりました。
大好評だった『ウルトラマン(1966)』の放送終了後は、『ウルトラセブン(1967)』や『帰ってきたウルトラマン(1971)』、『ウルトラマンタロウ(1973)』や『ウルトラマンティガ(1996)』等、現在まで派生作品が制作され続けており、現在は最新作『ウルトラマンブレーザー(2023)』が放送されています。
さて、そんな国民的ヒーローともいえる『ウルトラマン(1966)』は、1966年にアメリカでも放送が開始されました。実はこの『ウルトラマン』がアメリカ各地で放送されるようになった背景のひとつには、アメリカがテレビ業界のカラー化を急速に推進していた事情がありました。
アメリカでは『ウルトラマン(1966)』が放送される以前、1956年に東宝特撮怪獣映画『ゴジラ(英語圏公開版タイトル:Godzilla:King of Monsters)』が米国本土で公開され大ヒットを記録したほか、米国でのゴジラシリーズの商業的な成功に続けとばかりに、大映制作の特撮怪獣映画『ガメラ(英語圏公開版タイトル:GAMERA THE INVINCIBLE)』が1966年に公開される等、上記のゴジラシリーズやガメラシリーズをはじめとする日本産の怪獣映画が次々と米国へ輸入されていました。
そんな中、ゴジラシリーズの特技監督として手腕を振るった「世界のツブラヤ」こと円谷英二監督(現・円谷プロダクション創業者)が監修を務めた『ウルトラマン』は、銀色の超人と色彩豊かな怪獣達が戦うカラー特撮作品。カラー放送を推進したいアメリカにとって大変魅力的に映ったわけです。
その結果、『ウルトラマン』はアメリカのユナイト社(現:United Artists Digital Studios)が商品化権込みで購入され、アメリカ各地で放映されるようになり、その後はアメリカ以外の国々でも放送されるようになりました。
また作品放送と共に、怪獣人形を筆頭とする商品展開もアメリカにおいて実践されました。その中でも特に希有な事例だったのが、日系人の方が多いハワイ州。ハワイではウルトラマンシリーズ第2作『ウルトラセブン』が1975年に放送されていました。
番組そのものはウルトラセブン本編を英語音声にし、主題歌は「およげ!たいやきくん」でお馴染みの子門真人さんが歌った内容でした。(※当時ハワイで放送された外国の番組は吹き替えが主流でした。)
番組の放送開始に併せ、州都ホノルルがあるオアフ島内、ワイキキシェルではウルトラセブンショーが開催された他(1975年7月開催、入場料は当時価格で2ドル)、「ULTRA 7 SEVEN CLUB」という会員証もあったのだとか(※資料が非常に少ないため、どういった用途なのか未だ不明ですが、当時の写真を拝見する限りはたくさんの子ども達の集客に成功していたようです)。
そんな中、番組放送やショーの開始と共に、ハワイ州ではウルトラマンシリーズの怪獣人形も発売されていました。しかも、「ハワイカラー」と呼ばれる独自の彩色を人形に施し、現地の子ども達の手に渡っていたのです。
【文化の中を走り抜けて♪】「変装」するウルトラマンから青い瞳のウルトラマンまで!アメリカ版ウルトラマン誕生までの試行錯誤とは?
上述してきたように、1960年代から1970年代にかけて、ウルトラマンやウルトラセブンはアメリカへと輸出され人気を博しますが、やがてその潮流は「外国でウルトラマンをつくろう!」という形に変化を遂げていくようになります。
そこで1981年に、ウルトラマンシリーズ初のアメリカ人作家(ダン・グレート氏)による日米合作映画『ウルトラマンU・S・A ULTRAMAN HERO FROM THE STARS』(1981年7月7日 第一稿)と呼ばれる企画が誕生しました。
本作の物語は、ウルトラマン達の故郷「M78星雲・光の国」の中にあるウルトラ宮殿にて、(地球人換算で)二十代半ばの青年ボルカンが、ウルトラの父よりウルトラマンに変身するためのユニフォームと武器(短剣)を与えられ、地球を守る任を与えられるというもの。
つまり、スーパーマンやバットマンのように、奇抜なコスチュームを身に纏って「変装」するウルトラマンという形で描写される予定だったのです。私達日本人の感覚では、ウルトラマンは人間が、まるで神のようなスーパーヒーローに「変身」するものという認識が強いですが、アメリカでは当初、人間が変装する認識でウルトラマンを捉えていたのです。
ボルカンは人間の姿(ロジャー)で地球に留まるも、いざ怪獣が出現したらユニフォームを身に纏って巨大化し(地球人からは「あの仮面の男」とマスク呼ばわり)、片手をヘルメットに内蔵されたイヤホーンにつけて連絡をとるなど、ウルトラマンのあの容姿はユニフォームやヘルメットだと描写している点が特徴でした。
日本人の視点から見れば、どうも違和感というか、イマイチ把捉するのが難しいこのストーリー、残念ながら実現には至りませんでした。
その後、ウルトラマンの著作元である円谷プロとアメリカのアニメ制作会社ハンナ・バーベラ・プロダクション(『トムとジェリー』の会社です)の提携で、1987年に『ウルトラマンUSA(英題:ULTRAMAN THE ADVENTURE BEGINS)』という、米国内でのテレビ放送を視野とした新作映画が制作されることになりました。
『ウルトラマンUSA』の物語は、M78星雲の惑星ソーキンからやって来た怪獣達(ソーキン・モンスター)がアメリカ各地に出現し、それを追ってやって来た3人のウルトラマンがアメリカ空軍の隊員達と一心同体となって、怪獣達から地球を守るというお話。本作の特徴は、女性を含めた3人のウルトラマンが1つのチームとなって地球を守る描写はもちろん、ウルトラマンシリーズ初のキスシーン(主人公のスコット【ウルトラマンスコット】とスーザン)が導入されたのも特徴でした。
『ウルトラマンUSA』がいざ米国で放送されると、視聴率は好評だったようで、同時期の子ども向け映画としては第3位の高視聴率を記録しました。しかしながら本作の制作に至るまで、やはり日本とアメリカの両国家間における文化的違いがいくつか発生しており、その中の1つがウルトラマンそのもののデザインにありました。
というのも・・・アメリカサイドがデザインしたウルトラマンのデザインは、スパイダーマンやスーパーマンを彷彿させるものだったようです。スーパーマンのように胸に象徴的なロゴを抱げ、マントを棚引かせながら空を飛ぶのが、いわばアメリカンヒーローのステレオタイプ(2004年に公開されたディズニー・ピクサー映画『Mr.インクレディブル』では自虐的にマント付きヒーローを揶揄した描写が見受けられましたが・・・)。
「マント無しで、どうしてヒーローは空を飛ぶのだ?」とアメリカ人のヒーローに対するデザインの認識が日本と異なっていたのです。そこで、日本側のデザイナーが再度手を加え、アメリカに送る作業が何度も行なわれたのだとか。
文化の相違はありつつも好評を得た『ウルトラマンUSA』に続き、円谷プロはさらなる外国製のウルトラマンシリーズの制作に着手します。その次回作はアメリカではなく、1990年にオーストラリアと合作した実写特撮作品『ウルトラマングレート(英語タイトル:ULTRAMAN: towards the future)』でした。
『ウルトラマングレート(1990)』は、宇宙に生きる全生命と同化することで、宇宙そのものの支配を企む邪悪生命体ゴーデスが生み出す怪獣達から地球を守るため、M78星雲「光の国」からやってきたウルトラマングレートがオーストラリアを舞台に怪獣達と物語。オーストラリア現地キャストがレギュラー出演した本作はアメリカのケーブルネットワークでも1992年に放送されました。すると、ケーブルネットという限定された範囲での放送にも関わらず、先述した初代『ウルトラマン(1966)』以上の高視聴率の獲得に成功したそうです。
このような段階的な成功を経て、いよいよハリウッド制作の日米合作『ウルトラマンパワード』が1993年に制作されることとなりました。本作は、宇宙の星々を滅ぼしてきた邪悪な宇宙忍者バルタン星人を追って、M78星雲「光の国」からやって来た銀色の追跡者、ウルトラマンパワードが怪獣や凶悪な宇宙人達から地球を守る物語。前述した『ウルトラマンUSA』では、アニメ作品故にウルトラマンそのもののデザインに試行錯誤が見受けられたのに対し、主人公・ウルトラマンパワードは初代ウルトラマンのデザインに酷似しつつも、青い目(気力が高まると赤くなる)や鋭利なパーツといった個性的な特徴がウルトラマンに導入されたほか、パワードと対峙する怪獣達(パワードモンスター)は初代『ウルトラマン(1966)』に登場した怪獣達がリメイクされ、広大なアメリカに相応しい重量級かつパワフルなデザインへと生まれ変わりました。
上述した『ウルトラマンパワード(1993)』終了後、残念ながらアメリカでのウルトラマンシリーズの制作は約30年近くに渡り途絶えることとなります。ところが2020年以降、アメリカでのウルトラマンの活躍は少しずつ活性化するようになり、その躍進はスパイダーマンやアイアンマンといった現地のヒーロー達をも巻き込むことになります。
【アメリカにウルトラマン達がアッセンブル?】ウルトラマンとアベンジャーズが織りなす夢のコラボレーション企画とは?
上述した『ウルトラマンパワード(1993)』、しばらくアメリカでの際立った活躍は確認できなかったウルトラマンシリーズですが(とはいえ完全に途絶えたわけでなく、写真のようなウルトラハワイを筆頭とする現地イベント等は開催されていました)、現在に至るまで少しずつ、アメリカでのウルトラマンシリーズの展開は再始動の一途を辿ることになります。
ことの始まりは2019年。同年11月に開催されたポップカルチャーの祭典「東京コミコン 2019」のマーベルステージに登場した、マーベル・コミックス編集長のC.B.セブルスキー氏によって、マーベル・エンタテイメントと円谷プロダクションが、2020年に新たなウルトラマンの物語をコミック形式で出版することが発表されました。
その結果、2020年に刊行されたのが、国民的特撮ヒーロー番組である『ウルトラマン』の世界観をコミック化した『THE RISE OF ULTRAMAN』。全5話で編成されたミニシリーズですが、その後も『THE TRIALS OF ULTRAMAN』、『THE MYSTERY OF ULTRA SEVEN』と次々に次回作が刊行され、米国をはじめとする世界中のスーパーヒーローファンの心を掴み続けています。
さらに2022年、アメリカ・ロサンゼルスで開催されている世界最大級のアニメイベント「Anime Expo 2022」にて、MARVELコミックス版『ウルトラマン』の世界にMARVELヒーローたちが登場する、「クロスオーバー展開」(外部リンク)がついに実現に向けて企画中であることが明らかにされました。
ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンタロウが見守る中、アイアンマン、キャプテン・マーベル、スパイダーマンら、MARVELのヒーロー達がウルトラ怪獣との戦いに挑む姿が描かれたコンセプトアートも公開された当発表・・・会場からは熱狂的な歓声が上がったそうです。
また上述してきたマーベルとのコラボレーションとは別に、アメリカでは歴代のウルトラマンシリーズの米国市場向けBlu-rayが順調に発売されてきた他、インターネットを介した配信サービス「NETFLIX」では、円谷プロとアメリカのVFX映像会社ILM(Industrial Light & Magic)との共同制作によるCG長編アニメーション『ウルトラマン ライジング(英語タイトル:ULTRAMAN: Rising)』(外部リンク)が2024年より配信予定です。今後の展開が楽しみですね。
いかがでしたか?
今回は、アメリカにおけるウルトラマンシリーズの展開について概説してきました。アメリカではこれまでたくさんの日本産のアニメや特撮作品が現地で発信され、大衆的な支持を獲得し続けてきましたが、ウルトラマンシリーズは米国内で今後どのような立ち位置を獲得していくのか、私も1ファンとして今後の展開に胸を馳せながら見守っていきたいと思います。
最後までご覧頂きまして、誠にありがとうございました。
参考文献
・池田憲章・高橋信之、ウルトラマン対仮面ライダー、株式会社文藝春秋
・青柳宇井郎・赤星政尚、【懐かしのヒーロー】ウルトラマン99の謎、株式会社二見書房
・染谷誓一、ぴあMOOK 円谷ぴあ、ぴあ株式会社
・講談社シリーズMOOK ウルトラ特撮PERFECT vol.37 ウルトラマンゼアス/ウルトラマンUSA、講談社
・講談社シリーズMOOK ウルトラ特撮PERFECT vol.18 ウルトラマンG/ウルトラマンパワード、講談社
・梅中伸介(verb)、用田邦憲・秋田英夫・高木晃彦(noNPolicy)、MAGAZINE HOUSE MOOK 大人のウルトラセブン大図鑑、株式会社マガジンハウス
・田野辺尚人、別冊映画秘宝 特撮秘宝 vol.2、株式会社洋泉社
・歌代沙也香・中島有里子・中澤浩明(セブンオークス・パブリシング)、「pen+ 完全保存版 ゴジラ、再び」、CCCメディアハウス
・尾崎明・黒木武大、「pen+ 増補決定版 ウルトラマンを見よ」、CCCメディアハウス
・秋山哲茂、学年誌ウルトラ伝説、株式会社小学館