インド・スリランカ、日中両国の間で漁夫の利か
インド・スリランカ、日中両国の間で漁夫の利か
中国の習近平主席は9月16日にスリランカを、17日にインドを訪問した。両訪問国首脳は安倍首相との会談に勝るとも劣らぬ熱烈歓迎をしている。日中、どちらが東南アジア諸国を取り込むか。陣取りゲームが始まる。
◆インドのモディ首相、日中に「いい顔」
インドのモディ首相が9月1日に訪日し、安倍首相と日印首脳会談を行った。日本は破格の厚遇でモディ首相を迎え、新幹線の輸出を始め、今後5年間で日本はインドに対して350億ドル(約3.5兆円)規模の官民投融資をすることを決めた。また安保・防衛協力に関する覚書や救難飛行艇「US-2」に関する議論も進展した。
モディ首相は「21世紀はアジアの世紀と言われているが、それがどのような世紀になるかは、日印関係によって決まると言っても過言ではない」と応じた。
両国首脳は「日印間の戦略的グローバルシップをさらに強化すること」に強い意欲を示し、防衛装備協力に向けた協議を始めることに賛同している。
インドの人口は12億5,210万人で、中国の 13億8,560万人に迫っている。
経済発展においては中国に及ばないものの、アメリカのシリコンバレーのICチップは「Indian Chinese」と呼ばれるほどインド人が多く、これからの発展を考えるとポテンシャリティも高い。 なによりも民主主義国家であり、反日を武器としていないことに将来への安心感がある。もちろん韓国のように民主主義国家であっても反日を叫ぶ国もあるが、インドの場合は、中国に進出した日本企業が反日デモで一夜にして大きな打撃を受けるというリスクはない。
したがって安倍首相のインド接近は非常に歓迎すべきだと思っていたところ、なんとモディ首相、今度は習近平に熱いラブコールを送っている。
中印関係は「龍と象の争い」(拙著『完全解読 「中国外交戦略」の狙い』p.51)と揶揄されるように、領土問題に関していさかいが絶えない。しかしシン元首相の時とちがい、モディ首相は何だか習近平に低姿勢だ。
9月17日はモディ首相の誕生日であったことから、まずモディ首相生誕の地であるグジャラート州で習近平主席を歓待し、親密度をアピールした。ついで「インド独立の父」と呼ばれているマハトマ・ガンジーの旧居へと案内し、習近平主席を喜ばせた。なぜならそこで習近平主席は「植民地支配に抵抗した英雄」とガンジーを讃えることによって「中国における日本の植民地支配」を暗示し、中印連携を強調することができたからだ。
折しも9月18日は「九一八」事変(柳条湖事件、いわゆる「満州事変」)の日。中国の中央テレビ局CCTVは、あたかもこの二つをリンクさせるような形で、9月18日に、17日における習近平夫妻のガンジー旧居訪問を再び伝えた。
モディ首相は、中国から5年間で1000億ドル(約10兆7千億円)の投資を呼び込む見通しで、また高速鉄道建設に当たって中国の技術を取り入れることにも意欲的だ。日本と中国のインドに対する投資総額を比べればその差は歴然としており、インドは中国になびくだろう。また高速鉄道建設に関しても、価格競争から行けば日本は中国に負ける。技術は圧倒的に日本が高いとしても、必ずしも日本に有利とは限らない。
問題なのはインドが、本コラムの「中露接近がもたらす地殻変動――ウクライナ問題が背中を押した」で触れた「上海協力機構」にインドが加盟を申請していることだ。上海協力機構は中国やロシアを中心として中央アジア諸国の一部が加盟している安全保障機構である。
安倍首相と約束した安全保障や防衛協力に関する協力と、この上海協力機構は正反対の方向にある。上海協力機構はNATOに対峙する性格を持っており、日印防衛協力は、実質上アメリカを入れた日米印防衛協力の性格を持っている。
日本にとって頼もしい味方であるかに見えたインドは、「もう一つの顔」を中国に見せている。
◆パキスタンでは習近平主席歓迎に礼砲21発
もっと驚いたのは、9月16日にコロンボで習近平を迎えたスリランカのラージャパクサ大統領だ。盛大な歓迎式典とともに行われて閲兵式で、習近平主席に対して発した礼砲が、なんと「21発」。
9月7日にスリランカを訪問して同じくラージャパクサ大統領と会談した安倍首相に対して発した礼砲の数は「19発」だ。
わずか「2発」の差であっても、この違いは大きい。
歓迎に対する意思表示の度合いの違いだからだ。
ラージャパクサ大統領の「目の開き方」「口の開け方」「腕の動き」などから見えてくる「歓迎度」にも、明らかな違いを読み取ることができる。
安倍首相の「世界地図を俯瞰する外交」は評価すべきだ。
しかし、相手はなかなかにしたたかであることも、この「俯瞰図」の中で読み込んでおかねばなるまい。