北朝鮮軍、内部に異変…不満の将校ら「義兄弟の契り」で秘密組織
朝鮮半島を分断する軍事境界線の近隣に駐屯する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の部隊で、私的組織の結成などの動きが察知された。当局は、思想教育の強化などの対策に乗り出している。
軍内にいるデイリーNKの高位情報筋によると、江原道(カンウォンド)の淮陽(フェヤン)に駐屯する第1軍団で、ある大隊に所属する政治指導員が、指揮部(司令部)の軍官(将校)と隷下の中隊の政治指導員と義兄弟の契りを交わすための血書を書き、党の政策に疑いを抱いたり、外国のニュースをやり取りしたりしていたことが発覚した。
情報筋は詳細に触れていないものの、同様の問題が黄海北道(ファンヘブクト)の平山(ピョンサン)に駐屯する第2軍団、江原道の平康(ピョンガン)駐屯の第5軍団でも発生している模様だ。
北朝鮮が、軍内部における私的組織の結成を「宗派行為」(分派行為=反政府活動)と見なし、極めて厳しく対処していることを考えると、今回の事件に関与した人員に対して収容所送り、処刑などを含めた極刑が下された可能性がある。
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この事態を受けて金正恩党委員長は昨年末、人民武力省、朝鮮人民軍総政治局など軍の責任者と話し合った。その場では総政治局政治部が、軍事境界線一帯の最前線部隊において思想的な緩みが起きていると報告し、対策について議論した。
各大隊、中隊、小隊の思想統制を担う政治指導員自らが、よりによって最前線の部隊で反政府的な行為を行っていたことは極めて深刻な事態だ。金正恩氏が直接、対策会議を主催したことは、当局がこの事態をいかに深刻に受け止めているかを表すものと言える。
情報筋はこのような現象について「軍内部の不協和音が大きくなっている」と指摘し、次のような対策が示されたと伝えた。
「軍の保衛担当者(秘密警察)が、軍事境界線に隣接した区域の国境警備区分隊(大隊級以下の組織)、空軍飛行区分隊、海軍潜水艦区分隊、警備勤務艦船区分隊、板門店共同警備区域所属の将兵に対して、個別に(思想)検討を行った上で、1ヶ月以内に朝鮮人民軍最高司令部規律判定組のメンバーを派遣し、部隊内の綱紀の乱れを検閲(監査)する」
同時に「深刻な問題を一つひとつ吟味し、さらなる問題を発見すれば厳しく処罰する」、「全軍に軍官幹部用、下戦士(下士官)用の土曜政治学習の要綱(レジュメ)を配布する」という対策も示された。
窃盗や性的虐待の横行など、朝鮮人民軍の軍紀の緩みはきのう今日に始まったものではない。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
しかし最近では、そのことがはた目にもわかるような現象が連続して起きている。
朝鮮人民軍兵士だったオ・チョンソン氏が昨年11月、板門店の共同警備区域(JSA)で、銃撃を受けながら韓国に亡命した事件は世界の注目を集めた。それ以外にも、昨年6月に2回、11月に1回、12月に1回、兵士が軍事境界線を越えて韓国に亡命する事件が起きた。
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一方、今年に入ってから朝鮮半島の緊張が緩和の方向に向かい、北朝鮮国内では中朝、南北、米中首脳会談の開催による浮かれムードが漂っている。今回の動きには、その引き締めを図る目的もあると思われる。