上野東京ラインと異次元緩和の波及効果の違い
昔、茨城から東京に通学や通勤で出て行くときに常磐線を使っていた。常磐線の終着駅は上野であるが、昔は東京直通の列車もあった。しかし、東北新幹線の工事により、秋葉原駅と神田駅付近で線路が分断され、東京駅に乗り入れることができなくなった。これは常磐線だけでなく、東北線や高崎線も同様であった。このため、東京方面に向かう場合には山手線や京浜東北線に乗り換えねばならず、それが上野・秋葉原間のラッシュ時の混雑に繋がった。たしかに異常な混雑であった。
埼玉県などが宇都宮・高崎線の中距離電車の東京駅乗り入れについて要望し、茨城県などでもそのような看板を掲げていた。これはJR東日本自身にとっても悲願であったそうである。わずかな距離ながら、工費は400億円程度かかるものに何故、JR東日本が着手したのか。これはどうやら混雑回避のみが目的ではなく、これによる波及効果を計算に入れていたようである。この新線は上野東京ラインと呼ばれ、まもなく完成する。
上野東京ラインの波及効果のひとつが、田町と品川の間での新駅の開設となる。この新駅と広大な敷地を利用した街作りには、その敷地を理由している車両基地をどこかに移設する必要がある。上野東京ラインを使うことにより、田町の車両基地を使っている車両を上野東京ラインで別の場所へ移動させることが可能となる。どうやら宇都宮線沿線にある東京都北区の尾久車両センター、さいたま市の東大宮操車場へ移動するそうである。
さらに15日の日経新聞にも記事が出ていたように、羽田と東京を結ぶ新線にも関わってくる。この新線は上野東京ラインと接続して直接乗り入れ可能にする方針とか。田町と品川の間での新駅の開設による経済効果は大きく、さらに東京オリンピック開催を見据えて、羽田空港と都心が短時間で結ばれることによる効果も大きい。上野東京ラインはこのようなことを見据えたプロジェクトであった。
さてこのような波及効果を意識したプロジェクトとして、2014年4月に実施された日銀の量的・質的緩和政策がある。確かにその効果として物価は上昇し、長期金利は抑えられ、景気も回復しつつあるように見えた。ところがその波及効果について、JRの新線による波及効果に比べて、その経路が明確ではない。日銀のマネタリーベースが増加すれば物価が上がるとされるが、上がってきた物価もここでいったんピークアウトする。しかし、マネタリーベースは増加し続ける。ここにどのような因果関係があるのであろうか。過去の物価とマネタリーベースの関連性を見ても、相関関係があるようには思えない。
円がそれほど買われず、株価もしっかり、景気もまずまずで物価も上がって、長期金利も低位安定している間は、それが何に起因しているのかはさておき、アベノミクスの効果が出ているような印象を受ける。しかし、この好環境に多少なり異変が生じた際には、アベノミクスや日銀の異次元緩和の波及効果への疑問だけでなく、それによる副作用が表面化してくることも予想される。ほとんどコストを掛けず行ってきたリフレ政策だが、そのコストは後払いとなる可能性がある。その点も十分に考慮しておかなければならない。