7人の男が「妻殺し」に走った北朝鮮“国境の町”の惨劇
鴨緑江を挟んで中国と向かい合う北朝鮮の両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)。コロナ前まで密輸で賑わっていた人口約19万のこの都市で、たった1カ月間に夫が妻を殺害したり未遂に終わる事件が7件も起きた。国境の町で一体何が起きているのか。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
現地の情報筋によると、たとえば先月22日、市内の松峰(ソンボン)2洞では次のような事件が起きた。
同地区を管轄する安全員(警察官)がバイクに乗って走っていたところ、町内に住む女性が乗っていた自転車に衝突する事故を起こした。女性は無事だったが、自転車が破損。安全員は女性に、事故の賠償金代わりに「ネゴヒャン」ブランドのタバコ2カートンを渡した。中東にも輸出されている高級タバコだ。
2人がやり取りしているところを見た妻の夫は、不倫をしていると思い込み、喧嘩になった末に、妻を殺害してしまった。
また同月15日には城後洞(ソンフドン)でも、40代中頃の男性が、妻と喧嘩になって斧を振り回し、殺害する事件が起きた。男性は自ら命を絶とうとしたが、一命を取りとめた。
それだけではない。
別の情報筋によると、市内の恵江洞(ヘガンドン)では先月31日、夫がノコギリを振り回して妻を殺害しようとした容疑で逮捕された。妻は顔と腹部に大怪我を負いつつも、傷を押さえながら自分の足で恵山市人民病院に駆け込んだ。幸い、病院までの距離が近かったこともあって、妻は一命を取りとめた。
事件の発端はカネだ。夫は大工仕事、妻は自転車のタイヤ販売で生計を立てていたが、夫が稼いだカネ2000元(約4万円)を騙し取られてしまった。裕福でない夫婦にとって2000元はかなりの大金だ。そのことに激怒した夫が暴言を吐き、凶行に及んだというものだ。
血を流しながら病院に駆け込む妻の姿は多くの人に目撃され、市民の間にショックが広がった。また、女性の顔を傷つけ、一生消えない傷を作ったと、市民は夫を激しく非難している。
詳細は伝えられていないものの、これらのほかに4件もの殺人(および未遂)が発生したというが、多発する事件に共通するのは不倫とカネだ。
(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに)
北朝鮮では、なし崩し的な市場経済化に伴い、必ずしも職場に所属する必要がなく、自由に商売のできる女性が現金収入を得て、一家を経済的に支えていることが多い。家庭内における経済的地位は上昇したものの、社会的地位は低いままだ。
家父長制的な意識を捨てられずにいる男性だが、一家の稼ぎ頭は女性になったのに、意識の変化がついていっていない。
また、当局のジェンダー観も旧態依然としたもので、社会の変化に全くついていけておらず、女性に「社会主義の良妻像」を押し付け、それが男性に「妻は夫の所有物」という意識を助長してしまう。
さらにはコロナ鎖国で密輸ができなくなってしまったことで、経済難と食糧難が深刻化し、皆が明日をも知れない苦しい生活を強いられている。これら事件の背景には、当局の失政があると言っても決して過言ではないだろう。