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中国軍軍事力強化表明――鳩山氏が筆頭演説した世界平和フォーラムで

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2015年に訪韓し、西大門刑務所歴史館でひざまずいた鳩山元首相(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

7月16日に北京で開催された世界平和フォーラムで中国海軍高官が軍事力強化方針を表明した。本フォーラムで筆頭演説をしたのは鳩山元首相。鳩山氏がいかなる構図の中で中国支持を表明したかが見えてくる。

◆孫建国・中央軍事委員会聯合参謀部副参謀の発言

北京にある名門校・清華大学が主宰し、中国人民外交学会が共催する「世界平和フォーラム(論壇)」の第5回大会が7月16日と17日の日程で開催された。形は清華大学という形式を取っているが、実際は政府主催と同じである。

その証拠に、世界平和フォーラムの主席は唐家セン(王偏に旋)・前外相で、開会の辞は劉延東・国務院副総理(副首相)が行っている。

16日午後6時からの講演で、孫建国・中央軍事員会聯合参謀部副参謀(海軍上将)は、中国国際戦略学会会長として演説した。 

概略は以下のとおりである。

●南シナ海に関する仲裁裁判所の判決は、中国の軍隊に幻想を捨てさせ、軍隊を強化させなければならないという思いを抱かせる逆の役割を果たした。

●中国軍は軍事力を強化し、改革を深め、戦闘能力を高め、万やむを得ない状況下で、国家主権と権益を守るために、最後の決定的な役割を発揮しなければならない。

●いくつかの特定の国は、ダブルスタンダードを用いて、国際法を掲げながら、国際法に違反した行動をしている。

●いわゆる「航行の自由」という偽の命題は、軍事力を帯びた威嚇であって、中国は絶対に屈しない。

孫建国氏は、演説の最後には「平和的解決によって争議を解決する」という言葉は使っているものの、それはこれが「世界平和フォーラム」だからであって、実際上は南シナ海における中国の権益確保のためには、軍事力を使った強硬手段も辞さない構えを示したものと解釈することができる。

◆鳩山前首相は「世界平和フォーラム」の筆頭演説者だった

7月16日の世界平和フォーラムの午前中のプログラムは、以下のようになっている。

09:30~09:35 唐家セン主席・開幕挨拶

09:35~10:00 劉延東副首相祝辞

10:00~10:20 コーヒーブレイク

10:20~11:30 本大会

鳩山由紀夫 日本首相(2009-2010)

ド・ビルパン フランス首相(2005-2007)

その後、会場を移して昼食会があり、午後はロシアの元安全会議秘書(1998年)など多くのかつての要人が中国の正当性を讃えたあと、18時から、いよいよ孫建国が中国の軍事力強化が不可欠だという演説に入ったわけだ。

つまり、わが国の鳩山元首相は、中国の正当性と軍事力強化という枠組みの中で「アジアの平和の海」と「世界の平和」を語ったことになる。

これはすなわち、中国の軍事力強化は「平和のためだから許される」と宣言したのに等しく、いま日本が、中国の軍事力強化によって、「日本の安全が脅かされるのではないか」という脅威に脅かされ、国家安全を、どのように保障していけばいいのかという議論の中で日本国民が窮地に立たされている事態を助長しているのに等しいのである。

日本人は誰一人、二度と再び、あのような(先の)戦争が起きることは望んでいない。

平和を望んでいる。

しかし北朝鮮の脅威と、何よりも中国の軍事的脅威にさらされたときに、もし仮に日米安保条約がなかったとしたら、日本はどのようにして日本国民を守ればいいのかという選択と討議に、いま追い込まれているところではないのか?

その第一の前提条件は、中国が軍事的脅威を弱めることであり、民主的な国家になって、国際法に基づいて「平和な海」を実現してくれることにある。

しかし「平和の海」を唱えていたはずの鳩山元首相は、中国にひざまずいて、「中国の軍事力強化によってこそ平和が来る」という中国の戦略と論理に乗っかって、国際司法の判決を批難し中国の主張の正当性を擁護する演説をしたのだ。

しかも中国の国家戦略の構図の中で、である。

これが、真に日本国民のためになる結果を招くのか否か、深く考えてほしい。

憲法改正論議が始まろうという前夜に、一国の首相として日本国民の安全を預かっていた者の、取るべき行動だろうか?

もう一度プログラムの部分に注目して頂きたい。

中国語のプログラムでは「鳩山由紀夫」の肩書は、カッコ書きがあるとしても「日本首相」なのである。

「日本元首相」とは書いてない。

これが、中国の戦略の中にきっちり組み込まれた、我らがかつて選んだ「元首相」の姿なのである。

「元首相」は個人ではない。その良識と、あるべき姿をともに考えてみたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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