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【政策会議日記13】埋蔵金取崩しのツケは国民に(財政制度等審議会)

土居丈朗慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

4月25日に、私も一委員として出席した財政制度等審議会財政投融資分科会が開催されました。現在、財政制度等審議会財政投融資分科会では、今後の財政投融資の方向性を探る議論を続けています。

本コラムでは初めて紹介するので概説しておくと、財政投融資(財投)とは、税ではなく、国債発行などにより調達した資金を財源として、政策的な必要性があるものの、民間では対応が困難な長期・低利の資金供給や大規模・超長期プロジェクトの実施を可能とするために行う国からの貸付や投資のことです。財政投融資制度について、より詳しくは財政投融資(財務省)をご覧下さい。

財政投融資という仕組みを知らなくても、直接的・間接的に恩恵を受けている読者もおられるはずです。例えば、政府系金融機関からの中小零細企業向け低利融資や、日本学生支援機構(旧・日本育英会)からの有利子奨学金、NEXCOグループの高速道路、都市再生機構の賃貸住宅などは、財投制度を介したお金で国民に提供されたものです。かつては、旧・住宅金融公庫から直接的に借りた住宅ローンも、財投制度を介して行ってきたものです。さらには、財投制度を介して、インフラ整備を行う地方自治体に国からお金を貸しており、こうして整備されたインフラも財投の直接的な恩恵を受けているわけです。ちなみに、これらは、タイトルにある「霞が関埋蔵金」とは直接関係ありません。

さて、4月25日の財政制度等審議会財政投融資分科会(財政審財投分科会)では、財投の運営を担っている財政投融資特別会計(財投特会)が議論の俎上に乗りました。今後、財投特会の財務の健全性をどう確保するか、ということです。

財投は、前述のように、主に国債で資金調達をしています。財投特会で発行する国債を、一般会計で発行する国債(建設国債、赤字国債)と区別して、財投債と呼びます。そうして調達した資金を、(政府系金融機関を介して)中小企業や、奨学生や、高速道路などのインフラを建設する法人などに、財投特会から貸しています。

民間の銀行なら、より低い金利で資金を調達して、より高い金利で貸すことで利鞘を得ます。

しかし、財投特会は、国の会計であり、営利目的で運営しているわけではありません。財投特会は、原則、利鞘なし(金利差なし)でお金を貸しています。調達する際の国債金利が低ければ、その低い金利で財投特会からお金を貸します。

1990年代から2000年代にかけて、日本経済は金利がほぼ低下傾向でした。その時期に、利鞘なしでも、国債の満期(平均7年前後)よりも長い期間で固定金利で貸せば、国債に満期が来て借り換えるときには低い金利で借り換えられる一方、長期固定で貸したものは高い金利で収入が入ってきます。つまり、財投の調達サイドでは金利の低下によって払う利払費が減少するのに対し、貸出サイドでは長期固定で高金利の収入が多く入ってくるので、当初予定にない形で収入超過になりました。

とはいえ、逆の場合は困ることになります。つまり、もし経済が金利上昇局面になると、既に長期固定で貸していたものは低い金利なのに、調達サイドの財投債の金利は上昇して払う利払費が増加して、逆鞘状態になって、財投特会は赤字になってしまいます。

金利変動準備金と「埋蔵金」論争の果て

万一、何の備えもなく、財投特会で赤字になると、逆鞘状態でその赤字を自前で埋める手立てはないので、国の一般会計から国民の税金を使って赤字補填をするほかなくなってしまいます。しかし、財投特会は、そもそも一般会計からの繰入れなしの独立採算が原則となっています。したがって、こうした事態を避けるべく、財投特会では、逆鞘状態になっても国民の税金を使わずに予め備えておくため、金利変動準備金という仕組みを設けています。金利変動準備金は、金利低下局面で収入超過になって剰余金が出るときに、財投特会に積立金を蓄えて、逆鞘状態で赤字になってもこの準備金をバッファーに債務超過にならないようにするためのものです。

この金利変動による損失リスクに備えた金利変動準備金は、客観的なリスク分析を踏まえた上で2003年12月23日の財政審財投分科会での審議を経て、この特別会計が持つ総資産(貸付金など)の100/1000(=10%)まで積み立てることとされていました。

ところが、2005年度末に金利変動準備金残高が、総資産に比して約7%であるものの23兆円を超える見通しとなったことから、このころ与野党の中で、準備金は過剰に積み立てられているのではないか、準備金を取り崩せば増税なしに財政支出に充てられるのではないか、という声が出始めました。まさに、後に「霞が関埋蔵金伝説」と呼ばれる議論のはしりでした<※末尾の「トリビア」も参照>。

つまり、「埋蔵金」は、特別会計や独立行政法人で無意味に貯め込んでいるなら吐き出して有効活用せよという意見と、意義を持って備えられているもので取り崩せば重大な支障をきたすから取り崩すべきでないという意見との間での論争が、この後繰り広げられることになったのです。

結局、与野党の中にある議論に押されると取り崩した積立金を予算のバラマキに使われる懸念があるといった背景もあって、2006年度予算において、金利変動準備金は12兆円取り崩して国債の返済財源に拠出することにしました。この政策判断に対しては、2005年12月の財政審財投分科会として、取りまとめた「財政投融資改革の総点検フォローアップ」の42~45ページにて、金利変動準備金を、財政状況が厳しい中で国債の償還に充てて貢献することは評価するが、財投特会の健全性を維持するには引き続き総資産の100/1000まで積み立てることが必要、と苦渋の認識を示しています。

その後、金利変動準備金は、財投の資産(貸付金など)のスリム化(郵便貯金・年金資金の預託金の払戻し完了)によって金利変動リスクが低下したことを踏まえ、2007年12月12日の財政審財投分科会での審議を経て、2008年度以降は総資産の50/1000(=5%)に引き下げられました。

さらにその後も、金利変動準備金をめぐる「埋蔵金」論争は続きます。麻生内閣期の2008年9月に起きたリーマン・ショック直後、景気対策を講じることにしました。景気対策として、65歳以上と18歳以下の人に配る定額給付金のための約2兆円の支出や7.1兆円の税収減などを盛り込んだ2008年度第2次補正予算で、財源が足らないことから、この金利変動準備金を4.2兆円取り崩して賄うことにしました。金利変動準備金は、これまで、取り崩しても国債の償還に充てることとしていましたが、ついに一般会計での税収不足の穴埋めに使われることになりました。

次いで2009年度予算で、基礎年金の国庫負担(給付財源を税金で捻出する)を増額する(国庫負担割合を約3分の1から2分の1に引き上げる)ことにした際、他の歳出を削減するか増税するかしないとこの増額の財源が捻出できない事態に直面しました。このとき、この金利変動準備金を7.3兆円取り崩して、年金給付の財源に充てることにしました。さらに、2009年9月の政権交代後の民主党政権でも、この基礎年金の国庫負担の増額のために、金利変動準備金を2010年度も4.8兆円、2011年度も1.1兆円取り崩して賄うことにした。2010年度末の時点で、金利変動準備金残高はついに0.1兆円となり、ほとんど払底してしまいました。それでも、2011年度に取り崩せたのは、2010年度決算で生じた1.0兆円の剰余金を使ったからです。

これ以降、財投特会の金利変動準備金は払底してほぼゼロなのですが、税収不足に苛まれるわが国の財政では、少しでも財源を捻出しようと、震災復興のための支出に充てるべく2012年度に1.0兆円、2013年度に0.7兆円取り崩しました。いまや、金利変動準備金の残高はほぼないので、財投特会における決算時の剰余金を、生じては取り崩し、生じては取り崩すという状態です。

結局、2006~2013年度において、財投特会から取り崩した金額は、38.2兆円に上りました。

「埋蔵金」の取り崩しをめぐって、すぐに必要としないお金だから有効活用すればよいという見方ができる半面、今後財投特会で逆鞘状態になって前述のような赤字が出たときにそれを埋め合わせるために、一般会計から国民の税金を投じざるを得ないほどにまで金利変動準備金を使い切ってしまってよいのかという課題も浮き彫りになっています。金利差によって得た剰余金を貯め込まずに国民に還元せよといえども、払底するほどに金利変動準備金をなくしてしまっては、元も子もないのです。この点については、筆者も過去の財政審財投分科会(2012年12月20日)でそう発言しました。

今後の財投特会の剰余金

さて、4月25日の財政審財投分科会の議論に話を戻しましょう。この会合で報告された分析結果を盛り込んだ資料1-1を踏まえると、財投特会が債務超過となる可能性は小さいものの、2016年度から単年度の赤字に転落するリスクが発生し、2020年度以降は赤字が複数年間継続するリスクが高まることが明らかになりました。金利変動準備金が目下払底していますから、もし財投特会で複数年間継続して赤字になれば、財投特会の財務の健全性を揺るがすことになりかねません。

これを踏まえた対応を考えると、中期的に赤字転落のリスクが顕在化していることから、財投特会の財務の健全性を確保するためには、2016年度当初(2015年度末)において一定程度の積立金(金利変動準備金)を確保するとともに、それ以降積み立てを継続的に行って、債務超過に陥らないような水準にまで金利変動準備金を積み立ててゆくことが必要であることが確認されました。ちなみに、総資産の50/1000相当の金利変動準備金を備えようとすると、2020年度までに6兆円程度これから積み立てなければならない計算になります。

金利変動準備金は、「霞が関埋蔵金」だから取り崩せば増税しなくてもよい、と言って取り崩し続けてきたツケは、財投特会が複数年度にわたり継続的に赤字になれば、その赤字補填のために国民の税金を投じなければならない羽目になります。今後は、国民の税金(一般会計からの繰入れ)に依存しない形で、金利変動の損失リスクに備えて金利変動準備金をきちんと積み立てていくことで、そうした憂き目に遭わないように備えなければなりません。

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※ 「霞が関埋蔵金伝説」トリビア ※

「霞が関埋蔵金伝説」の初出は、自由民主党財政改革研究会「中間とりまとめ(平成19年11月21日)」です(私が知る限り現時点ではネット上で公開されていません;筆者は公開されていた当時のPDFファイルを保有していますが、著作権等の問題がクリアされない限り提供できません)。この文書で、「行政改革と財源可能性について『霞が関埋蔵金伝説』」と記されました。

趣旨は、説明を補足して述べると、徳川埋蔵金など日本各地にある「埋蔵金伝説」のように、根拠は定かでないが埋まっているとされる財宝を掘り出せば一攫千金であるかのごとく、国家予算において、帳簿上ついているが動かせないお金をあたかも使えるかのように錯覚して財源が捻出できると当時の民主党が提言している、と自民党側から批判する言葉として「霞が関埋蔵金伝説」が登場したのでした。霞が関と冠されているのは、「埋蔵金」と思しきものの所在地が中央省庁であることにちなんでいます。

ところが、当時の民主党と同様の主張は、自民党内にもあって、揶揄して「霞が関埋蔵金伝説」と称したはずが、埋まっている(帳簿上にある)のだから取り崩せば使えるお金=「(霞が関)埋蔵金」と肯定的に使う人が多くなっていきました。「埋蔵金伝説」の意図で用い始めたところ、特別会計や独立行政法人の積立金や剰余金を指す別称として「埋蔵金」が有名になりました。もちろん、「埋蔵金」は、一度掘り出して使ってしまえば繰り返し財源として使えるものではない(恒久的な財源にはならない)、という意味で使う人もいます。

慶應義塾大学経済学部教授・東京財団政策研究所研究主幹(客員)

1970年生。大阪大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。慶應義塾大学准教授等を経て2009年4月から現職。主著に『地方債改革の経済学』日本経済新聞出版社(日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞受賞)、『平成の経済政策はどう決められたか』中央公論新社、『入門財政学(第2版)』日本評論社、『入門公共経済学(第2版)』日本評論社。行政改革推進会議議員、全世代型社会保障構築会議構成員、政府税制調査会委員、国税審議会委員(会長代理)、財政制度等審議会委員(部会長代理)、産業構造審議会臨時委員、経済財政諮問会議経済・財政一体改革推進会議WG委員なども兼務。

慶大教授・土居ゼミ「税・社会保障の今さら聞けない基礎知識」

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