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「SNSはアルゴリズム見直せ」コロナデマ拡散で衛生トップが勧告

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

プラットフォームが積極的な対策を取るのを待ってはいられない。コロナデマを抑制するように、アルゴリズムを見直せ――。

米公衆衛生総監のビベック・マーシー氏は7月15日、ホワイトハウスで記者会見を行い、ワクチンの誤情報を含む新型コロナウイルス誤情報は、「公衆衛生への差し迫った脅威」であるとして、対策強化の勧告を発表した。

マーシー氏は「誤情報が命を犠牲にした」と断じ、特に強調したのがソーシャルメディアなどのプラットフォームの対策強化だ。

「フィルターバブル」と呼ばれる情報のタコツボ化の問題を指摘し、コンテンツ表示のアルゴリズムの見直しにまで踏み込んでいる。

背景には、ワクチン接種の進み具合が鈍化していることがあるようだ。

コロナワクチンの誤情報対策をめぐっては、日本でも7月15日に専門家らが登壇したシンポジウムが開催されたところだ。

これは、日本と地続きの問題でもある。

●「命のかかった対策」

誤情報は、拡散のスピードと規模を劇的に増加させている。プラットフォームがその一端を担っているのは、ご存じの通りだ。だからこそ本日の勧告で、我々は対策強化を求めた。プラットフォームがいくつかの誤情報対策を取っていることは承知している。だが、さらにもっともっと対策が必要だ。しかも、プラットフォームが積極的な対策に乗り出すのをこれ以上待っているわけにはいかない。人々の命がかかっているのだから。

オバマ政権でも公衆衛生総監を務めたマーシー氏は7月15日、報道官のジェン・サキ氏とともに行ったホワイトハウスの記者会見で、こう述べている

プラットフォームは、意図的な誤情報(すなわち偽情報)を拡散しようとする人々が、桁外れの規模の人々にリーチすることを可能にした。

「いいね」ボタンなどの機能を備えることで、正確なコンテンツではなく、感情をかき立てるようなコンテンツを共有することに対して、見返りを与えている。さらにそのアルゴリズムは、よりクリックされそうなコンテンツを表示し、誤情報の井戸の深みへどんどんと引きずり込むのだ。

そして、この日発表した公衆衛生総監勧告書は「公衆衛生への差し迫った脅威」に対してのみ発出される、とマーシー氏。

「健康誤情報に立ち向かう」と題した22ページの勧告書では、新型コロナにまつわる誤情報への対策として、「個人・家族・地域」「教育関係者・教育機関」「医療関係者・医療機関」「ジャーナリスト・報道機関」「プラットフォーム」「研究者・研究機関」「資金提供者・資金提供団体」「政府」のそれぞれが取り組むべき内容を整理している。

中でも目を引くのが、プラットフォームへの勧告内容だ。

●アルゴリズムと誤情報

プロダクトとプラットフォームによる便益と危害を評価し、危害への対策に取り組む責任を担うこと。特に、プロダクトの改修を含む、誤情報対策に長期的で本格的な投資を行うこと。コンテンツ推薦のアルゴリズムを再設計し、誤情報の増幅を避けること。忠告や警告といった"フリクション(摩擦)"を盛り込むことで、誤情報の共有を減らすこと。そして、ユーザーが誤情報を報告しやすくすること。

マーシー氏がホワイトハウスの会見でも指摘したように、プラットフォームのアルゴリズムによるコンテンツの表示は、誤情報のタコツボにはまってしまう「フィルターバブル」の危険性がかねてから指摘されてきた。

勧告では、まさにそのアルゴリズムも問題を真っ先に取り上げ、「再設計」を求めている。

さらに、勧告は"フリクション"という表現でプラットフォーム上の情報の「減速」の取り組みも求めている。

これは、2020年米大統領選で、トランプ前大統領らによって「不正選挙」という根拠のない主張が氾濫したことをきっかけに、ツイッターなどが投稿の共有に必要な操作手順を増やすなどして、ユーザーによる条件反射的な拡散を防いだ対策が念頭にある。

ツイッターでは現在も、ユーザーがリンク先の記事を読まないで共有しようとすると、「まず記事を読んでみませんか」という表示を出すなど、一定の「減速」を担保している。

※参照:FacebookとTwitterがSNSをあえて「遅く」する(11/08/2020 新聞紙学的

勧告が指摘するのは、このほかに、「研究者へのデータ公開」「誤情報のモニタリング強化」「誤情報の"スーパースプレッダー"の検知強化」「誤情報対策の効果の評価」「情報不足への対処」「公的機関・専門家からのコミュニケーションの促進」の6項目だ。

「誤情報のモニタリング強化」の必要性をめぐっては、インペリアル・カレッジ・ロンドン、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院などの研究チームが2021年2月に「ネイチャー・ヒューマン・ビヘイビア」で発表した調査で、新型コロナの誤情報に接することにより、ワクチン接種への意図が低下するとの結果が示されている。

また「誤情報の"スーパースプレッダー"の検知強化」をめぐっては、米英に拠点を置くNPO「デジタルヘイト対策センター(CCDH)」が3月にまとめたレポートで、ソーシャルメディアで拡散する反ワクチンのプロパガンダの65%は、わずか12の個人に行き着く、との実態を指摘している。

●「タバコ」としてのソーシャルメディア

フェイスブックなどのプラットフォームに新型コロナの誤情報対策強化を求める声は、すでに州のレベルでは上がっていた。

ワシントンDCの司法長官は6月、フェイスブックに対してコロナワクチンをめぐる誤情報対策に関する文書の提出を命じている。

さらにこれに先立つ3月には、コネチカット州など13州の司法長官の連名で、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏とツイッターCEOのジャック・ドーシー氏に対し、やはりコロナワクチンの誤情報対策強化を求める公開書簡を送っている。

※参照:コロナワクチンのデマ対策、Facebookに司法長官が問いただす(07/04/2021 新聞紙学的

この勧告をめぐり、ハーバード大学ショーレンスタインセンターのリサーチディレクター、のジョーン・ドノバン氏らは、NBCニュースへの寄稿で、「(ソーシャルメディアの問題は)深刻な消費者保護問題として捉えるべきだ」と述べている。

米公衆衛生総監は、喫煙の健康被害を指摘する報告書を公表してきたことなどで知られる。

ドノバン氏らは喫煙の健康被害と誤情報による健康被害を念頭に、こう指摘している

つまり、ソーシャルメディアのプロダクトから利益を得ているのなら、相応の責任を担うべき、ということだ。

(※2021年7月16日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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