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あのサイボウズでもテレワークは苦戦した? #コロナ禍の働き方 前編

白河桃子相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト
サイボウズ代表取締役社長 青野慶久 写真サイボウズ提供(左)、白河桃子(右)

コロナ禍の経験を生かすか元に戻るのか

 コロナ禍の影響で3月と4月に170万人が初めてテレワーク(パーソルの調査)を経験し、働き方のパラダイムシフトが強制的に起こりました。全国では34%、東京だけで見ると55%のテレワーク率(内閣府調査)です。ところが、緊急事態宣言が解除されてから、だんだん「出社」に戻りつつある。企業はこの経験を生かせるのか、元に戻るのかの迷いの中だと思います。

 ではビフォーコロナはどうだったのか。テレワーク制度があると答えた企業は19.1%。その19.1%(総務省調査)の中で実際に利用しているという社員は5%未満という企業が半数という状況でした。コロナで一気にやってきた働き方のパラダイムシフト。今後の企業のあり方に悩む経営者の心構えをサイボウズ青野慶久社長とオンライン公開対談で話し合いました。

出社組とテレワーク組、ハイブリッド型のデメリット

白河  「がんばるな、ニッポン」のテレビCMが印象的なサイボウズ、青野社長におこしいただきました。なぜ青野さんかというと、サイボウズだったら、今回の状況にも楽々と対応できると思っていたら、意外と苦戦していたという記事を読んだからです。(ビジネスインサイダー「【サイボウズ社長・青野慶久】全員オンラインで気づいた情報格差。「僕はもう出社しちゃダメだ」と大反省」)。

サイボウズCMより
サイボウズCMより

 家族が一日中家にいて楽しく幸せなこともあったし、クローゼットやお風呂場で仕事をしなければいけなかった人もいる。テレワークをすでに働き方の一つとしていたサイボウズでは、今回のコロナでの在宅勤務対応でなにがありましたか? 

青野  テレワークはちょうど10年前に始めました。

サイボウズでは2010年8月に在宅勤務の試験運用が開始された。資料:サイボウズ提供
サイボウズでは2010年8月に在宅勤務の試験運用が開始された。資料:サイボウズ提供

 当時は、成果物の品質やモラルが低下するのではないかとか悩んだのでルールを決めました。前日までに申請、承認の必要性、月4回まで、何時間働いたか記録する、さらにコメントを付ける――今考えると管理ガチガチですよ。サイボウズも所詮こんなレベルでしかなかったわけです。

 この後に東日本大震災が起きて、一時期、全員が在宅勤務せざるをえなくなってしまった。そこでテレワークの管理業務がいかに無駄かがわかった。公明正大な、嘘をつかないという社内風土さえ作っておけば、管理いらないんじゃないとなりました。

サイボウズのテレワーク制度の変遷。導入初期には事前申請、時間や回数制限など諸条件があったことがわかる。資料:サイボウズ提供
サイボウズのテレワーク制度の変遷。導入初期には事前申請、時間や回数制限など諸条件があったことがわかる。資料:サイボウズ提供

白河  今回、常時繋いでいるようなマイクロマネジメント型と、放置型と、極端でしたね。全く慣れていないところは朝夕のミーティングや、孤独だという人には繋ぎっぱなしも初期はアリだと思うのですが。しかしサイボウズは経験値が違います。

青野  サイボウズも慣れてると思っていたんですが、今回また新しい発見がありました――コロナ前までは私自身は出社していて、会議では会議室に人を集めて、そこにリモートの人はリモートで参加してもらうというやり方をしていていた。そうすると、会議室の中にいる人とリモートの人とで、情報に差が出てきてしまう。

白河  オンライン、オフライン格差ですね。今後もっと大きな問題になると思います 。

青野  声が聞こえにくかった、会議室の雰囲気が分からず口を挟めなかった。情報格差はいろいろです。全員が一律テレワークになったら、これまでリモートで繋いでた人から「私にとっては大変働きやすくなりました」と言われました。うわ、働きにくい原因を使っていたのはオレかと反省して、会議は基本オンライン開催にして、出席者間の情報格差を失くすようにしました。

 今サイボウズは社員が約1000人で国内外15拠点あるんですよ。働く場所によって情報格差が出るというのはよくないから、バーチャル社長になろう。私に話しかけたかったらバーチャルにおいで、これで行こうというのが、今回の学びでした。

白河  今、オフィスに出社する社員とテレワークする社員のハイブリッド型勤務にしようとしている企業が多いと思うんです。どう思いますか?

青野  今後、元に戻っちゃう会社と進化する会社と二極化する気がします。でもサイボウズは戻れないです。一部の人が会議室に集まって話すという方法の非効率性が見えてしまったから、もう戻らない。

白河  とあるIT企業の経営者は、IT企業だからテレワークできるわけではなく、経営者のスタイル次第と言っていました。全員集めて顔見ないと気が済まない人もいる。

青野  IT企業遅れてますよ(笑)。社風によるところが大きいです。なぜ戻ろうとするのかというと、不安なんだと思います。みんな働いてくれるんだろうか、成果物は出してもらえるんだろうか――その不安感が拭えたところは成果も出るし、モラルもモチベーションも上がるし、採用の定着率も上がる。

今後のテレワーク、今何をやるべきで、何が必要か

白河  テレワーク推奨から原則、そして出社停止になったのが緊急事態下の経緯ですね。スタートラインがどうだったかを5つのパターンに分類しました。1と2は今回は大混乱だったのではないか、3のところは今後どうしようか、何が利点で何が駄目だったか現場の声を訊いて、今後に備える時期だと思うんですよ。

資料:白河作成
資料:白河作成

結局、テレワークできない仕事があるんじゃなく、上司や経営の理解が大きな部分だとわかりました。今ズームを観ている方からも「10人以下ならと会議をしようと会社に呼び出そうとする上司がいる」との報告がありますね。そして、どんなに会社の悪口を言っている人でも、テレワークで10日くらい経つと「孤独だ…」と言い出すんです(笑)。色々な課題はありますが、今後のテレワーク推進には何が必要でしょうか?

資料:白河作成
資料:白河作成

青野  いつも言うのは、管理のスタイルを変えていく、自由な働き方をうまく利用していく、そのためには社内の風土が変わらないといけない、ということ。風土というのは価値観です。風土が変わらない限りは、在宅制度を導入して環境整えてセキュリティ入れたとしても、やっちゃまずいみたいな空気が残る。それでアウトです。経営者が社内の価値観を変えるという覚悟を決めないといけない。

白河  経営者も社員の声をきちんと聞いて欲しいですね。とある風土が昭和な会社が、緊急事態宣言が終わってすぐ全員出社にしようとしたところ、社員が反発して考え直すことになったそうです。今だったら社員は声を聞いてもらえるので、どんどん言いましょう。

オンライン会社説明会で参加者が増えた

白河  テレワークで困ることの一つに採用や新人教育があります。これはどうされていますか?

青野  人事が採用イベントを開けない。仕方なくオンラインの会社説明会に変えたんですよ。で何が起きたかと言うと、参加者が増えたんです。東京と大阪、二箇所でやる必要もなければ、椅子を並べる必要もない。マイク持って人が走る必要もなく、テキストで質問もくる。こっちのほうが効率良くないか? となりましたね。

白河  メリットばかりですね。株主総会もオンラインでやられていましたね。

青野  会場ではポツンポツンとみんなが座っていて、参加者は4人。同時にオンライン配信したら、これまでは100人から200人くらいだったのに、視聴者が500人。これもまた、こっちのほうが良くないか? ということになりますよね。自分たちはITを相当使いこなしている部類の会社だと自負していましたから、びっくりしました。

白河  それは、感染防止という意味では社会のためでもあります。就活生に言っているのは、今こそ、社員を守れる会社なのか、公益のために動ける会社なのか――普段SDGsやESGと言っていることができているのか、見極めるチャンスですよ、ということです。

青野  就活生には、「会社って何ぞや」ということを見てほしいですね。会社のブランドではなくて「誰が経営しているのか」っていうことです。会社っていうのは法人なので実際には存在しないんですね。今誰が経営しているのか、その人はどんな人で果たして自分の人生を預けていいのか、人を見て欲しいなと思います。

白河  採用についての質問が視聴者の方からきています。「オンライン採用に切り替えたのですが、最終的に直接会わなければという経営者を説得できないでいます」

青野  僕らは最終までオンラインですが、リアルがいらないかというとそういうことはない。社長と会って握手する、ものを手渡しでもらう、目の前で拍手をもらう、食事を一緒にとる――三密と言われているリアルの持つ価値ですよね。どうオンラインとリアルをうまく組み合わせるかですよね。

ブレストもオンラインで

白河  ブレインストーミングのようなクリエイティブな仕事、これはオンラインには向かないという意見がありますが、どうでしょうか。

青野  オンラインホワイトボードのクラウドサービスがいろいろあるんです。これを使うと、ひとつの画面を見ながら自由に書き込んでいける。同じことをリアルな会議室でやったとしたら、ホワイトボードの面積による限界を感じることがあります。でもオンラインホワイトボードは限界がないですから。miroやJAMボードが有名ですね。(後編へ続く)

相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト

東京生まれ、慶応義塾大学。中央大学ビジネススクール MBA、少子化、働き方改革、ジェンダー、アンコンシャスバイアス、女性活躍、ダイバーシティ、働き方改革などがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに19万部超のヒットとなった著書「婚活時代」で婚活ブームを起こす。内閣府「男女共同参画重点方針調査会」内閣官房「第二次地方創生戦略策定」総務省「テレワーク普及展開方策検討会」内閣官房「働き方改革実現会議」など委員を歴任。著書に「ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち」「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」「女子と就活」「産むと働くの教科書」など多数。

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