在日コリアンが強制送還?通名廃止? ウワサを市役所で確認したら…
ネット上に奇天烈な噂が流れている。その噂とは、「7月9日を境に在日コリアンが摘発され本国へ強制送還される」というものだ。
普段、この手の話はスルーしてしまうことが多いのだが、在日コリアンである私からすれば、たとえデマであっても、こうした話が流れること自体、まったく無視すべき現象ではない。なぜなら、7月9日を前にして、そこそこ有名な著述家までもが、このウワサを信じきっており、ウワサは確実に「悪質なデマ」に転じ、拡散されていたからだ。
もっとも、この手の話しは日付がハッキリしており、その日を境に事実が明らかになるからわかりやすい。悪質なデマ「7・9在日強制送還説」をおおまかにまとめると以下の通りだ。
「外国人登録証明書の廃止・特別永住者証明書への切り替え」をもって在日朝鮮人の通名使用が禁止される。使用したら不法滞在とみなされ、強制送還となる。
7月8日までに在留カードを更新せねばならず、しなければ不法滞在。入管に通報すれば即時、強制送還にできる。
韓国の兵役義務を満たしていない在日にはパスポートが発給されず、特別永住者証明書の切り替えができないので不法滞在となり、強制送還される。
ちょうど私も特別永住者証明書への切り替え時期だったので、確認も兼ねて居住地の市役所で手続きすることにしたが、結論から言うと「やっぱりデマだった」。
窓口担当者にウワサの事実を確認したところ「新しい証明書に『通名』は記載されませんが、以前と同じく基本的に公的書類にも普通に使用できまます。在日コリアンが日本から強制送還になることもありません」と答えた。同様の質問を韓国大使館関係者にも確認したが、兵役義務の話も含めてこちらでもまったくのデマであると改めて確認できた。
以上、笑い話で済ませても良いぐらいのものだが、それでもこうしたデマに厄介な“機能”が備わっているのも事実だ。おそらく今後、レイシストや排外主義者の一部(あるいは相当部分)は、この「7・9在日強制送還説」を根拠に、合法的に滞在している在日コリアンや在日外国人に対して次のように罵声を浴びせるだろう。
「お前たちは法的に全て不法滞在者だから出て行け!」
一部では、すでにこの通りの展開が見られ、あるネトウヨサイトでは私自身が「不法滞在者摘発リスト」に入れられているらしい。私なんかよりも、よっぽどネット上で排外主義者・レイシストと日常的に対峙している在日コリアンやカウンター系の日本人に対するパッシングを想像するだけで恐ろしくなる。
ただし、私は今現在も強制送還されずに、こうして日本に滞在しながら原稿を書いている。周辺の在日コリアンも平常通りの日常を送っている。昨日(11日)は、知人の在日コリアンが韓国から帰国したが、通常通りに入国し、パスポートも没収されていない。
今回、この話題を取り上げたのは、何の根拠もないデマ情報を信じるネトウヨの情弱ぶりをあげつらうためではない。レイシストや排外主義者は確信犯的に、この悪質なデマ情報を利用していることを指摘するためだ。
以前、デイリーNKジャパンで企画した鼎談のなかで、排外デモへのカウンター行動を展開する野間易通氏が、次のように述べたことを思い出した。
「リベラルな人たちが『マンガ嫌韓流』のようなおかしなものに文句を言って、レギュレーションをかけようとしなかった結果、レイシストをのさばらせてしまった」
たとえ下らないデマに過ぎずとも、その都度きちんと論破して潰しておく。「ヘイトクライム」を防ぐには、そういった手間を惜しんではならないのだ。