どうして日銀は12月に利上げをしなかったのか
12月19日の金融政策決定会合で日銀は8対1の賛成多数で、金融政策の現状維持を決定した。
一時は市場参加者の多くが利上げありとみていたが、11日のブルームバーグの日銀は利上げ急がずとの記事を受け、利上げ見送りかとの見方が強まり、実際に利上げは見送られた。
私は7月の利上げを確認して次は12月かとみていたが、その予想は外れた。どうして日銀は12月に利上げを見送ったのか。
これについては19日の植田総裁の会見でもその理由が述べられていたが、それを違う確度から探ってみたい。
12月の会合では、これまでみられなかったことが一つ起きていた。田村委員が反対票を投じていたのである。
正確に言えば田村委員は、経済・物価が見通しに沿って推移する中、物価上振れリスクが膨らんでいるとして、無担保コールレート(オーバーナイト物)を0.5%程度で推移するよう促すとする議案を提出し、反対多数で否決された。
田村委員は0.5%への利上げを主張していたのである。実は同じようなことが2007年1月の金融政策決定会合で起きていた。
議長案(当時の議長は福井総裁)が現状維持なのに対して、須田委員・水野委員・野田委員から、無担保コールレート翌日物を0.5%で推移するよう促すとの議案が提出された。つまり0.5%への利上げ案が出されたのである。このときも採決の結果、反対多数(3対6)で否決された。
結局、次の2月の金融政策決定会合で0.5%への利上げが決定された。
どうして田村委員は12月の会合で利上げを主張したのか。それは中立金利への見方が影響していた可能性がある。
田村委員は9月の講演で、中立金利について、「私は、最低でも1%程度だろうとみており、したがって2026年度までの見通し期間の後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成する上で、必要だと考えています」と述べていた。
中立金利について植田総裁は、25日の講演で次のように述べていた。
「日本銀行は、2%目標の持続的・安定的な実現に向けた移行期にあたる現時点においては、景気・物価に中立的となる中立金利よりも政策金利を低くすることにより緩和的な金融環境を維持し、経済をしっかりとサポートしていく、ということです。」
つまり現在の移行期には「中立金利よりも政策金利を低くすること」が必要になるのであれば、今回の利上げの到達点は中立金利が1%と仮定すると0.75%までという見方もできる。
また、日銀が想定している中立金利は0.75%近辺かとの見方も出ている。
そうであれば12月の利上げは見送って、2025年内に2回程度の利上げで0.75%に引き上げるとの見方も出てくる。
田村委員は2026年度末までにとしていたが、少なくとも最低で1%程度まで政策金利を引き上げるのであれば、市場も落ち着いていた12月に行ってしかるべきとみていたのではなかろうか。