EURO決勝進出のポルトガル。ロナウドら個性派を転がす「隠れた名将」の器。
EURO2016で決勝に進んだポルトガルは、クリスティアーノ・ロナウドが「顔」のチームである。
ところで、代表監督の名前をご存じだろうか?
フェルナンド・サントス(61歳)。
その風貌はしわがれた初老の人という印象。采配が冴え渡る、という感じは受けない。失礼を承知で言えば、枯れた感が強く、平凡そうにも映る。自然、メディアに多くを語られることはない。
真の名将は愚鈍にすら映る
<守りをベースに戦いながら、しぶとく勝ちきる>
フェルナンド・サントス監督のフットボールは、スペクタクルとは言えない。どちらかと言えば、地味だろう。
では、有力選手に推戴された傀儡に過ぎないのか?
否である。
<ピッチで戦術を表現するのは選手>
そのフットボールの鉄則を守るフェルナンド・サントスは、古今の名将に名を連ねる。特筆すべきは、代表選手を選ぶ折り、性格やプレースタイルや年齢を問題にしていない。ひたすら芸に秀でたものを集めている。
例えば、リカルド・クアレスマは所属していたポルト時代にジュレン・ロペテギ監督から毛嫌いされている。従順さに欠け、奔放すぎたからだ。結果、クアレスマは多くの貢献を残したにもかかわらず、次のシーズンに退団する羽目になった。しかし、クアレスマを放出したポルトは調子が上がらず、ロペテギ監督はシーズン半ばで解任された。クアレスマという"悪党"を使いこなせなかったからである。
フェルナンド・サントスは悪党であろうと、代表に呼び寄せる。危険分子になり得るような選手こそ、敵に対しても闘気をぶつけ、勝利をもたらすと承知しているからだ。事実、クアレスマは決勝トーナメント、クロアチアとの延長戦で決勝点を叩き込んでいる。故障を抱えているにもかかわらず、大会を通していざピッチに出ると、心萎えずに戦い続けた。
素直でいい子だけの集団は頂点を狙えない。
フェルナンド・サントスは、年齢も不問に選手を起用している。18歳のレナト・サンチェスを積極的に代表に選出しただけでなく、先発としても送り出した。2015-16シーズン、開幕当初はユース登録だった選手だけに、経験は圧倒的に乏しい。しかし、指揮官は18歳のスキルと気迫を信じ切った。選手に全幅の信用を与えられる、それはリーダーとしての度量、器であり、誰もが持っているものではない。
ポルトガルの首領は、なにも若い選手だけを優遇しているわけではない。リカルド・カルバリョ(38歳)、ブルーノ・アウベス(34歳)というベテランも要所に配していた。それも単に、年齢的なバランスを取ったわけでもなく、「戦える人材を集めた」という表現が正しい。チームが勝つために必要な選手を招集した。その結果、"同じ顔ではない面子"が揃ったのである。
それによって、ピッチに送り出されると、自然と味わいが出た。
<いい守りがいい攻撃を生み出す>
そのロジックに従ったのだろう。
フェルナンド・サントスがボスのエゴを見せていないだけに、メディアとしては捉えどころがなく、扱いにくいだろう。4-4-2,4-2-3-1,4-3-3と幾つもシステムを変更。戦術のための戦術ではない。あくまで選手の組み合わせと敵次第だけに変幻自在。芸に秀でた選手を上手く噛み合うように促すだけで、戦い方がじわりと創出される。
これを名将の采配といわず、なんと言うべきか。
<戦術とは、ピッチに立った選手が決定する>
経験豊かな老将はその極意を知る。選手に与えた義務と自由によって、選手が勇躍する。ロナウドが新聞の一面になることは喜ばしいことで、同胞のジョゼ・モウリーニョのように前面に出ない。
フェルナンド・サントス。
真の名将は、愚鈍にすら映るものである。