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女性を強制撮影して晒し者に…金正恩「見せしめ」策の暴走

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央テレビ)

 反社会主義、非社会主義行為の取り締まりに躍起になっている北朝鮮当局は、社会主義にふさわしくないとみなされる服装の女性を強制的に撮影し、晒し者にする強硬策に出た。

 北朝鮮当局は公開処刑など、何かというと「見せしめ」で国民を脅す手口を多用するが、これもその一部と見ることができる。

 デイリーNKの内部情報筋によると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)清津(チョンジン)の青年同盟(社会主義愛国青年同盟)が今月初めから、動画を使った講演会を始めた。その場で伝えられたのは「服装と髪型をわれわれ式(北朝鮮式)に小綺麗にすることは、社会主義生活様式を確立するのに重要な場を占める」ということだ。

 当局が社会主義にそぐわないと考えるファッションとヘアスタイルは犯罪行為で、これを徹底的に取り締まる方針を強調したのだ。

 そして、市内の通りで糾察隊(取り締まり班)に取り締まられた若者の動画が流された。そのほとんどが20〜30代の女性で、体の線が現れるようなズボンを履いていたり、髪の毛を染めていたりすることが「資本主義遊び人風」「服装が不潔で思想が不順だ」として、晒し者にしたのだ。

 そのうえで、「きちんとした服装をすることは、祖国の未来に直結する」という謎論理を繰り出した。

 情報筋が提供した動画の一部を収めた画像を見る限り、女性のファッション、ヘアスタイルが、北朝鮮の未来を左右するほど問題があるとは思えず、ごく一般的なものに見える。当局の意図は、若者の新しい物好き、クリエイティビティを抑え込むことで、外部文化の流入を未然に防ごうというものなのだろう。

(参考記事:引き出された300人…北朝鮮「令嬢処刑」の衝撃場面

「反社会主義、非社会主義に対する闘争が強化されているが、資本主義映画の中に出てくる服装や髪型を真似する若者が増えている。それで政府が青年同盟に各種講演会や学習を通じて青年思想教養事業を繰り広げている」(情報筋)

 この手の取り締まりが成果を出す可能性は、ゼロに近いだろう。抑えつければ抑えつけるほど反発するのが若者であり、それは北朝鮮とて同じだ。彼らは当局の取り締まりの目を欺いて、自分たちの趣味に合うものを楽しもうとするだろう。

「取り締まりから解放された若者たちは、取り締まりにひっかからない程度の微妙な服装と髪型で間接的に反発している」(情報筋)

 反社会主義、非社会主義行為を取り締まる82連合指揮部が、長期間にわたって取り締まりを続けているにもかかわらず、これら行為は一向に収まっていない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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