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オフィスに残る最後の価値をサイボウズ青野さんに聞く #コロナ禍の働き方 後編

白河桃子相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト
サイボウズ代表取締役社長 青野慶久 写真サイボウス提供(左)、白河桃子(右)

オフィスの価値は今後どうなるか

白河  さきほど(前編)「三密の価値」ということを言われていましたが、今後「会う」ことの価値はどうなっていくでしょうか。

青野  不安感が拭えないんだったら会ったほうがいいですね。怖いのは「オンラインで何が悪い」派と「必ず会わなければ」派の対立が起こることで、答えは真ん中くらいにあると思いますね。

白河  オンラインが快適というひとは元からリアルでも知り合いでもある。では新入社員や大学の新入生はどうしたらいいのか、友だちができないんですね。

青野  サイボウズは入社式も研修もオンラインで、先月から出社したかったらしてもいいよ、となったら新入社員が社内を歩く姿を見かけるようになって「おー、リアル青野や!」と言われました。

白河  これこそが対面の価値ですね。オフィスの解約が進むという話もありますが、青野さんはあの素敵なオフィスはどうするんですか?

青野  リアル・オフィスの機能はふたつに絞れると思います。ひとつは、サイボウズの社内にあるバル――酒場を設置していて、これを使うためにオフィスに行くんですね。奥にキッチンがあってみんなで料理して 、みんなで食べる。変な言い方ですが、ランチをしに会社に行く。

 もうひとつは、在宅勤務でベストなパフォーマンスを出す環境が実現できるのか――セキュリティ、ネットワーク、パソコンの性能、集中できる環境――を考えると、メンテナンスされたリアル・オフィスのほうがいい場合があるわけです。逆説的ですが、オフィスに行って一人で働く。

白河  一人で集中するために出社する。

青野  そうなると、地価の高いところにオフィスがある必要はなくて、家から自転車で10分くらいのところにあるとうれしい、という距離感が新しいリアル・オフィスの在り方として見えてきますよね。

白河  オフィスが入らないのではなく、今後は分散化されていくということですね。

青野  なっていくと思いますね。みなでランチをするために集まる場所は、交通の便が良いところで、ひとりで集中する場所はサテライトでいいわけです。サイボウズでは会議室を減らしていくかもしれませんね。

白河  会議室こそ要らないわけですね。

青野  オフィスに会議室がないのにキッチン(バル)があるという、不思議なことになるかもしれませんね。集中できる環境も人によって違いますから。ちょっと雑音があったほうが働きやすいっていう人もいれば、個室が欲しいっていう人もいます。

サイボウズCMより
サイボウズCMより

オンラインでいかに雑音を作るか

白河  質問が来ています、「在宅勤務が進み、コミュニケーションはオンラインでひんぱんに出来ていますが、オフィスでの井戸端会議的なコミュニケーションができなくなったため、他部署が見えない。どうされていますか」――立ち話が意外と重要だったとかありますよね。

青野  効率は上がったのですが、失ったものが目に付くようになってきました。たとえばオフィスを歩いていれば「あの部署のAくんは最近顔色が悪いからフォローしようかな」と考えられる。ところが今は、オンライン会議以外の時間は見えないし聞こえない。そこを何とかしていかないといけない、雑音を作りに行かないといけないと思います。今、何もないけれども参加していいラウンジみたいな会議室を常にオープンしています。行ったら誰かいるみたいな。

白河  いいですね。図書室じゃないけど。

青野  ボソボソ独り言を言いながらみんなで働くみたいな(笑)。以前の社長ランチミーティング、 オレとランチで一緒に話したい人は皆来ていいよっていうのをやっていたんですが、それをオンライン化して、フルオープンにしています。今の私と白河さんのZoomがまさにそういう感じで、聞いてる人が72人いて、訊きたいことがあったらチャット質問してもいい。これをラジオみたいに聞いてもらうんですよ。ランチなので昼時なんですけれども、一人で在宅勤務で何も音のないところで食べるランチと、社長と誰かが喋っているのを横で聞いていて、気になったら突っ込める、ちょっと気持ちが違ってきますね。1日の番組表みたいなのがあって、いろんな部署が公開ミーティングみたいのをやっているんですよ。

白河  面白いですね! 社内ミーティングを社内公開するんですね。

青野  オンライン会議の場合は録画できますよね。時間帯が合わなかった人でも、後で見たり聞いたりする。

白河  違う部署の会議を傍聴していいというのはすごいですね。

青野  サイボウズの場合は以前からですけれども、経営会議フル公開で実際の出席者が30人、傍聴でリモートから70人とかあります。

白河  うまく設計されていますね。リアルとリモートのハイブリッドになったときに「こっちがメインだよね」といった組織的な分断が起きることがビジネスにとっては良くはない。でも、サイボウズのような「オープネス」が実現できたら大丈夫かもしれない。

青野  おっしゃる通りですね。

オンライン営業で東京と地方が逆転する?

白河  質問を見てみましょう。「営業職のオフラインとオンラインの組み合わせは?」――もう何となく商談に行く、顔を見せに行くのはあり得ないという話はかなり聞いています。

青野  オンラインの営業を受け入れるところに優先的に営業しようとなりますよね。お客さんも、オンラインの営業を受け入れないと、営業に来てくれないとなってしまいますよね。まず、クライアントに柔軟性があるかどうか。ここで選別されてしまう。

白河  働きやすい会社は働きやすい会社とつながっていくわけですね。

青野  たとえば、離島の会社からオンライン営業を受け入れますと言われたら、行けるわけです。お客さんの側の地理的ハンデもなくなりますから、地方にとってはチャンスですよね。地域格差が減るんじゃないかという楽しみがありますね。ついに、東京と地方が逆転していく可能性が出てきたんです。営業職も、東京に住まず生活のコストを下げて全国を相手に仕事ができる。

社内部活動が社員間ののりしろに

白河  仕事以外の活動のリモート化ですが、「サイボウズは社内部活動がさかんとおききしましたが、どんなことをしているんですか?」

青野  社内部活動もみんな工夫していますよ。みんなでヨガをする部活は、オンラインで動画を録画して後で見るとか。映画部はみなで映画を見に行って感想をシェアするんですが、Netflixに同じものを見ながらチャットできる「Netflix Party(ネットフリックスパーティー)」という機能があって、それを使って「AKIRAを見ようぜ」という会をやっていました。

白河  社員同士をつなげる「のりしろ」的な部分も会社には必要ですね。

青野  今まで、リアルでないとできないと思っていただけで、ITを使うと今まで以上のことができるかもしれないんですね。

個人情報の扱いとコールセンター

白河  質問です。「個人情報の扱いがネックになっています」――これはクラウドを使えばいいのではと思うのですがいかがでしょうか。

青野  これはイエスでありノーでもありますね。クラウドを使っていれば、セキュリティレベルを上げられるという点ではイエスなんですが、難しいのはコールセンターですね。コールセンターというのは顧客の情報を見るだけでなく喋りますよね。誰が聞いているかわからない在宅勤務ではさせられない。家に防音ルームがあってカギがかかるくらいじゃないと難しい。サイボウズでは1か月ほど閉めざるを得なかったですね。

白河  地方にあるコールセンターで、今空いているホテルに部屋を取って出社させるというのがあって、これはアリだなと思いました。

青野  それは素晴らしい。

21世紀の子どもたちを育てるためのITとは

白河  最後に教育についてお聞きしたいです。

青野  残念なことに、日本はデジタルに弱いと言わざるを得ないですね。「ものづくり」という掛け声でハードウェア主体だったこともあって、ソフトウェア産業を認めてこなかった。コロナ対策で、期待してたことがふたつあるんですね。ひとつは、強制的にリモートワークをすれば若い人たちの考え方が相当変わるだろうと。これは実際にそうなってきていると思います。

白河  そうですね。マインドが変わったらそれは戻らないですからね。

青野  もうひとつは教育です。学校もオンライン授業をやらざるを得ないし、学校が何十年も変わらなかった授業スタイルを変えるかもしれないと期待したのですが、これは不発に終わりそうですね。3か月ではどうにもならなかったかーと。

白河  一部の先生方はとても頑張っていましたが。ところがやってみると、回線が脆弱過ぎて双方向授業なんかできない。

青野  我が家もふたり小学生がいますが、学校はITに弱いですよねぇ。オンラインを諦めてプリントを渡してるんですよ。週1回くらい親が呼び出されて、束になった宿題を渡されて「今週の宿題はこれです」って(笑)。何にも進歩しない。タブレットで学習すると個々のペースに合わせられますし採点まで自動的にできる。コンピュータでもできるところは任せて、先生が集中すべきところに注力すべきだと思うんですよね。「諦めました」と言いたげな宿題の山を見たときに何ともいえない絶望感が…。

白河  デバイスが全員になくて不公平だからというのが、できない原因のひとつですが、広島県教育委員会では「貸し出すなどして何とかする」と言っています。オンライン授業コンテンツ自体は塾などが配信しているものも使える。でも、子どもの見守りや伴走は先生しかできないんですよね。かっこいいオンライン授業をするよりはしっかりつながる、困ったときは助けられる、デジタルを運用する際はそこを大事にして欲しいですね。

青野  僕らはインフラ屋ではないんですが、インターネット回線やタブレットなどの端末機器を家庭で持つことは基本的人権にしてほしいんですよ。今後社会人になったときに検索もできないと、情報格差が広がってしまいます。授業のなかでインターネット検索方法を教える、インターネットリテラシーを教える、そこを徹底すれば21世紀の子どもたちを育てられると思うんですよね。

白河  水道と電気と同じように欠かせないものであると。

青野  新興国を見ても明らかですよね。たとえ家に水洗施設がなく電気がきていなくても、スマホは使う時代です。

白河  ITを社会インフラに、ですね。ありがとうございます。さて、朝の10時からみなさんも、たくさんの質問ありがとうございました。最後に昭和な経営者に言いたい一言をお願いします。

青野  「一歩ずつ行きましょう」ってことですね

白河  そうですね。みんなで滅多にできない経験をしているわけですから、なかったことにしちゃったらもったいないです。社員の声を聞きつつ、一歩ずつですね。青野さん、ありがとうございました。

相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト

東京生まれ、慶応義塾大学。中央大学ビジネススクール MBA、少子化、働き方改革、ジェンダー、アンコンシャスバイアス、女性活躍、ダイバーシティ、働き方改革などがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに19万部超のヒットとなった著書「婚活時代」で婚活ブームを起こす。内閣府「男女共同参画重点方針調査会」内閣官房「第二次地方創生戦略策定」総務省「テレワーク普及展開方策検討会」内閣官房「働き方改革実現会議」など委員を歴任。著書に「ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち」「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」「女子と就活」「産むと働くの教科書」など多数。

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