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ロシアで北朝鮮人の大乱闘が多発…原因は「スパイ」

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮労働者とタジキスタン労働者の乱闘(Vesti.ru)

国連安全保障理事会で2017年12月22日に採択された制裁決議2397号は、すべての国連加盟国に北朝鮮労働者の新規雇用を禁じ、すでに派遣されていた労働者についても2019年12月22日までに送り返すことを義務付けた。しかし、技能実習制度などを悪用する形で、中国に10万人、ロシアに2万人の労働者が派遣されていると伝えられている。

今年1月、中国の工場で、賃金未払いに抗議した北朝鮮労働者が暴動を起こす事件が発生した。一方でロシアの建設現場では、北朝鮮労働者同士の乱闘騒ぎが頻発している。ロシアのデイリーNK情報筋が伝えた。

(参考記事:【動画】北朝鮮労働者とタジキスタン労働者、ロシアで大乱闘

極東ウラジオストクの、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)出身の労働者の作業班では1週間に2〜3回、激しい乱闘騒ぎが起きている。同僚がなだめて、引き離そうとしても、お互いが極度の興奮状態にあるため、同僚までが巻き込まれて怪我をすることもしばしばだ。

頻発する乱闘の原因は「厳しすぎる監視」にある。

北朝鮮当局は、海外に労働者を派遣する場合、反社会主義・非社会主義現象(風紀の乱れ、韓流など海外コンテンツへの接触)などを防ぐために、各貿易会社に保衛部(秘密警察)の幹部を1人派遣していたが、最近では保衛指導員が増員され、各作業班にスパイを忍び込ませ、同僚の言動、行動を監視させ、逐一報告するようになった。

中国と比べてロシアに派遣された労働者は、行動の自由度が相対的に高いが、それを利用して脱北する者が後を絶たないからだ。

これが、労働者の大きな不満となっている。

「3人寄れば、1人は必ず保衛部のスパイ」(情報筋)

異国の地で苦労する仲間同士で、一杯やりながら愚痴をこぼす、という今までのストレス解消法ができなくなったのだ。

「本音をさらけ出せる同志だと思って酒の席で苦しい胸の内を語ったら、その内容が報告されて、吊し上げのターゲットとなることが頻繁に起きている」(情報筋)

ウラジオストクに派遣された建設労働者Aさんは、心を許せる同僚との酒の席で、「最近、作業がとてもつらい、海外に出たのは失敗だったかも知れないと思う」と漏らしたところ、それが保衛指導員に報告され、激しい批判を受けるはめとなった。

北朝鮮の人々は、スパイと判明した者は村八分状態にする。自分の安全を守るためだ。それをよく知るスパイの方も、自分の正体がバレないように注意する。ところが、ロシアに派遣された労働者は、そもそも人数が限られているせいか、誰がスパイかすぐにわかってしまうようなのだ。

スパイの正体を知ったAさんは、激怒してスパイに殴りかかり、大乱闘へと発展した。

また、別の労働者Bさんは、同じ現場で働くウズベキスタン出身の労働者と話を交わしたことが保衛指導員に報告され、激しい批判を受けた。Bさんは、スパイと目されていた別の同僚と喧嘩になった。

共同作業に参加しなかった、仕事がつらいと愚痴をこぼしたというちょっとしたことでも、スパイにより保衛指導員に報告され、批判を受けてしまう状況に、食事の時間ですら同僚とは一切言葉を交わさないほど、作業班の空気が凍りついてしまった。

脱北を防ぐための監視の強化だったが、これがむしろ脱北を煽りかねないと情報筋は指摘した。

「ストレスが極度にたまり、むしろ現場から離脱しようとする労働者が増加している。保衛部のスパイのせいで、作業班が完全に分断された状態となり、このままでは大量脱北が起こりかねない」(情報筋)

北朝鮮は徹底した監視社会だが、上述の通り、スパイを村八分にしたり、毎週土曜日の「生活総和」(1週間の総括)の時間に際して、批判を手加減してもらうために事前に口裏合わせをするなど、あまり人を追い詰めない、人から追い詰められないようにしていた。

生活の知恵のようなものだが、このような流れが断ち切られると、たちまち不協和音が表面化するのだ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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