新型コロナの”津波”が欧州を直撃 1億人隔離に国境閉鎖、パニック買い…英では高齢者は4カ月自宅待機へ
英紙「お年寄りは4カ月自宅待機」
[ロンドン発]新型コロナウイルスの“津波”が欧州を襲っています。筆者が暮らすイギリスの各紙朝刊の見出しから見ていきましょう。左派系の高級紙ガーディアンも、大衆紙デーリー・エクスプレスも「この流行が1年間続き、800万人が入院する」と伝えています。
次は左派系の大衆紙デーリー・ミラーも保守系の大衆紙デーリー・メール、通勤者を意識した簡略化新聞iは「私たちのお年寄りを救え」「高齢者は4カ月自宅待機へ」と伝えています。
無料紙メトロは近所のお年寄りを助ける時に必要なアドバイスを記しています。
保守系の高級紙デーリー・テレグラフは「隔離を拒否したら1000ポンド(約13万1500円)の罰金か牢獄」と報じています。
大衆紙デーリー・スターは「トイレットペーパーのパニック買いが続いている」。
経済紙フィナンシャル・タイムズと高級紙インディペンデントは首相官邸が危機対応をステップアップさせることを伝えています。
まさに新型コロナウイルスの猛威に対する“全体戦争”の様相を呈してきました。
欧州はカオスに
今やパンデミック(世界的大流行)のエピセンター(発生源)と化した欧州は1億人が移動を制限されるなど完全にカオスと化しました。
・イタリアとスペインが全国で移動制限
・ドイツはマスクや防護具の輸出禁止
・フランスはマスクの製造管理
・チェコはマスクの供給を国内にとどめる
・デンマークやポーランド、チェコが国境を閉鎖、独仏、オーストリアが国境管理
・欧州連合(EU)は新型コロナウイルスの防護具のEU域外への輸出を禁止。域内で物資や関係者の移動がスムーズになるよう調整
欧州は完全に約1カ月半前の中国と化しました。仏在住ジャーナリストで日仏プレス協会副会長、西川彩奈さんの協力でフランスやイタリアで日本人やアジア系の人たちに対する嫌がらせが起きていないか、街の声を拾いました。
フランス
パリ・オペラ座付近の日本食品店で働くレジの女性2人「個人的には、差別は全く受けたことはないです。ただ、他の地区に住む友人は街を歩いていたら“コロナ”と呼ばれたそうです。同じパリでも、住む地区によって変わってくると思います」
在仏40年以上の60代日本人女性「アジア人だからという理由のイジメなどは、全く見たことがありません。どの人種でも感染している可能性があるので、アジア人だからいう話はどこかへ行ってしまいました」
ブルジョワ地区と呼ばれる16区に日本人家族と暮らすジャーナリスト「私たち家族は幸い、今まで嫌な思いをしたことはありません。皆笑顔で親切に接してくれます。今のところ子供(6歳)も学校で嫌な目にあったことはなく、楽しく通学しています」
子供を日本語学校に通わす30代~40代のママさん「先日SNSを見ていたら、アラブ系フランス人が“アジア人、差別の対象に代わってくれてありがとう!”と書いた内容の投稿を見つけました」
「先日、友人がスーパーで買い物をしていた時に、フランス人女性が中国人に“あなた、家でじっとしていなさいよ。外に出ちゃダメでしょ”と発言したのを目撃したそうです」
在仏日本人ジャーナリスト「大部分の街のフランス人は平静に親切に接してくれる中、日本での不安を煽る報道に違和感を覚えると言う人が多いです」
30代のフランス人ジャーナリスト「コロナによるアジア人への差別意識は僕の周囲では誰も抱いていません。2015年のテロのあとはアラブ人に対する警戒心が一般的に強まりましたが、それとは比べ物になりません。もう人種は関係ありません。皆自己防衛として人と一定の距離を保ち、ウイルスを防ぐことが大事です」
イタリア
ベネチアの中心部にあるホステルで勤務する日本人女性(40)「ジロッとお年寄りに見られたと感じることはありました。ただ、個人的な意見ですが、アジア人ご自身の方の被害妄想もあるかと思います」
「妹はコロナ情報が出始めた頃は、地元の八百屋にこそこそ話をされ、口元を洋服で覆われたそうです。私は必ずサングラスをして、自己防衛しています。今は地元民しかいないので、逆に差別的な出来事は減っているのではと感じています」
ミラノ在住の30代のイタリア人男性「差別は馬鹿な人が行う行為です。コロナに対する恐怖からパニックになり冷静を欠いた人々が、アジア人を差別している。でもこれらの人がイコール、イタリア人と思わないでほしい」
どこの国にも差別的な人はいますが、ほとんどは励まし合いながら生きています。
(おわり)
取材協力:西川彩奈(にしかわ・あやな)
仏在住ジャーナリストで日仏プレス協会副会長。1988年、大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。