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【独占】北朝鮮代表コーチでアジア大会参加の朝鮮大サッカー部監督が語る日本戦と“騒動”「経験は必要」

金明昱スポーツライター
前列左から2番目が北朝鮮代表コーチとして日本から参加した申氏(写真・本人提供)

「繊細さでは日本代表が上だと素直に認めていましたよ」

 そう語るのは中国・杭州で開催されたアジア大会の男子サッカーで朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)代表コーチとして帯同した在日コリアンの申載南(シン・ジェナム)・朝鮮大学校サッカー部監督だ。

 今大会、U-24北朝鮮代表は、グループリーグを1位で突破し、準々決勝で日本代表と対戦。1点をリードされながらも後半に追いついたが、PKを奪われて失点し、1-2で敗れた。試合内容では、積極的なプレスとフィジカルで日本を苦しめたが、最後の審判への抗議が日本メディアで大きくクローズアップされてしまった。

 ただ、違和感があったのが「切り取られた」報道だ。ラフプレーと最後の審判への抗議ですべてを台無しにしてしまったチームに非があるのは確かだが、“北朝鮮なら何を言ってもいい”という揚げ足を取る集中的な報道は、少し異常とも感じられた。当事者の声を拾うメディアも皆無だった。

 そこで今大会にコーチとして帯同した申監督に、4年ぶりの国際大会出場となった北朝鮮代表の実力、そして今回の騒動の“真実”について語ってもらった。

「インテンシティの高さ」に驚く

――4年ぶりの国際大会出場となった北朝鮮代表ですが、アジア大会ベスト8という結果をどう見ていますか?

 大会が終わってみて感じるのは、久しぶりの国際大会で不安もあった中で、よく戦ったなというのが率直なところです。ここまでやれるんだと感心しました。このコロナ禍の影響で、国内での強化が続いていたので、国際大会は厳しい戦いになると思ったのですが、選手たちは本当によく頑張ったと思います。

――大会期間を通してチームの実力や特徴はどこにあると感じましたか?

 技術はとてもしっかりしていますし、特にフィジカルの強度、インテンシティがとても高いと感じました。これは日頃の厳しい練習と積み重ねからくるもので、練習を見てみると、トランジションも早い。戦術についても少し話せばすぐに理解しますし、疑問に思うことがあればしっかりと聞いてきます。明確な答えが返ってくるので、サッカー選手としてのポテンシャルはとても高いと思いました。

――北朝鮮サッカーのスタイルは?

 守備は前線から積極的にプレスをかけていき、攻撃するときは相手のゴールに向かって、前線にボールを入れていく。それが大前提です。サイドの選手もボールを持ったらどんどん仕掛けていくので、そうした意識は叩き込まれています。(U-24北朝鮮代表の)シン・ヨンナム監督は守備的に戦うよりも、より攻撃的なスタイルを好みますね。

日本戦の前半は「はまっていた」

――準々決勝の日本戦は1-2と惜敗でした。色々と騒動のあった一戦ですが、まずはサッカーの観点から振り返ってもらえますか?

 準々決勝で日本との対戦には、選手たちはやはり負けられないという特別な思いがありましたし、ロッカールームにいる時からものすごく気合いが入っていました。そういう意味では前半は積極的なプレスを仕掛けて、すごくいい流れで朝鮮のペースで試合が動いたと思います。

――確かに前半15~20分までの流れは北朝鮮にありました。

 試合は序盤から消極的にならずに自分たちが練習してきたもの、持っているものを出そうと話し合いました。前線へのプレッシングでボールを積極的に奪いにいっていましたし、マイボールになっても簡単に蹴らずにしっかりとつないでいました。FWへタテパスを入れて、得点チャンスを作り、サイドのスピードのある選手を生かすことも徹底しました。とにかくやってきたことを恐れずに出そうと試合に入ったので、日本戦の前半序盤はそれがすごくはまっていたと思います。

――試合では徐々に日本がペースを握る時間が増えました。

 前半のいい時間帯に先制点を奪えなかったのは痛かったです。予選リーグは自分たちのペースに持ち込んでから前半でゴールを決めてリードしたあと、優位に試合を進められたのですが、日本戦はそれができずにペースを握れなかった。もし前半で先制点を奪えていたら流れは変わっていたと思います。

――戦う気持ちが全面に出た結果、激しいプレーも見受けられました。

 例えばワールドカップ(W杯)アジア予選でもここ一番の試合では、絶対に負けられない戦いがあって、多少のラフプレーは世界のどの国の試合にもつきものだとは思います。ただ、日本戦は気持ちが出すぎた部分をうまくコントロールできず、行き過ぎた激しいプレーになってしまったり、後半に入ってからは体力的に落ちたところを日本にペースを握られて、相手の動きについていけなくなったりするところは見受けられました。試合の流れの中でそうした感情をうまくコントロールできればもっと良かったなと思うところはあります。

ペットボトルの件は「選手も重く受け止めている」

――それでも後半に1-1に追いついたところでPKからの失点が日本の決勝点となりました。このシーンについてはどのような判断をしたのでしょうか?

 後半35分にPKとなったファウルのシーンの映像はチーム内で何度も確認しました。そのうえでの判断は、あのシーンは「ファウルを取られても仕方がない」という結論に至りました。

――試合の流れの中では、PKかどうかは判断がとても難しいシーンだったとは思います。

 PKを取られた瞬間は、監督をはじめベンチにいるスタッフや選手たちも微妙な判定と感じていました。1-1に追いついてから再び日本にリードを許したシーンでもありましたからね。

大会スタッフやホテルの従業員たちとも楽しく過ごしていたという北朝鮮代表(写真提供・申氏)
大会スタッフやホテルの従業員たちとも楽しく過ごしていたという北朝鮮代表(写真提供・申氏)

――日本のメディアやテレビでは、試合そのものに対する内容よりも、北朝鮮選手の審判への抗議や試合中に給水スタッフからDFの選手が水を奪うシーンが大きくクローズアップされてしまいました。

 日本に帰ってきてから、テレビやニュースなどで大々的に報じられていることを初めて知りました。この件に関してはチーム内でも話し合われました。給水ボトルをもらおうとした選手がイエローカードをもらったシーンですが、実はその時にベンチからは何をしたのかも状況を把握できていなかったんです。

――試合後にその選手から事情を聞いたのでしょうか?

 なぜイエローカードをもらったのかを試合後に聞いて、その映像も確認しましたが、チームも個人も今回の件については重く受け止めています。試合後に審判への抗議については、監督やスタッフたちがすぐに「やめなさい!」と止めに入りました。ダメなことはダメだし、直すべきところは直していこうという話はしています。

「不用意なファウルはするな」

――当たりの激しいプレーや抗議のシーンは残念ではありますが、試合内容は好ゲームだったと思います。

 試合前のミーティングでは監督は常に「不用意なファウルはするな。“戦う”意味を履き違えるな」とも選手たちに口を酸っぱくしながら話しています。熱くなってファウルをしたりするのではなくて、心は熱く頭では冷静にプレーしなさいと伝えています。特に日本戦は15番の谷内田哲平選手(京都サンガ)がアジア大会で直接FKを決めていたので、ゴール前でのファウルをものすごく警戒していました。

――そういう意味では、経験不足がプレーに出てしまったのか、もしくは普段の練習でも本番さながらに激しかったりするのでしょうか。

 熱い気持ちがそのままピッチに現れてしまった試合ではありましたが、要所で落ち着いて対処する経験を積めば、よくなると思います。練習を見ていてもボールを持った相手に対して、試合さながらにガツンといく。それが強度の強さにもつながるのですが、逆にいうと止まれない。少しタイミングが遅れるなと思っても相手に行ってしまうので、危ないなと感じるタイミングがあったりします。ただ、選手たちのフィジカルやインテンシティの強さは、本番さながらの練習から生まれているのだなと改めて実感しました。

「繊細さでは日本のほうが上と認めている」

――今大会を経験したことで、アジアでも十分に戦える自信はできたのではないでしょうか?

 コロナ禍で数年は国際大会には出られませんでしたが、その分、国内でしっかりと準備をしてきた自信は感じました。どれくらいできるのかという不安もありましたが、「それだけの準備はしてきた」と言っていました。欲を言えば、ゴール前での質を上げることでしょうか。ラストパスの精度とフィニッシュが向上すれば、もっと強くなると思います。その点は選手たち自身も言っている部分で、繊細さに欠けるので、そこは日本のほうが上と認めていましたね。

――逆に今大会後の課題は?

 経験を積めばどんどん成長していくでしょう。今回のアジア大会で、特に日本との試合はとても貴重な経験になったはずです。自分たちのペースでゲームをコントロールする力を持って試合を落ち着かせるようになれば、もっと強くなると思います。伸びしろはありますよ。

――チーム内の雰囲気もとても良かったと聞いています。

 朝鮮選手たちと一緒に過ごすとみんな明るくて、サッカーが好きな選手ばかりです。スタッフもチームもみんなが本当に明るい。(審判に詰め寄った写真で報じられた)5番のDFの選手は、本当に面倒見がいい。朝鮮大サッカー部から2名の在日コリアン選手が代表に帯同したのですが、チームに溶け込めるように気配りをしてくれた心優しい選手なんです。今回の件は、感情的になってしまいましたが、反省して次に生かせるようにしていくはずです。

――最後に伝えたいことはありますか?

 代表チームに携わってサッカーだけ考えることができたことは幸せな時間でした。学ぶことも多く、一方でもっと自分がチームを助けられたらよかったかなと思う部分もあります。今後は朝鮮大学校サッカー部の強化に還元し、生かしていければと思います。

朝鮮大学校サッカー部の申載南監督。今年、東京都リーグ1部で優勝し、関東3部昇格を目指す(筆者撮影)
朝鮮大学校サッカー部の申載南監督。今年、東京都リーグ1部で優勝し、関東3部昇格を目指す(筆者撮影)

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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