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飲酒運転の危険 かつて筆者も二輪練習所で体験。痛感した”怖さ”とは

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
アルコールが入るとまっすぐに走れなくなります。過信は禁物。しっかり認識すべきです(写真:アフロ)

 9月22日、道路交通法違反(酒気帯び運転)容疑で現行犯逮捕された山口達也氏(48)。

 しかし、釈放前と釈放後では、その供述内容が大きく変化しているようです。

<釈放前> 

酒を飲んでバイクを運転したとして逮捕されたTOKIOの元メンバー・山口達也容疑者が、事故前日の夜、「麦焼酎をロックで5~6杯飲んだ」「事故さえ起こさなければ捕まらないという認識だった」などと供述していることが分かりました。(2020.9.24/TBSNEWS より抜粋)

<釈放後>  

捜査関係者によりますと、山口さんは逮捕された当初は容疑を認めていましたが、検察の取り調べに対し、否認に転じたということです。

(2020.9.24.23:00/テレ朝NEWS より抜粋)

 すでに供述したどの点に対して「否認」をしているのかは、現時点ではわかりませんが、白昼堂々、大型バイクを蛇行させ、ときには対向車線にはみ出しながら走行するその姿は、後続車のドライブレコーダーの映像にしっかりと残されていました。

『元TOKIO 山口達也容疑者(48)ドラレコに事故直前の“異様な運転”』(2020.9.23 TBSNEWSより)

 この危険な運転は、前車に追突する事故を起こしてようやく終わります。

 しかし、バイクと言えども大型車となれば重量もパワーもあり、アクセルを少し開いただけで相当な速度が出ます。

 そこにいたるまでの間に、もし歩行者の列に突っ込みでもしたら……。

 死傷者を出さなかったことだけは、まさに幸運だったといえるでしょう。

2002年、東京都内で発生した追突死亡ひき逃げ事故の被疑者の酒気帯び鑑識カード。質疑応答状況に酩酊状態が見て取れる。0.75mgという濃度は、今回報じられている山口氏逮捕時の呼気濃度と同じだ(本事件の遺族提供)
2002年、東京都内で発生した追突死亡ひき逃げ事故の被疑者の酒気帯び鑑識カード。質疑応答状況に酩酊状態が見て取れる。0.75mgという濃度は、今回報じられている山口氏逮捕時の呼気濃度と同じだ(本事件の遺族提供)

■飲酒事故の遺族が受けた衝撃

 私は山口氏が逮捕されたその日、偶然にも飲酒運転による追突事故で息子さんを亡くされたご遺族の体験を執筆し、翌日公開していました。

『父はなぜ、息子の棺を蹴ったのか…「加害者」取り違えた警察の捜査ミスと、30年間消えぬ飲酒事故遺族の遺恨』

 居酒屋で酒を飲んだ当時20歳の会社員は、友人の制止を振り切って強引に車を走らせ、信号待ちで停止していた複数の車に猛スピードで追突。最初に激突され、ガソリンタンクが破損して被害車は炎上し、26歳の男性が焼死、4人が負傷したのです。

 ご遺族の椋樹立芳さん(85)から、今回の山口容疑者の報道について、こんなメッセージが寄せられました。

「これほど飲酒運転の危険性が叫ばれてきたというのに、山口氏のあまりに酷い行為をニュースで見て、本当に驚き、憤りを覚えました。物損事故で済んだことは幸いでしたが、飲酒運転による事故は、単なるうっかり過失の事故とは全く別物です。事故の相手が人であろうがモノであろうが、それは偶然の結果に過ぎないのです」

 そして、「このような機会だからこそ」と、こんな問題提起をしてくださいました。

本来は、酒を飲んで運転するという卑劣な行為そのものを厳罰にすべきだと思います。本音を言えば、次の被害者を生まないために、酒気帯び運転で捕まっただけでも刑務所に行ってほしいくらいです。そして、自賠責保険や任意保険は、飲酒で事故を起こした人間に対しては、支払った保険金をできる限り加害者本人から求償すべきでしょう。そうでもしなければ、抑止力にならないのではないでしょうか」

■『自分は大丈夫』という”誤った過信”がまねく危険

 なぜ、飲酒運転が後を絶たないのでしょうか。

 報道によれば、山口氏は、

「事故さえ起こさなければ捕まらないという認識だった」

 と供述しているそうです。

 それは、たとえ飲酒していても「自分に限っては事故を起こさない」という誤った過信があるからでしょう。

 実は、ずいぶん前のことですが、私は大型バイクで飲酒走行の体験をしたことがあります。

 1980年当時、「限定解除」(大型二輪免許)は運転免許試験場での一発試験を受けるしかありませんでした。

 しかし、その試験が非常に難しく、多くの人は試験を受ける前に独自に大型二輪練習所に通って特訓を受けていたのです。

 私が通っていた練習所の高齢の所長さんは、気骨のある方で、いつも竹刀片手に徹底的な指導をされていました。

 そんな所長さんが、ある日、

「今度の日曜、飲酒運転がいかに危険か、走行実験をしてみよう」

 と言い出したのです。

 ビールを1杯ずつ飲んだ私たちは、いつもまたがっている750ccの教習バイクで一本橋を渡るよう命ぜられました。

 幅30センチ、高さ5センチ、長さ15メートルの細い橋の上を、脱輪せず、安定した状態で、大型バイクの場合は10秒以上かけて通行することが求められるのです。

 正直言って、ビール1杯程度では酔った感覚はほとんどなく、心の中では『かなり練習も積んできたんだし、一本橋くらい、なんてことないはずだわ』と軽く構えていました。

 ところが、普段なら難なくクリアできるはずの一本橋なのに、挑戦者の多くが途中でバタバタ落ちてしまうではありませんか。

■ビール1杯でも「一本橋」脱落! 過信は禁物

 私もその一人でした。しっかりニーグリップ(膝でしっかりとタンクを抑えること)をして、いつものように慎重に渡っているのに、ふいにぐらつき、最後まで渡りきることができないのです。

 あの体験走行に参加した人たちは、アルコールがいかに運転に影響を与えるか、そして、自分をどれほど過信していたかという浅はかさを思い知ったはずです。

 その後、大型二輪免許が教習所でとれるようになり、東京都三鷹市にあったその練習所はなくなってしまいましたが、免許取得前にあのリアルな恐怖を体験させていただいたことに、私は今でも感謝しています。

 これまで、どれほど多くの人が、卑劣な飲酒運転の犠牲になってきたことでしょう

 残されたご遺族は、想像を絶する苦しみ、悔しさの中、飲酒運転の撲滅を願って声を上げ続けてきました。

 今回の追突事故では、本人が一部否認しているとのことで、事故の本当の原因はまだはっきりしていません。

 しかし、バイクが蛇行しながら公道を走行するあの生々しい映像は、しっかり残されました。

 あの映像が飲酒運転の恐ろしさを広く伝えるための警鐘となり、抑止力につながることを期待したいと思います。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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