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世間が知らないトラックドライバーのポイ捨て問題「街にごみ箱を増やしてもポイ捨ては減らない」

橋本愛喜フリーライター
流通業務地区に大量に捨てられているごみ(東京都大田区平和島:筆者撮影)

これまで「路上駐車をする理由」や「エンジンを切らない理由」など、世間が知らない「トラックドライバーの迷惑行為の裏にある事情」をいくつか説明してきたが、その迷惑行為の中に、裏も表もない「ただの迷惑行為」がある。

「ポイ捨て」だ。

コロナ禍の中、トラックドライバーたちには過去にないほど「感謝」や「激励」の声が送られるようになった。その声を励みにして、日々ハンドルを握るドライバーも少なくない。

しかし、このトラックドライバーによるポイ捨ては、そんな世間からの温かい声をものの見事にゼロにする「業界の悪因子」となっており、「物流支えてくれているのは分かるが、ポイ捨てするから心の底から感謝できない」「結局トラックドライバーは底辺職」とまで言われる原因にもなっている。

大前提に、ポイ捨てをするのはトラックドライバーだけではない。

明け方の繁華街には酒缶やたばこの吸い殻が散乱しているし、一般ドライバーにも、自転車乗りにも、歩行者にも道路にポイ捨てする人は一定数存在する。

しかし、流通業務地区の高架下に大量に捨てられている弁当容器や、高い座席位置からでないと絶対に届かないような場所に、まるでオブジェのように捨て置かれている缶やペットボトルは、トラックドライバーの所業と考えてほぼ間違いない。

そこで本稿では、「トラックドライバーによるポイ捨てが生じる要因」を、自身の経験と現役ドライバーたちの話をもとに考察したい。

車高の高いトラックでないと届かない場所に捨てられている飲料(読者提供)
車高の高いトラックでないと届かない場所に捨てられている飲料(読者提供)

後日、改めて「トラックドライバーの気性」については紹介するが、元々彼らには正義感の強い人が非常に多い。

筆者のもとにはトラックドライバーたちから「さっきポイ捨てしている同業がいた」という目撃情報や、(いいか悪いかはさておき)「ポイ捨ての瞬間の動画や画像を投稿・拡散しておきました」という報告が頻繁にくる。

これらのことから、「トラックドライバー=ポイ捨てする人たち」「道路のポイ捨ては全てトラックドライバーのせい」というようなイメージを世間から持たれるのは本意ではない。

が、先述通り、ポイ捨てをする人の中にトラックドライバーが多く存在していることも事実で、個人的にはこのポイ捨てと、これも後日改めて紹介するトイレ問題(尿入りペットボトル問題)を改善するだけでトラックドライバーの社会的地位は爆上がりすると確信している。

では、どうして世間から悪イメージがつくほどトラックドライバーからポイ捨てする人が出てしまうのか。

それは、一部ドライバーの「モラルの低さ」だけでなく、彼らの「労働環境」と昨今の「社会環境」が、そのモラルの低い一部のドライバーのポイ捨てを助長しているからだと筆者は分析している。1つずつ紹介しよう。

突き出ている鉄の棒に掛けられた缶やごみ袋(読者提供)
突き出ている鉄の棒に掛けられた缶やごみ袋(読者提供)

1.道路にいる時間が長い

トラックドライバーは、絶対的に「道路上にいる時間」が他の道路使用者に比べてはるかに長い。こと長距離ドライバーともなると、1週間もの間、仕事はもとより寝食すら道路の上ですることになる。

つまり、「道路の滞在時間」という分母が大きくなれば、他の道路使用者より「ポイ捨て率」が高くなるのは、当然といえば当然なのだ。

2.車内でコンビニ飯を食べる機会が多い

ポイ捨てされる内容物のほとんどは、「飲食」の際に出るごみだ。

日本においては、駐車場を併設した食堂やレストランが少ないことに加え、荷主のもとで長時間の待機を余儀なくされるため、空いた時間に車内で食事を済ませるトラックドライバーが多い。

そうすると食事は必然的に家から持参した弁当か、コンビニ飯が多くなるのだが、周知のとおり、コンビニ飯は何を買っても必ず最後には「容器」という名のごみが出る。

1の通り、長い滞在時間の中で食事の回数が増えれば、車内のごみはすぐにいっぱいになるのだが、居住空間でもある狭い車内に、かさばり匂いの残るごみを溜めておきたくないと、外に投げ捨ててしまう身勝手なドライバーが一定数存在するのである。

また、コンビニで買ったカップラーメンに車内の湯沸かし器で作った湯を注ぎ食べたはいいが、その汁の処理に困り、容器ごと外に捨ててしまうケースもよく聞く話だ。

3.レジ袋の有料化

去年7月から開始されたレジ袋の有料化。それ以来、トラックドライバーたちは、スーパーで100枚入りのごみ袋を購入するなどして対策している(環境面においてはつくづく意味のない制度だと改めて思うことは、ここでは触れないでおく)。

「レジ袋が有料化になって以降、すぐにごみ袋足りなくなるので、自分で用意して、コンビニやガソリンスタンドなどで捨てるようにしてますね。臭いが出るやつとかは二重にしたりとか小分けにしたりとかします。半日〜1日は車内にごみ置いとく事もあるので」(30代関東海上コンテナ)

ポイ捨ては最近始まった現象ではないため、この有料化でごみ自体が増えた、というわけではないが、一部のトラックドライバーからは「最近、袋に入れられずポイ捨てされている箸や弁当容器が増えた」といった話が聞こえてくる。

実際、某コンビニチェーンの店長も、「大型マスの周辺に袋にさえ入れられていないごみが散乱していることがある。カラスは来るし、風に飛ばされると掃除に時間がかかって困る」という嘆きの声も届いている。

4.ごみ箱がない

日本の街にごみ箱が少ないのは周知の事実だ。

そこへさらにこのコロナ禍でごみ箱を撤去するコンビニが続出。家に帰れない長距離トラックドライバーたちは「ごみ箱難民」と化している。

「コロナの影響もあってごみ箱を撤去するコンビニが増えました。タイミングが悪いと何日も車内に溜まる。同じコンビニチェーンでも、店によってごみ箱があったりなかったり。店内にごみ箱があると思ってゴミ袋抱えて店内に入ってもごみ箱がないこともよくあります」(50代中型資材配送)

また、事業用のごみは処分するのに費用がかかるためか、車庫などに弁当容器を捨てられるごみ箱を設置しない運送会社も一部にはあるようで、運行中に出たごみを家に帰るまで捨てられないケースもあるという。

道路に散乱するごみ(読者提供:イメージ)
道路に散乱するごみ(読者提供:イメージ)

ただ、以前ドライバーに「ポイ捨てをなくすために街のごみ箱は増やした方がいいと思うか」というアンケートを取ったところ、意外にも「必要ない」と答える人が多かった。

「ごみ箱があってもポイ捨てする人はしますから」(40代長距離大型食品系)

「サービスエリア・パーキングエリアには必ずごみ箱が設置されていますが、大型車の駐車マス付近には捨てられたごみを毎日のように見ます。そういう人は結局ごみ箱まで捨てに行くのが面倒くさいだけ。街にごみ箱を増やしてもポイ捨ては絶対に減らないと思います」(30代長距離大型機械運搬)

つまり、ごみ箱にごみを捨てられる人は、そもそもポイ捨てをしないのだ。

そう考えると、ポイ捨てをするトラックドライバーに必要なのは、「ごみ箱」ではなく「モラル」だと言える。

そのモラル形成にはやはり、各運送企業、トラック協会によるドライバーへの指導や啓蒙活動が必要になる。

それぞれ育ってきた環境の違う人間全員に、当然のモラルを守らせるというのは、実はそんなに簡単なことではない。

特にひとりで仕事をする時間の多いトラックドライバーの中には、「誰も見ていないからいいだろう」という気持ちが芽生えてしまう人も残念ながら存在するのだ。

物流センターが立ち並ぶエリアに立てかけられた看板。その奥には大量のごみ(筆者撮影)
物流センターが立ち並ぶエリアに立てかけられた看板。その奥には大量のごみ(筆者撮影)

繰り返しになるが、これらは「トラックドライバーがポイ捨てをする要因の分析」であり、ドライバーがポイ捨てをする言い訳には一切ならない。

筆者のもとにはトラックドライバーだけでなく、ごみ収集員や自治体の清掃員からも意見が届くため、彼らの普段の苦労や思いを聞くたび、個人的には「ポイ捨て」などというポップな言い方をするべきではないと毎度思う。

ごみを路上に捨てることは、れっきとした「不法投棄」なのだ。

「一部の不届き者のせいで、一般の人から『トラックドライバーなんてそんなヤツばかり』というレッテルを貼られている」(40代配車・運行管理者)

「ドライバー不足には多くの原因がありますが、『トラックドライバーになりたい』と思ってもらうためにもこうしたドライバーのモラルの向上は必要不可欠だと思います」(50代運送義企業社長)

「悔しいです。一部のドライバーのせいでトラックドライバー全体のイメージが悪くなる。正直ポイ捨てするドライバーはトラックからすぐ降りてほしい」(30代長距離大型雑貨)

ポイ捨ては他の道路使用者に大きな迷惑になることは間違いない。

が、一部のトラックドライバーの悪マナーによってイメージがくくられ、世間から冷たい目で見られながら自身もその汚れた道路や駐車マスを使用せねばならない現状に鑑みると、「常識」を守る同業のトラックドライバーたちこそ一番の被害者なのかもしれないと、彼らから送られるメッセージを見るたびに思うのだ。

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フリーライター

フリーライター。大阪府生まれ。元工場経営者、トラックドライバー、日本語教師。ブルーカラーの労働環境、災害対策、文化差異、ジェンダー、差別などに関する社会問題を中心に執筆・講演などを行っている。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。メディア研究

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