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サル痘とは?現時点で分かっていること これまでの報告にはなかった特徴的な症状も

忽那賢志感染症専門医
サル痘ウイルス(CDC. PHILより)

2022年7月25日、日本国内で第一例目のサル痘患者が報告されました。

サル痘とはどういった感染症なのでしょうか?

また今回の流行ではどういった特徴があるのでしょうか?

サル痘の現在の流行状況は?

CDC 2022 Monkeypox Outbreak Global Mapより
CDC 2022 Monkeypox Outbreak Global Mapより

サル痘は1970年以来ヒトでの感染例はこれまで西アフリカ〜中央アフリカに集中しており、それ以外の地域ではアフリカへの渡航歴や動物の輸入などに関連した症例に限られていました。

しかし、2022年5月以降、これまでサル痘が報告されていなかった国で多くのサル痘患者の報告が増加しています。

2022年7月22日時点で、世界で16,836例(これまで非流行国であった国からは16,593例)のサル痘患者が報告されています。

特にスペイン、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランスなど欧米で症例数が多くなっています。

2022年7月25日、日本で初めてとなるサル痘患者が報告されました。

サル痘患者の特徴は?

これまでに分かっている確定例は大半が男性患者であり、20代から40代の比較的若い世代に多いことも特徴です。

例えば、世界16カ国528例の報告では、症例のうち98%が男性とセックスをする男性(MSM)であり、年齢の中央値は38歳でした。

この528例のうち95%が性交渉に関連した接触による感染が原因と考えられており、これらの感染者は性交渉のパートナーが多いという特徴があります。

今回の流行で検出されたサル痘ウイルスを調べたところ、2018年にナイジェリアで分離されたサル痘ウイルスから大きく分岐しており、感染性が増加しているのではないか、という研究が報告されています。

また、今回のサル痘の流行は単一の発生源から複数回の感染イベントが起こったものであり、Superspreading Event(超拡散イベント)と呼ばれるイベントや海外渡航によって世界中に拡大していると考えられる、と述べられています。

サル痘ってどんな病気?

サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で初めてヒトでの感染例が報告されたサル痘ウイルスによる動物由来感染症です。

サル痘という名前ですが、サルも感染することがあるというだけで、もともとの宿主はネズミの仲間のげっ歯類ではないかと考えられています。

サル痘ウイルスはアフリカの異なる地域にそれぞれ別の系統が分布しています。

コンゴ民主共和国などの中央アフリカのサル痘ウイルスよりも、ナイジェリアなどの西アフリカのサル痘ウイルスの方が病原性が低いことが分かっています。

今回世界で広がっているのは、病原性が低いとされる西アフリカ由来のサル痘ウイルスであることが分かっています。

これまでに報告されているサル痘患者の大半はアフリカからのものですが、近年はアフリカでのサル痘患者が増えているとナイジェリアコンゴ民主共和国などから報告されており、天然痘(痘そう)の根絶後、種痘の接種歴のある人が減っていることでサル痘患者が増加してきているのではないかと懸念されていました。

サル痘の症状は?

サル痘患者の皮疹の経過(DOI: 10.1056/NEJMoa2207323より)
サル痘患者の皮疹の経過(DOI: 10.1056/NEJMoa2207323より)

サル痘は1980年に世界から根絶された「天然痘」に病態がとても良く似ており、症状だけでこれら2つの疾患を鑑別することは困難と言われています。

しかし、サル痘では人から人へ感染する頻度は天然痘よりも低く、また重症度も天然痘よりもかなり低いことが知られています。

古典的には、発熱、頭痛、リンパ節の腫れなど先行する症状が数日持続してから皮疹が出現します。

皮疹は顔面から出現して、全身へと拡大していくとされ、全身の皮疹がある一時点においてすべて同一段階の状態で、赤い発疹から水ぶくれ、そしてかさぶたになっていくというのが典型的とされます。

しかし、今回のサル痘の流行では、これまでに知られていた特徴と異なる症状も報告されています。

前述の今回の流行における16カ国528例の報告では、潜伏期は約7日で、発熱、頭痛、リンパ節の腫れなど先行する症状がない症例も半数ほどあり、また皮疹の状態もそれぞれの部位で進み具合が異なる事例が報告されています。

症状として頻度が高かったのは、

・皮疹(95%)
・発熱(62%)
・リンパ節の腫れ(56%)
・疲労感(41%)
・筋肉痛(31%)
・咽頭炎(21%)
・頭痛(21%)
・直腸炎/肛門の痛み(14%)
・気分の落ち込み(10%)

とのことでした。

皮疹の部位も肛門や生殖器でみられる頻度が最も多く(73%)、体幹・四肢(55%)、顔(25%)、手のひら・足の裏(10%)と続きます。

これまでの報告とは異なり、口の中の粘膜や直腸にも病変がみられることも特徴の一つです。

稀な合併症として心筋炎や喉頭蓋炎も起こるようです。

サル痘の皮疹は天然痘と非常に似ており、水疱という水ぶくれが見られることが特徴です。

同様に水痘(水ぼうそう)も水疱が見られます。これまでは水ぶくれの時期、かさぶたになった時期など様々な時期の皮疹が混在するのが水痘の特徴であり、サル痘や天然痘では全身の皮疹が均一に進行していくのが特徴とされていましたが、今回の流行ではサル痘でも様々な時期の皮疹が混在することがあるようです。

ただし、皮疹の部位が生殖器に多い、というのは今回の流行におけるサル痘の大きな特徴となります。

天然痘と比べると、サル痘では首の後ろなどのリンパ節が腫れることが多いと言われています。

天然痘や水痘以外には、性感染症である梅毒や性器ヘルペスといった疾患も似たような症状を呈することがあります。

サル痘の治療や予防は?

サル痘の治療は原則として対症療法となります。

アメリカやイギリスなど海外ではシドフォビル、Tecovirimat、Brincidofovirなど天然痘に対する治療薬が承認されており、実際に投与も行われていますが、日本ではこれらの治療薬は現時点では未承認です。

国立国際医療研究センター病院では、このうちTecovirimatを投与して有効性や安全性を検証する臨床研究が開始されています。

またサル痘は、

・サル痘ウイルスを持つ動物に噛まれる、引っかかれる、血液・体液・皮膚病変に接触する
・サル痘に感染した人の飛沫を浴びる(飛沫感染)
・サル痘に感染した人の体液・皮膚病変(発疹部位)に触れる(接触感染)

によって感染することが分かっています。

前述の通り、今回の流行では、ゲイやバイセクシュアルなど男性とセックスをする男性(MSM)の間で発生したケースが多く、性交渉の際の接触が感染の原因になっていると考えられています。

種痘(痘そうワクチン)はサル痘にも有効です。

コンゴ民主共和国でのサル痘の調査では、天然痘ワクチンを接種していた人は、していなかった人よりもサル痘に感染するリスクが5.2倍低かったと報告されています。

しかし、1976年以降日本では種痘は行われていませんので、昭和50年以降に生まれた方は接種していません。

同じく国立国際医療研究センター病院では、サル痘の濃厚接触者医療従事者を対象に痘そうワクチンを接種し有効性と安全性を検証する臨床研究が始まっています。

現在は男性同士の性交渉に関連した接触が感染経路であり男性の感染者が多くなっていますが、例えば2010年代の梅毒のように、特定の集団で流行していた性感染症が流行の過程で性別関係なく広がっていくことがあります。

特定の集団だけの疾患と捉えるのではなく、今後の広がりについては警戒が必要です。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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