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中央銀行の金融政策での期待とは何か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

バーナンキ前FRB議長は退任後に金融政策の98%は市場との対話だった、行動は2%に過ぎなかったとブログに書き込んでいた。市場との対話というのは、市場参加者の期待に働きかける、というものであろうか。その期待とは何か。物価が上がる、景気が良くなるという期待であるのか。それともバーナンキ・プットと呼ばれたように、株式市場などの相場が下落すれば、FRBのバーナンキ議長が金融緩和策により相場を支えてくれるとの期待であったのか。

12月3日のECB理事会でドラギ総裁はドイツやオランダ、ラトビア、リトアニアなどの反対派を押し切って追加緩和を決定した。主要政策金利であるリファイナンス金利は0.05%に据え置き、上限金利の限界貸出金利も0.30%に据え置いたが、下限金利の中銀預金金利をマイナス0.30%に引き下げた。ドラギ総裁は会見で、債券購入の期間を2017年3月まで延長する方針を示し、買い入れる資産の対象に地方債を含めることも明らかにした。ドラギ総裁が理事会前に示していた包括緩和策を実行に移した格好である。それにも関わらず、市場はこの結果に物足りなさを感じたのか、3日の欧米の株式市場は大幅に下落した。

日銀の異次元緩和は思い切った資産買入により、人々の期待を強めて物価を上昇させることが目的としていた。しかし、その期待とは市場参加者の期待なのか、それとも国民全体の期待なのかは、はっきりしていなかった。当初はBEI(ブレーク・イーブン・インフレ率)という債券市場の一部の参加者が取引をして気配値を出している物価連動国債からその期待度を示そうとしていた。さらに日銀短観を含めたアンケート調査での物価予想を元に期待値を図ろうともしている。しかし、異次元緩和の効果として円安や株高などを指摘していることも多い。

果たして中央銀行の金融政策での期待とは何に対する誰の期待なのであろうか。リーマン・ショックや欧州の信用危機を通じて、日米欧の中央銀行は積極的な金融緩和策を実施してきた。しかし、この金融緩和の目的は危機の沈静化であり、その火元であった市場の動揺を抑えることにあった。物価や景気を回復するため期待に働きかけるのではなく、株価や国債の下落を食い止めて、金融市場の危機を沈静化することが目的であったはずである。

しかし、中央銀行の本来の目的が物価の安定や雇用の回復となっていたことで、危機が去ったあとは、物価が低迷しているとの理由で危機に対処するための非常時の緩和策をさらに強化するという事態となっている。ただし、米国のFRBは雇用の回復を理由に、その緩和スパイラルから脱しようとしている。さらなる追加緩和に踏み込もうという姿勢の日銀やECBが正しいのか、それともFRBの姿勢が正しいのか。その結果が来年にも現れてくるように思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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