【スーパーフォーミュラ】迷走する必要なし!豪華トップドライバーが魅せる8回の大接戦に酔いしれろ!!
国内最高峰のフォーミュラカーレース「スーパーフォーミュラ(全日本スーパーフォーミュラ選手権)」が4月23日(土)24日(日)に鈴鹿サーキットで開催される「NGKスパークプラグ鈴鹿2&4レース」で開幕する。2016年シーズンは国内6サーキットを転戦し7大会、全8レースで戦うスケジュールになっている。
ハッキリ言おう。僅か8レースというのはあまりに少なすぎる!
そう思うくらい今季のドライバーラインナップは豪華であり、トヨタとホンダが供給するエンジンの性能が拮抗し、これまでにない大接戦が展開されそうな期待感があるからだ。
間違いなく最強ラインナップのシーズン
ここ数年の「スーパーフォーミュラ」にはF1をはじめとする世界選手権での実績が充分なドライバーたちが数多く参戦するようになってきた。元F1ドライバーとしては小林可夢偉、中嶋一貴、ナレイン・カーティケヤン、WEC(世界耐久選手権)からはアンドレ・ロッテラー、中嶋一貴、小林可夢偉、ジェームス・ロシターらが現役ドライバーとして参戦。そこに今年はヨーロッパの「GP2」で王者に輝き、さらに「マクラーレン・ホンダ」から既にF1デビューを果たしたストフェル・バンドーンが「スーパーフォーミュラ」に初参戦する。
もちろん、ラインナップの豪華さは海外のレースで箔をつけてきたドライバーたちに留まらない。国内のドライバーたちも長い下積みなど、苦労を重ねて有名ドライバーたちを打ち破ってきたキャリアを持つ選手ばかり。今年は本当に「国内トップフォーミュラ」を名乗るに相応しいメンバーが揃っている。
その中でも、ファンが楽しみにしているのはF1デビューでいきなり入賞を果たしたストフェル・バンドーンの存在だろう。「マクラーレン・ホンダ」に初ポイントをもたらし、発言権を増した彼が鈴鹿のレースウィークでどこまでマシンの実力を引き出し、どの位置でゴールするかは確かに興味深い。
しかし、忘れてはならないのは彼を待ち受ける選手層の厚さだ。バンドーン人気が先行している印象の開幕戦だが、2012年、14年の王者である中嶋一貴、13年の王者である山本尚貴、15年の新王者としてライバルを迎え撃つ石浦宏明らチャンピオン経験者の存在感はレースが始まった途端に新たな輝きを見せるようになるに違いない。
そして今季は星野一義監督率いる「TEAM IMPUL」から関口雄飛が遅咲きのルーキーとして参戦することも忘れてはならない。これまでもF3や海外のレース参戦などで爆発的な速さと独特の存在感を示してきた関口。自動車メーカーの育成ラインナップから外れてしまってからは国内トップフォーミュラのシートをなかなか得られずにいたが、今年は関口のレースを「スーパーフォーミュラ」で見ることができる。これは多くのファンが待ち望んでいたことだ。
こうして参戦するドライバーたちの一部を紹介するだけでもワクワクしてしまう。まさに実力伯仲、ふるいにかけられた選ばれしトップドライバーのピュアな戦いを楽しめることで、「スーパーフォーミュラ」が真の「全日本選手権」としての存在感を大きくしている印象だ。
世界の箔か、国内の新星創出か
バンドーンの参戦は「スーパーフォーミュラ」にとって、海外への影響力という意味では大きなものだ。彼自身も今シーズンはフル参戦でチャンピオンを目指してレースに真摯に取り組む意向であるし、SNSでも「スーパーフォーミュラ」への準備状況をしっかりと発信している。昨年のシーズンオフのテストに数多くの海外ドライバーが自分を売り込みにやってきたことからも「スーパーフォーミュラ」が海外から注目されるようになってきているは確か。バンドーンの参戦がその勢いをさらに加速させるだろう。
ただ、外国人選手にとってはF1へのステップアップのための「ツナギ」、日本の自動車メーカーへの売り込みが主な目的であり、アンドレ・ロッテラーのように長きに渡って日本のトップフォーミュラへの参戦を続ける選手は少ない。条件が整わなくなった時、あるいは他に良い条件のオファーが来た時、いつかは去っていく可能性が高い。
そこで改めて考えたいのが「スーパーフォーミュラ」の存在意義だ。少し歴史を振り返ってみよう。日本のトップフォーミュラレースは1973年に「全日本F2000選手権」としてスタートしている。1978年からは国際規定に合わせて「全日本F2選手権」となり、80年代は「星野一義vs中嶋悟」の先輩・後輩によるライバル対決の図式が国内のレースファンを熱狂させた。
そして、1987年から「全日本F3000選手権」がスタート。中嶋悟がF1へと昇格した後は、鈴木亜久里、片山右京、エディ・アーバインら後にF1へと昇格するドライバーたちがベテランの星野一義らに勝負を挑む図式ができあがり、F1へのステップアップカテゴリーとしての意味合いが強くなっていった。
1996年から「フォーミュラニッポン」として海外の規定とは一線を画す独自路線を歩み始めた日本のトップフォーミュラ。当初、ステップアップのための若手のレースという存在意義が色濃かったが、その意味合いは徐々に薄れ始める。というのも、2000年代になるとトヨタ、ホンダなどF1に参戦するメーカーが若手ドライバーを海外のレースに早い段階から送り込むようになったからだ。F1へステップアップするドライバーが減少したことで、「フォーミュラニッポン」をステップアップカテゴリーと見る先入観からか人気は低迷した。
しかしながら、個人的にはこの人気低迷期は実は面白かったと感じる。2000年代の「フォーミュラニッポン」には絶対王者的な存在として4度のシリーズチャンピオン、本山哲が君臨し、そこに道上龍、立川祐路、脇阪寿一らの世代の近いライバルたちが戦いを挑んでいた。そして、世代が少し若い松田次生、小暮卓史、井出有治らの実力派ドライバーに加え、ブノワ・トレルイエ、アンドレ・ロッテラーなどの外国人も勢力図に加わり、まさに火花を散らしあっていた。F1の影に隠れがちだったとはいえ、この時代のドライバー達は今もSUPER GTでは現役または4輪モータースポーツ界のキーマンとして活躍している。
「スーパーフォーミュラ」を戦うドライバーたちの世代が若返った今、やはり求められるのは星野一義、本山哲のようなシリーズの軸となる絶対的な強さを誇るドライバーの存在感ではないだろうか。
中嶋一貴が3度目のタイトルに挑む
今後の「スーパーフォーミュラ」の中心となり得る日本人ドライバーは、やはり2012年、14年王者の中嶋一貴だろう。父、中嶋悟と親子2代でF1ドライバーとなり、親子2代の国内トップフォーミュラ王者に輝いた中嶋一貴。昨年はWEC(世界耐久選手権)に参戦中の不運な事故による大怪我で1戦を欠場する憂き目にあった。しかし、復帰後も連続で表彰台に立ち、オートポリスでは優勝。チャンピオンの座は石浦宏明に譲ったものの、7戦中1戦欠場でシリーズランキング2位につけたのは驚異的だ。
中嶋一貴が所属する「TEAM TOM’S」は2014年の新規定に移行してから17レース中8勝と約半数のレースに勝利する強さを見せている強豪。忘れがちだが、2013年以降3年連続でチームチャンピオンに輝いている。そんなTOM’Sは2016年も2戦3レースが行われる鈴鹿でめっぽう強く、2014年以降は6レース中3勝、ポールポジションも6回中3回。昨年の鈴鹿・開幕戦ではロッテラーと中嶋で堂々の1-2フィニッシュを飾っている。
3月に鈴鹿で行われたテストのタイムを見てみると、目立った位置に付けてはいないが周回数が他チームに比べると少なく、2台で異なるメニューをこなしていた模様。さらに4月の岡山テストでは総仕上げとなる最終セッションで中嶋、ロッテラーの順で1-2のタイムを叩き出した。今季から横浜ゴムにタイヤが変わるが3年連続のチャンピオンチームは迷うことなく順応。やはり今年もシリーズの軸、ライバルたちのベンチマークとなるのはTOM’Sの2人だ。その中で、中嶋一貴は現役選手の中で最多の3度目のシリーズチャンピオンを狙う。
もちろん、軸になる候補は中嶋一貴だけではない。昨年のチャンピオン、石浦宏明は鈴鹿のテストでトップから0.065秒差の3番手タイムをマークしているし、ここ一番という時に決めてくれる集中力をレース本番で発揮してくるだろう。今季の石浦は連覇をかけて強烈なライバルたちを迎え撃つ。
そして、中嶋一貴と10代の頃からトヨタのエースを争った小林可夢偉も今季は初優勝の期待がかかる。共にWECをトヨタのドライバーとして戦う中嶋と小林だが、「スーパーフォーミュラ」ではそんな2人の闘志剥き出しのライバル対決がコース上でも展開されることを期待したい。
さらに、今季はホンダエンジンユーザーも好調だ。昨年の最終戦に勝利した山本尚貴、3年目の野尻智紀、そして鈴鹿のテストでトップタイムをマークした中嶋大祐とホンダ勢も開幕ダッシュを狙っている。本当に今季の「スーパーフォーミュラ」は日本人選手だけでも層が厚い。
一時、全日本ガイジン選手権と揶揄されるほど外国人ドライバーが強さを見せた時代は既に終わりを告げている。ストフェル・バンドーンの参戦は確かに楽しみだが、日本人選手の誰が今後の「スーパーフォーミュラ」の新時代を作っていくことになるのかにぜひ注目していきたい。
シリーズとしての方向性を迷う必要はない。誰が勝つか分からない接戦を生み出すハードウェアはしっかり整った。あとはソフトウェアとなる実力充分なドライバー、チームの覇権争いがよりクローズアップされるようになれば、「スーパーフォーミュラ」の人気は必ず上昇していくはずだ。期待の大きい新シーズンの幕がいよいよ開く!