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史上初の10代名人なるか 囲碁名人戦挑戦者に名乗りをあげた芝野虎丸19歳の横顔

内藤由起子囲碁観戦記者・囲碁ライター
名人挑戦を決めた芝野虎丸八段=2019年8月8日、筆者撮影

プロ入りから史上最速で挑戦権獲得

囲碁名人戦(朝日新聞社主催)挑戦者決定プレーオフが8月8日に打たれ、19歳の芝野虎丸八段が河野臨九段に勝って、張栩名人への挑戦者に名乗りをあげた。プロ入り4年11カ月での挑戦権獲得は最速で、なんと50年ぶりの更新となった。

挑戦者決定戦で苦戦

局後のインタビューの第一声は、「けっこう前からまわりの方々に挑戦手合に出てこないのかと言われていたので、まずは期待にこたえることができました。安心しました」。

これまでもチャンスはあった。最近では4月に本因坊戦挑戦者決定プレーオフで、同じ河野九段に負け。2017年にも王座戦決勝で負けて挑戦者になれなかった。「ふだんは気にしないようにしていたのですが、決定戦で負けていたのは、無意識にプレッシャーがあったのかも知れません。今回は気にしていないつもりではありました」と芝野八段。

「静」から「動」へ。虎のように襲いかかる

記者が最初に芝野八段の対局担当になったときに、驚いたことがある。

ふつう、碁石を持つときには碁笥に手をいれた瞬間に「じゃらり」と音がする。その音で「あ、打つのだな」と盤上を見て待つことになるのだが、芝野八段は、「じゃらり」の音もさせないし、盤上に打ち下ろしたときの「パチン」という音もさせない

観戦しているほうとしては、ちょっとノートにメモをするなど下を向いていたら、「いつの間にか盤上に石が増えていて」びっくりするのだ。

対局中にぼやいたりもまったくせず、静か。対局は朝10時から深夜に及ぶので多くの棋士はあぐらに直したりするものだが、芝野八段はずっと正座のままだ。

女性ファンからも「笑顔がかわいい」といわれ、声も小さくおとなしそうな印象もプラスされるせいか、端から見ている姿は「静」なのだが、盤上は違う。

名前のとおり、虎のように襲いかかり相手の石を召し捕ることも少なくない。ダイナミックな「動」の碁風といえよう。ファンを魅了する碁を見せるところも大きな魅力のひとつだ。

世界で戦える逸材

2017年に竜星戦や新人王戦で優勝し一気にブレイク。さらに芝野八段の名を知らしめたのが、2018年に日中竜星戦だ。世界ナンバーワンの柯潔九段(中国)に勝って本棋戦の日本初の優勝をもたらした

現状では世界戦では井山裕太四冠がひとり気を吐いている。そんな状況の中、芝野八段への期待は高まる一方なのだ。

囲碁兄弟の中で

神奈川県相模原市出身の芝野八段。兄の龍之介二段も棋士。妹は高校選手権で全国8位入賞する囲碁兄弟だ。

初著書(龍之介二段との共著)「アルファ碁zeroの衝撃~竜虎VS最強AI」(マイナビ出版)では、二人の会話を似顔絵とともにLINE風にレイアウトしたり、愛猫が碁盤を見つめている写真を載せたりするなど斬新な構成にしたうえ、碁の解説の最後に「カレーうどん作ろうっと」などのつぶやきを載せるなど、ほのぼのとした内容でファンの間で話題になった。

趣味は犬の散歩。筋トレも軽く少しずつやって体力作りにも余念がない。

張栩名人との勝負

芝野八段が誕生日(11月9日)を迎える第6局までに名人を獲得すれば、史上初の10代の名人が誕生する。

11年前、井山裕太四冠も19歳で初挑戦したが、敗れてならなかった。その相手が、なんと同じ張栩名人なのだ。井山四冠は翌年20歳で名人を獲得し、史上最年少名人となり、井山一強時代をスタートさせた。

芝野八段が碁を始めた15年ほど前、張栩名人はすでに碁界第一人者だった。「昔から打った碁を勉強していた先生ですが、気にせず普段の力を出せるようがんばりたい」と抱負を述べた。

注目の七番勝負は8月27日に開幕する。

囲碁観戦記者・囲碁ライター

囲碁観戦記者・囲碁ライター。神奈川県平塚市出身。1966年生。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。お茶の水女子大学囲碁部OG。会社員を経て現職。朝日新聞紙上で「囲碁名人戦」観戦記を担当。「週刊碁」「囲碁研究」等に随時、観戦記、取材記事、エッセイ等執筆。囲碁将棋チャンネル「本因坊家特集」「竜星戦ダイジェスト」等にレギュラー出演。著書に『井山裕太の碁 AI時代の新しい定石』(池田書店)『囲碁ライバル物語』(マイナビ出版)、『井山裕太の碁 強くなる考え方』(池田書店)、『それも一局 弟子たちが語る「木谷道場」のおしえ』(水曜社)等。囲碁ライター協会役員、東日本大学OBOG囲碁会役員。

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