春から自転車で通勤、通学を始めるあなたへ 法令が定める基本ルールと留意点
春から自転車で通勤や通学を始める人も多いだろう。自転車は手軽で身近な乗り物だが、平然と無謀運転を行う利用者があとを絶たない。この機会に法令が定める自転車の基本ルールを振り返り、留意点を示したい。
「ながら運転」はアウト
道路交通法では、自転車は「軽車両」の一つであり、乗用車やバイクなどと同じく「車両」に分類されている。街なかでよく見かける自転車の「ながら運転」は最高で罰金5万円に処される犯罪だ。例えば、東京都の場合、道路交通法の規定に基づき、次のような遵守事項が定められている。
「傘を差し、物を担ぎ、物を持つ等視野を妨げ、又は安定を失うおそれのある方法で自転車を運転しないこと」
「自転車を運転するときは、携帯電話用装置を手で保持して通話し、又は画像表示用装置に表示された画像を注視しないこと」
「高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」
自治体によって文言に微妙な違いがあるものの、おおむね同様の行為を禁止している点で共通している。
歩道の通行は例外的
また、自転車は、縁石やガードレールなどによって車道と歩道が区分けされている場合、車道の左寄りを通行しなければならない。歩道は、次の3つのケースに限って例外的に通行が認められるだけだ。
(1) 道路標識や標示により歩道の通行が認められている場合
(2) 運転者が13歳未満、70歳以上、身体に障がいを負っている場合
(3) 通行の安全を確保するためにやむを得ない場合
これらの場合でも、歩行者の有無に関わらず徐行し、歩行者の通行を妨げる場合には一時停止しなければならないし、歩道の中央から車道側に寄ったエリアを通行するのが基本だ。
実際には(1)~(3)に当たらないにもかかわらず、乱雑にベルを鳴らし、歩行者を退避させ、猛スピードで歩道上を走り抜ける自転車を多く見かける。歩道通行違反だけで、最高で懲役3ヶ月に処される悪質な犯罪にほかならない。
このような歩道が設置されていなくても、道路の端に白い実線や点線を引くことで「路側帯」と呼ばれる区分けが行われている場合がある。実線2本だと歩行者専用だが、それ以外であれば通行できる。(1)~(3)のような要件はなく、歩行者の通行を妨げない速度や方法で通行すれば足り、徐行したり車道寄りを走ったりする必要もない。
ただし、自転車が通行できるのは道路左側にある路側帯だけで、右側の路側帯はNGだ。乗用車やバイク、自転車同士による対面事故を防止するためである。実際には堂々と右側の路側帯を逆行している自転車が多いが、これも最高で懲役3ヶ月に処される犯罪にほかならない。
そのほかの重要なルール
当然ながら飲酒運転は許されないし、車両の通行や進入が禁止された道路に入ることもできない。徐行や一時停止の指定場所では、直ちに停止できる速度で走行したり一時停止したりして、周囲の安全を確認しなければならない。
自転車横断帯のある交差点を横断する際は、横断歩道ではなく、その横の自転車横断帯を通行する必要がある。信号については、次のような特殊なルールとなっているので注意を要する。
(a) 「車両用信号機」と「歩行者・自転車専用信号機」が設置されている場合
通行しているのが車道か歩道かを問わず、「歩行者・自転車専用信号機」に従う。
(b) 「車両用信号機」と「歩行者用信号機」が設置されている場合
車道を通行している場合は「車両用信号機」、歩道を通行している場合は「歩行者用信号機」に従う。
学生同士の2人乗りや並走もよく見かけるが、これらもアウトだ。2輪の自転車は1人乗りが原則であり、16歳以上の者が6歳未満の幼児を幼児用座席に乗せるなどの場合に限り、例外的に2人乗りや3人乗りが許されるだけだ。「並進可」の標識がない道路では、2台以上で並んで走行することも認められていない。
また、自転車で買い物袋などの荷物を運ぶ場合には、荷台やカゴに載せなければならず、ハンドルに引っ掛けることも許されていない。夜間やトンネル内などを通行する際は、必ずライトを点灯しなければならない。
ヘルメットの着用は?
道路交通法では、これまでも親など児童や幼児を保護する責任がある者に対し、児童らにヘルメットをかぶらせるように努めなければならないとされていた。4月1日施行の改正法により、これに加え、広く自転車の運転者に対し、自らヘルメットをかぶるように努め、他人を乗車させるときはその他人にもかぶらせるように努めなければならないとされた。
「努力義務」なので違反しても罪に問われることはないが、ヘルメットを着用することで事故の際に死傷する確率を下げられるのは確かだ。しかも、被害者になった場合、ヘルメットを着用しなかったことで損害が拡大したということになれば、一定の割合で過失相殺が認められ、受け取る損害賠償の金額が減ることになる。
その意味で、ヘルメットが有効なツールであることは間違いないものの、一方で駐輪時の保管場所や盗まれるリスク、これを回避するために手に持ったまま電車やバスに乗る面倒さ、街なかや観光地に設置されたシェアサイクルを利用する際のヘルメットの準備など、クリアしなければならない問題も多い。
国や自治体は、ヘルメットの普及活動に加え、無謀な運転をする自転車の取締りを強化するとともに、自転車の利用者に対する交通規則の体系的な教育や周知徹底、自転車専用レーンの増設など、事故防止に向けたシステムづくりにも積極的に取り組む必要があるだろう。(了)