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中国「市場開放拡大は中米貿易摩擦と無関係!」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
ボアオ・アジア・フォーラム 2018年年次総会で演説する習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

 習近平が博鰲(ボアオ)アジアフォーラム2018年次総会で市場開放をさらに拡大すると表明したのは米中貿易摩擦とは無関係だと中国外交部は激しく抗議。事実、そのような解釈は習近平政権の戦略を誤読させ、日本にとっても適切ではない。

◆博鰲(ボアオ)アジアフォーラムで習近平「市場の大門を大きく開く!」

 習近平国家主席は4月10日に海南省で開催された博鰲アジアフォーラム2018年次総会の開幕式で「中国は絶対に開放の大門を閉ざすことはない。ひたすら、門をますます大きく開くということあるのみだ!」と声を張り上げ、以下の施策を宣言した。

    ●大幅に市場参入条件(環境)を緩和させる。

    ●さらに吸引力のある投資環境を創り出す。

    ●知的財産権を強力に保護する。

    ●輸入を主導的に拡大する。

 これに対してトランプ大統領は「感謝する」旨ツイートし、あたかも中国がアメリカの貿易摩擦を避けるために譲歩したかのような印象を与えようとした。

 日本のメディアでも、トランプ流に習近平の宣言を解釈し、「中国の譲歩により米中貿易戦争が回避されそうだ」というトーンの情報が飛び交った。

◆激怒した中国

 すると中国外交部は、この解釈を激しく非難する声明を、つぎつぎと出していった。

 4月11日の中国共産党系の環境網は、まず外交部のスポークスマン、耿爽(こうそう)氏が定例記者会見で「米中貿易衝突とは無関係だ」と言ったことを激しいタイトルで発表している。

 すなわち「中国の開放拡大施策は中米貿易衝突と関係しているのだろうか? 外交部:無関係だ!」という大見出しだ。以下に記者と耿爽との問答の概要を記す。

 質問:昨日習近平出席は博鰲アジアフォーラム2018の開幕式で中国はさらに一歩、開放を推し進めるという施策を発表しましたが、これは(中略)アメリカとの貿易衝突と関係ありますか?

 回答:あなたに言っておきますが、これは米中貿易衝突とはいかなる関係もありません。中国政府の運営の基礎を知っている者であるならば、このような重大な施策を、こんな短期間に決定できるはずがないことはすぐに分ること。長年にわたる論議と検討、深慮遠謀がなければ絶対に実行できない。中国が対外開放を堅持するということは一貫した国策であることを皆さんは肝に銘じておくべきだ。そもそも(昨年10月の)第19回党大会においても、過去5年間の党の活動報告の重要な部分として(習近平が)述べている。改革開放のさらなく拡大は中国自身のニーズから計画され、自国のタイムテーブルに従がい、自主的に描いてきた路線図だ。

中国が開放を拡大していくことに関して、中国はいかなる国の干渉も受けない!

いかなる国も干渉できない!

 以上が耿爽の回答の概要だが、彼に続いて外交部の華春瑩(か・しゅんえい)報道官もさらに長く強烈な抗議を表明した。

 また中国共産党の機関紙「人民日報」も、中国政府の通信社「新華社」もそれぞれ激しく「中国がアメリカに譲歩した」という解釈を非難している。いうまでもなく中央テレビ局CCTVも特集を組み、抗議表明に満ち満ちていた。

◆改革開放拡大に関する習近平政権の施策

 実際、改革開放を拡大深化させるための施策は、習近平政権に入るとすぐに実行に移されている。

 習近平は2012年11月に中共中央総書記に選ばれ、2013年3月に国家主席に選出されているが、改革開放をさらに拡大深化させるための「中央全面深化改革領導小組(指導グループ)」が設立されたのは2013年12月である。習近平が組長、李克強と劉雲山、張高麗が副組長というメンバーだ。このことを以て日本では「習近平と李克強の権力闘争が激化した」と解説する中国研究者やメディアの何と多かったこと!

 もともと「中央全面深化改革領導小組」の前身をたどれば、改革開放直後に国務院(政府)の中に国家経済体制改革委員会を設立し、1998年には国家発展改革委員会(前身は1950年設立)に吸収された。

 習近平政権になってからは一党支配体制維持のために「党の力」を強化するため、国務院だけではこなしきれないと判断された組織は、「党組織」に改編されていった。その一環として誕生したのが「中央全面深化改革領導小組」である。

 2018年3月には中共中央は、さらに「党と国家機構を深化させる改革法案」を発布し、「中央全面深化改革領導小組」を「中央全面深化改革委員会」に改称している。

 ここに至るまでに、過去5年間で26回の会議を開催していることも見逃してはならない。

◆第19回党大会で

 外交部の耿爽報道官が触れた「第19回党大会ですでに報告されている」という事実に関して、第19回党大会の開幕式における習近平の3時間半にわたるスピーチを再確認してみた。これは過去5年間にわたる党の活動報告と今後の抱負を述べたものだ。

 するとそこには27回もの「開放」という言葉が使われていることを発見した。

 まず「過去5年間で中国は改革開放と社会主義現代化建設に関して歴史的な成果を得た」とした上で、「開放型経済新体制」、「対外貿易」、「中国への投資環境の改善」、「輸入品関税の改善」、「知的財産権保護を強化」などが、詳細に述べられている。「これまでも改善に努めてきたが、新時代に入り、さらに改革開放の大門を拡大させる。改革開放には拡大と進歩があるだけで、終点はない」といった趣旨のことが述べられている。

 特に改革開放と市場の拡大を強調しているのは、今年が改革開放40周年記念に当たるからで、中米貿易摩擦を意識してのものではない。

 筆者としては、ことほど左様に外交部が言ったことが正しいなどということを言うつもりは毛頭ないが、中国の政策あるいは発信を自分に都合よく誤読するのは、今後の中国の動向を予測する上で、我が国にとって如何なるメリットもないと判断するので、以上、客観的事実を述べた。

 トランプ氏が自分の大統領中間選挙に利するように国際情勢の解釈を恣意的に誘導している現状に、日本が無分別に同調していくことは慎みたいものだ。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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