あかんAREしてまう~過去の阪神アレ時の土地相続税路線価の動向から教訓を不動産鑑定士・税理士が考えた
■はじめに
今年は岡田監督の下、阪神タイガースがセ・リーグの18年ぶりのAREに向けて突っ走っています。
一昨年、某メディアがうっかり「アカン、優勝してまう」と銘打ったらその後、見事に失速し、0ゲーム差の2位に終わった挙句にCSもファーストステージ敗退との顛末であったため、今年のメディアは至って慎重なようです。
ただ、さすがに「ゲーム差>マジックナンバー」までくれば堅いでしょう。
そして、ここまで来れば「アカン、AREしてまう」と言ってももはや叱られることはないでしょう。
但し、ポストシーズンについては、過去の成績は1985年の球団唯一の日本一と2014年の2位からのCS突破以外はあまりよろしくないというのもあり、現状で2位の広島東洋カープは2016~2018年のセ・リーグ3連覇時の選手がまだ在籍していて経験値もあるというのもあって、予断は許しませんが…。
もっとも、個人的な意見ですが、阪神タイガースは過去の実績を見るに
「在京2球団との優勝争い・CS争い時は2014年のCS以外はことごとく敗れているが、他の3球団との優勝争い・CS争い時は比較的高い確率でものにしている」
印象があるので、たぶん大丈夫とは思っています。
何より、岡田監督の選手を大切にされつつ、言うべき点は的確に指摘される姿勢に好感を持たれる方も多いのではないでしょうか。
そして、その意味でも、優勝チームに相応しいとも言えるのではないでしょうか。
ただ、筆者は、虎党でも鯉党でもありませんので、極力中立の立場から見守りたいと思っています。
そして、阪神タイガースがARE間近の年の風物詩とも言える経済効果について、今年も関西大学の宮本教授による「阪神タイガース優勝時の経済効果」が試算され、872億円とされていました。
随分とにぎやかな経済効果の金額ですが、では、相続税路線価等が現在の制度になった以降で、過去のARE時、具体的には2003年や2005年と、その翌年の阪神タイガースの所縁のある土地の「その道路に面した土地の所有者が亡くなった際の土地に関する相続税計算のベースとなる」相続税路線価、ひいては地価や土地の固定資産税都市計画税はどうだったのか。ちょっと気になったので調べることにしました。
と、いっても、具体的に「どこの相続税路線価等の推移を調べるか」を決めないといけません。
迷った結果、不動産調査の鉄則として現地を訪れた上で、
(ア)阪神タイガースの本拠地の甲子園のある甲子園駅の駅前の相続税路線価
(イ)毎年春先から日本一早いマジック点灯と称して、本来の日本での優勝マジックの定義を無視して、独自の概念で「マジック143」とかを提示している阪神線尼崎駅近くの尼崎中央3番街の相続税路線価
を、かなり古い相続税路線価で国税庁のサイトにも掲載がありませんので、国会図書館での調査をも踏まえつつ、考察してみることにしました。
■尼崎中央3番街の相続税路線価の動向は?
尼崎中央3番街の名物と言えば、毎年、開幕からマジック140とかと称した看板をぶら下げて商店街を盛り上げる、虎の「めでタイガー」があります。
その「めでタイガー」のある地点の相続税路線価の動向は以下でした。
ちなみに、2001年から2005年までで随分と派手に下落していますが、そこは、まあ…。
2001年1月 670,000円/平米
2002年1月 550,000円/平米
2003年1月 480,000円/平米…この年の秋に星野監督でARE
2004年1月 420,000円/平米〔前年比12.5%の下落〕
2005年1月 410,000円/平米…この年の秋に岡田監督でARE
2006年1月 410,000円/平米
2007年1月 430,000円/平米
2008年1月 440,000円/平米…この年の秋に一旦は岡田監督退任
〔参考〕
2023年1月 370,000円/平米…この年の秋に再び岡田監督でAREか?
■甲子園駅近くの相続税路線価の動向は?
次に、なんといっても甲子園駅近くの相続税路線価を見てみました。
ここでは以下の2地点を見てみました。
①甲子園球場南側の道路沿いの普通住宅地区の相続税路線価
2001年1月 245,000円/平米
2002年1月 225,000円/平米
2003年1月 210,000円/平米…この年の秋に星野監督でARE
2004年1月 195,000円/平米〔前年比7.1%の下落〕
2005年1月 195,000円/平米…この年の秋に岡田監督でARE
2006年1月 200,000円/平米
2007年1月 210,000円/平米
2008年1月 230,000円/平米…この年の秋に一旦は岡田監督退任
〔参考〕
2023年1月 255,000円/平米…この年の秋に再び岡田監督でAREか?
②甲子園駅東側の、駅と球場の間の幹線道路沿いの店舗が建ち並ぶ道路の相続税路線価
2001年1月 330,000円/平米
2002年1月 310,000円/平米
2003年1月 290,000円/平米…この年の秋に星野監督でARE
2004年1月 265,000円/平米 〔前年比8.6%の下落〕
2005年1月 265,000円/平米…この年の秋に岡田監督でARE
2006年1月 275,000円/平米
2007年1月 290,000円/平米
2008年1月 330,000円/平米…この年の秋に一旦は岡田監督退任
〔参考〕
2023年1月 400,000円/平米…この年の秋に再び岡田監督でAREか?
■考えてみれば…公示価格の鑑定評価を担当させていただいた身として思い出したこと
甲子園は2005年優勝の翌年の2006年1月は微増していたものの、あからさまな優勝効果という程ではありません。甲子園に至ってはむしろ3位という冴えない成績に終わった2007年の翌年の方が地価は上昇しています。
それどころか2003年に至っては星野監督の下、18年ぶりの優勝で経済効果は十分にあった筈なのに、思わずドン引きする程、翌年1月の相続税路線価や地価は下がっていました。
公示価格の鑑定評価員の気持ちとして、前年比5%以上の上昇・下落をつけるのは勇気のいるものですが、7.1%や8.6%、12.5%の下落というのはなかなかです。
宮本教授のご指摘される経済効果と、相続税路線価やその元となる公示価格〔地価〕の上昇や下落はまた別ものなのだ…というのを筆者も改めて感じた次第です。
この分析をしていて、ふと思い出したことがあります。
2018年・2019年に、埼玉西武ライオンズがパ・リーグ連覇を果たしましたが、実は筆者は、それぞれ翌年の2019年・2020年の1月1日時点の公示価格の鑑定評価の担当地点として、西武線沿線の某市の数地点を担当させていただきました。
その際、相続税路線価や固定資産税都市計画税路線価の評価の基礎としての意味もある公示価格の鑑定評価に際して、取引事例の価格動向がどうとかはさんざん考えましたが、「そういや、去年、埼玉西武ライオンズが優勝したから景気良いな」などと言って地価をあげようとの発想は一切ありませんでした。
例えば、今年、北広島市のエスコンフィールドができた時の話のように、恒久的な好況を呼び寄せる価格形成要因の改善があれば、地価が上がり、連動して相続税路線価や固定資産税都市計画税も上昇して、土地所有者の税負担は増える一方で利便性が上がるというのは理解できる話です。
しかし、プロ野球チームの優勝は一過性の話です。
結局、公示価格(地価)や相続税路線価が上昇して、連動して土地の固定資産税や都市計画税、相続発生時の相続税も増えるのは、何も野球に限った話ではなく、イベント施設の設置や新線開業で駅ができる等の、恒久的な価格形成要因の変化がある場合と考えてよい…というのを改めて感じた次第です。
今回の現地調査の総括として、読者の皆様が今後、不動産を買われる場合や、その土地の固定資産税や都市計画税、相続税負担がどう推移するかの将来予測については、「一過性のものは考えず、恒久的な変化があるか」を一つの基軸として考えればよいのでは…というのも、豆知識として頭の片隅に置いていただければと思いました。
何かのお役に立てていただければ嬉しく思います。
現場からは、以上です。
※この記事の写真は全て令和5年8月23日に筆者が撮影。