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再び暴動の足音?ロンドンがきな臭くなってきた

ブレイディみかこ在英保育士、ライター

ジェントリフィケーション。

という言葉が英国で大きくクローズアップされている。

「高級化、中産階級化。劣悪化している区域に中流階級あるいは裕福な階級の人口が流入していくのを伴った区域再開発・再建プロジェクトのことで、通常それまでの貧困層の住民が住む場所を失うこと」とアルク英辞郎では訳されている。

話題の労働党新党首ジェレミー・コービンは、「ソーシャル・クレンジング」という言葉を用いてジェントリフィケーションについて語ることが多い。近年、ロンドンの労働者階級の街でそうした状況が着々と進んでいることが彼の住宅政策の動機になっている。

9月26日の夜、アンチ・ジェントリフィケーションの抗議活動がロンドン東部ショーディッチのシリアル専門カフェ「シリアル・キラー・カフェ」の前で発生し、暴動に発展しかねない状況になった。集まった数百名の抗議者たちが店のウィンドウにペンキを投げつけ、警察をかたどった人形に火をつけたりした。

暴動鎮圧専門の警察が出動し、豚の被り物をつけた抗議者(「キャメロン首相が自らの性器を豚にくわえさせている若き日の写真がある」というスキャンダルが流れたせいだ)や、たいまつを手にした抗議者など、大勢の人々がカフェを取り囲み、子供を含めた店内の客は全員でドアをバリケードしていたが、そのうち状況が危険になってきたので、地下に避難したという。

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このカフェは、以前からテレビや雑誌で話題になっていた有名店だ。様々なシリアルを取りそろえたマニアックでヒップな店は、シリアルのボール一杯で4ポンド40ペンスする。このカフェはロンドン東部の貧富の差を象徴する店とも批判され、「地元に住んでいる人々がシリアル一杯に4ポンド40ペンスも払えると思いますか?」とニュース番組でインタビューされたこともあった。(タワー・ハムレッツ区では、子供の貧困率が50%に近づいている)

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「『ヒップスターは死ね』という脅迫の手紙を受け取ることはあったが、まさかこんなことが起きるとは思わなかった」とカフェの経営者ギャリー・キーリー(33歳)は語っている。この晩、攻撃されたのは彼らの店だけではなく、近所の不動産屋も被害に遭っているそうだ。

この抗議活動を組織したのはクラス・ウォー(階級闘争)を名乗るアナキスト団体で、抗議活動は「ファック・パレード」と呼ばれている。彼らの主張はこうである。

「ロシアのオリガリヒやサウジの石油王、イスラエル人の卑劣な不動産開発業者、テキサスのオイルマネーの輩ども、そして我々の国が輩出したイートン校出身の上流階級の奴らによってによって、我々のコミュニティーはズタズタに引き裂かれている。地方自治体は「公営住宅地の再開発」などという近視眼的マネーレースで荒稼ぎしている。我々は誰も住むことのできない超高級マンションなど欲しくはない。我々はただ手頃な値段の家を求めているのだ。我々が欲しいのはジン専門の期間限定バーやブリオッシュじゃない。我々はコミュニティーが欲しいのだ」

抗議に参加した55歳の芸術家の女性はガーディアン紙にこう語っている。

「私は17年間この地域に住んでいますが、現在起きていることはあまりに酷い。私たちのせいでもあるのでしょう。私のような芸術家たちがこういうエリアに集まって来ると、建築家たちが追いかけて来ます。そして不動産開発業者、ヒップスターと続くのです」

55歳という年齢もあるのだろう、彼女はこの抗議活動のムードを「パンク・カーニバル」と表現している。

なんとなくこの抗議の模様をテレビで見ていて思い出したのは、覆面芸術家バンクシーが期間限定で開催している悪夢のテーマパーク「ディズマランド」だ。それが地元経済の活性化にたいへん役立っているというほのぼのしたニュースや、開催期間終了後は「ディズマランド」の施設をカレイに移動して移民・難民の収容施設にするという報道を目にするたびに、おおバンクシーもついに国民的アイドルに。と感慨深いが、どうもこの「パンク・カーニバル」な抗議運動は、そのスタイルを見る限り、「ディズマランド」を現実にまで持ち込んでいる。

保守派のテレグラフ紙は「あなたたちはヒップスターたちに感謝すべき。いまやケバブ(庶民の食べ物。よってある意味ダサい)のテイクアウト店は閉店に追い込まれ、オリーブとローズマリーを入れて焼いたアーティザンなパンのショップがそれに取って代わる時代。リッチとプアが隣人として住むことがどうしていけないの?」という主旨の記事を掲載し、同様に保守派のデイリー・メール紙電子版には、「僕はフェラーリは買えないけど、だからと言ってフェラーリのディーラーに行ってペンキをぶちまけようとは思わない」「一杯のシリアルに5ポンド払いたいと思う人がいたら払わせとけばいい。それが自由というやつだろう」といった読者コメントが寄せられている。

この団体は今週末にも切り裂きジャック博物館で抗議活動を予定しているそうで、「女性との戦いをやめろ。性的暴力を賛美するのはやめろ」がスローガンらしい。

一部メディアは、ロンドンでヒップスターVSアナキストの内戦が始まったと表現している

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「シリアルキラー・カフェ」での一件が報道された同じ日、ロンドンでイスラム教のモスクが燃えていた。モーダンにあるそのモスクは、西ヨーロッパでは最大のものだという。

14歳と16歳の少年が放火容疑で逮捕されたが、一人は釈放され、もう一人は保釈されている。難民・移民問題や、英国出身ジハーディストに関する報道が日々繰り返されている英国では、「時間の問題だったかも」と周囲の英国人たちは言っている。

労働党の新党首ジェレミー・コービンが「希望の政治」を提唱し、「もっとヒューマンで心優しい社会にしよう」と訴える裏側で、暴れる人々が活性化している。やけに「ストリートと炎」のコンビネーションをまた見るようになってきた。

どうもロンドンがきな臭い。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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