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ドーバー海峡の国境越えに2日半の遅延 アイルランド国境復活 英国の「合意なき離脱」プラン全容判明

木村正人在英国際ジャーナリスト
「合意なき離脱」に突き進むジョンソン英首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]10月31日「合意なき離脱」、11月1日総選挙のシナリオが実しやかに囁かれる中、英日曜紙サンデー・タイムズがジョンソン政権の「合意なき離脱」プランをすっぱ抜きました。ボリス・ジョンソン首相に不満を持つ官僚のリークと見られています。

コードネームは「キアオジ(スズメ目ホオジロ科に分類される鳥類の一種)作戦」。当初は3月29日だった欧州連合(EU)離脱期限は二度も先送りされ、「離脱疲れ」が広がる公的機関や中小・零細企業のほとんどは「合意なき離脱」への備えが十分できていません。

「合意なき離脱」プランの内容は次の通りです。

・英国が10月にEU加盟国でなくなると、EUとのすべての権利と相互協定が終了。英国は完全に「第三国」ステータスに戻る

・フランスは離脱1日目から英国の商品にEUの貿易管理を実施。ドーバー海峡を経由して移動する重量積載物車両の50〜85%にフランスの税関は対応できないかもしれない。フランスの港のスペースが限られているため、1日の流通量が現在のレベルから40〜60%に減る恐れがある

・ドーバー海峡の流通量が50~70%に回復するまで最悪の混乱は3カ月続く恐れがある

・重量積載物車両は大渋滞に巻き込まれ、ドーバー海峡の国境を越えるのに最大1日半から2日半の遅延に直面する可能性がある

・「合意なき離脱」の1日目、医薬品の流通量は最悪の場合40%に下がる。深刻な混乱は最大6カ月続く

・医薬品や医療製品のサプライチェーンはドーバー海峡に大きく依存。医薬品の4分の3は海峡経由。使用期限が短い医薬品もあり、6カ月分の備蓄は実用的でない。伝染病のアウトブレイク対策能力を減じる

・特定の生鮮食品の供給が減少。パニック買いが食料供給を混乱させるリスクも

・公共の水道サービスはほとんど影響を受けないが、最も重大な唯一のリスクは化学物質のサプライチェーンが停滞することだ

・法執行機関のデータと英国とEU間の情報共有は中断

・英国の国境を越えた金融サービスの一部は中断。ごく限られた英国の保険会社からEUへの保険金支払いが遅れる恐れも

・EUからの個人データの流れが混乱。「合意なき離脱」の場合、EUの一般データ保護規則(GDPR)の十分性認定に数年かかる可能性も

・交通の混乱は燃料供給を混乱させる恐れも

・EUの域外関税がかかると英国のガソリンのEUへの輸出は競争力を失う。英国政府が石油輸入関税を0%に設定すると大きな経済的損失が発生し、2つの製油所が閉鎖され、約2000人の雇用が失われる恐れも

・「合意なき離脱」1日目から3月13日に発表された「限られた例外を除いて新たな管理を実施しない」モデルを発動し、北アイルランドとアイルランド間に「目に見える国境」が復活するのを防ぐ

・しかしこのモデルは、経済的、法的、動植物セキュリティーのリスクのために持続不能になる可能性が高い。英国が「第三国」になるとアイルランドに入る商品に対するEUの関税と規制により、貿易が大幅に混乱

一部の企業は取引を停止したり移転したりし、消費者にコストが転嫁されるかもしれない。農業食品部門は最も打撃を受ける。価格や規制の違いが闇市場を生み出す恐れもあり、犯罪組織と反体制派のグループが大きな脅威になっている国境地域で深刻化する

・電気料金が上昇し、関連する経済的・政治的影響が大きくなる

・海外領土のジブラルタルではスペインとの国境管理が実行され、商品の供給やゴミの積み出しに混乱が生じる。労働者、住民、観光客の国境超えが数カ月にわたって4時間以上遅れる

・長期にわたる遅延はジブラルタル経済を損なう。国境を越えたサービスとデータフローは中断。ジブラルタルは不測事態対応インフラストラクチャーに投資する決定をまだしていない

・英国国民はEU市民権を失い、関連する権利とサービスへのアクセスが時間の経過とともに失われるか、異なる方法でアクセスする必要が生じる可能性がある。一部の加盟国では英国国民は今すぐ行動を起こす必要がある

・EU加盟国はEUに居住する英国国民に現在支払っている年金の支払いを継続

・欧州委員会とEU加盟国は英国の年金受給者と観光客向けの現在の医療制度を延長することに同意せず。「第三国」国民と同じ扱いに。相当な費用が発生する恐れも

・抗議と警備が英国全土で行われ、民衆暴動や地域の緊張が高まる恐れも

・最大282隻のEUと欧州経済領域(EEA)の漁船が英国の水域で違法操業する恐れがある。漁船同士の衝突や英国の漁船が法を破る恐れも

・低所得層は食料と燃料の価格の上昇により大きな影響を受ける

・社会福祉市場はすでに脆弱。EU離脱後に予想されるインフレーションでスタッフと供給コストが増加し、小規模な事業者は2〜3カ月以内に、大規模な事業者は4〜6か月以内に破綻するかもしれない

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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