日銀のキーマン、内田副総裁は正常化の道筋を示すが、その後の利上げには慎重姿勢
日銀の内田真一副総裁は8日に奈良市での金融経済懇談会で挨拶した。
現在の日銀のキーマンは植田総裁というよりも内田副総裁であるとみている。植田総裁や氷見野副総裁はマイナス金利政策の解除などの正常化に前向きであったとみられるが、そこにブレーキを掛けていたのが内田副総裁と事務方執行部であったとみられる。
昨年12月6日の氷見野副総裁の講演の内容や7日の植田総裁によるチャレンジング発言などがそれを示したものといえた。このまま正常化に舵を取るかとみられたが12月の金融政策決定会合では、あらためて正常化にブレーキを掛けてしまった感があった。これは何かしら外部要因もあったのではとの観測も出ていた。
ただし12月の決定会合議事要旨からは正常化に前向きの意見が複数出ていたことが示された。さらに1月の金融政策決定会合の「主な意見」をみると一部慎重派は残るが、総じて正常化に前向きな発言が多くなった。
これから執行部に近いとみられる審議委員が慎重派から正常化に向きを変えてきたことが窺える。つまり内田副総裁が正常化に向けて向きを変えてきたとの憶測が出来る。その意味でも今回の内田副総裁の講演内容が注目されたのである。
「最近の金融経済情勢と金融政策運営」
https://www.boj.or.jp/about/press/koen_2024/data/ko240208a1.pdf
このなかで内田副総裁は、「2%目標の持続的・安定的な実現が見通せるようになれば、こうした大規模な金融緩和は役割を果たしたことになり、その修正を検討することになると考えています」として、マイナス金利を解除する場合にどのようなステップとなるのか説明している。ただし「その過程では緩和的な金融環境を維持していくことになるだろう」とも強調している。
「イールドカーブ・コントロールの枠組みを廃止するにせよ、何らかの形で残すにせよ、その後の国債買入れをどうしていくのか、その過程で、いかに市場の安定を保っていくのかは、考えなければなりません」
廃止も選択肢に入っていたのがむしろ意外にも思えたが、何らかの形で残す必要性はないと思う。ただし、これは政治的な配慮なども考慮に入れる必要があるのかもしれない。
「当然のことながら、見直すのであれば、その方向性は、市場の自由な金利形成をより尊重していく方向になりますが、その前後で不連続な形で、買入れ額が大きく変わったり、金利が急激に上昇するといったことがないよう、丁寧に対応したいと思います」
巨額の国債買入については慎重に削減していくことが予想される。
「ETFとJ-REITの買入れを行っていますが、2%目標の持続的・安定的な実現が見通せるようになり、大規模緩和を修正する時には、この買入れもやめるのが自然です」
少なくともETFとJ-REITについては、買入はやめるであろうと予想される。ただし、売却等については「すでに保有している残高の扱いは別の問題」としている。
また、内田副総裁は下記のような発言もしている。
「『金利のある世界』は、日本銀行が金利を上げることで実現するものではありません。経済と物価の状況が改善し、金利を上げることがふさわしい状況を実現してはじめて可能になるものです」
「金利のある世界」は、特に今回に関して言えば、日本銀行が金利を上げることで実現するものではなかったろうか。どうして経済と物価の状況に相応しい金利が付かなかったのか。それは無理矢理に日銀がそれをしなかった、いや何らかの都合で出来なかったからではなかったろうか。
いずれにしても慎重派を代表していたとみられる内田副総裁から、正常化に向けた発言が出たことは、早期の正常化の可能性を示しているとみられる。まさにいまが千載一遇のチャンスでもあり、これにより3月に正常化に向けた金融政策の修正が入る可能性は高いとみている。