波乱含みの原油価格と物価への影響
日銀は1月29日に公表する経済・物価情勢の展望(展望リポート)で2016年度の物価見通しを下方修正する検討に入ったと日経新聞が伝えている。日銀は今年から決定会合を8回とし、展望レポートは4回公表する。1月の会合で早速、この展望レポートが公表される。
展望レポートのなかで最も注目されるのが物価の見通しとなる。10月の展望レポートでの物価見通しでは、原油価格(ドバイ原油)の前提を50ドルを出発点に、見通し期間の終盤にかけて60ドル台前半に緩やかに上昇していくと想定していたが、足元は30ドル台まで下がっている。日経新聞によると、2016年度の上昇生鮮食品を除く消費者物価指数率の予想を10月時点の見込みの1.4%から1%前後へ下方修正する見通しのようである。
参考までに日銀の物価目標は総合指数であり、展望レポートでの予想する物価は生鮮食品を除く消費者物価指数、いわゆるコア指数となっている。ただし、数値そのものにはそれほど大きな差はない。11月の総合では前年同月比プラス0.3%、コア指数でプラス0.1%となっていた。
展望レポートでの物価見通しの下方修正があったとしても、それによる追加緩和の可能性は低いとみられる。黒田総裁が会見等でたびたび主張しているように、日銀は物価の基調は着実に改善している見方を変えていない。
それよりも気になるのは原油価格の行方となろう。これまでは中国などの新興国経済の景気拡大がピークアウトしたことによる需要の後退と、OPECとシェールオイルとの生産競争などによる供給過剰が相まっての原油価格の下落傾向が続いている。イランへの経済制裁の解除によるイランの原油輸出再開による影響も想定されることで、原油価格の下落傾向は継続し、WTIの30ドル割れも視野に入るかとみていた。
ところがそのイランに対し、サウジアラビアは外交関係を断絶すると発表した。サウジアラビアがシーア派の指導者の死刑を執行したことに反発したシーア派のイスラム教徒たちが中東各地で抗議デモを行い、このうちシーア派の大国であるイランの首都テヘランではデモ隊がサウジアラビア大使館を襲撃。今回のサウジアラビアのイランとの国交断絶はこれが要因となった。
これにより中東情勢が再び不安定化しつつある。新年早々にいわばテールリスクが中東で発生した可能性もある。これは当然ながら原油価格にとっても波乱要因となろう。WTI先物にはかなりショートも入っているとみられ、情勢次第では原油先物が乱高下することも予想される。根本的な需給関係に変化はなくとも、思惑的な動きで予想外の動きをする可能性もある。今後の日本の物価動向をみる上でも、この原油価格の動向に注意しなければならず、これは日銀にとっても大きな注目要因となろう。