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「50年に1度の熱波」産業革命前の5倍に 2040年までに気温1.5度上昇

木村正人在英国際ジャーナリスト
7月のドイツの洪水被害(写真:ロイター/アフロ)

「悪夢のような夏」ギリシャの山火事で2千人がフェリーで脱出

[ロンドン発]国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会は9日、第6次評価報告書を公表しました。第5次の報告書以来、8年ぶり。報告書は「人間の活動が大気、海洋、大地を暖めたことは明らか」として今後20年の間に世界の平均気温は産業革命前に比べ摂氏1.5度上昇すると予測しました。これまでの予測より10年早くなりました。

今年6月末、カナダ西部やアメリカ北西部を熱波が襲い、カナダのブリティッシュコロンビア州リットンでは摂氏49.6度という記録的な暑さを記録。超過死亡が両国で1千人を突破しました。7月中旬にはドイツやベルギーなど欧州で記録的な集中豪雨による大規模な洪水が発生し、死者は200人を超えました。

ギリシャでは8月に入り、熱波のため山火事が発生し、森林の10~12%が消失。ギリシャで2番目に大きいユービア島からはフェリーで約2千人が避難しました。上はその様子を伝えるツイートです。同国のキリアコス・ミツォタキス首相は「悪夢のような夏だ」と天を仰ぎました。

「人類にとって非常事態」

アントニオ・グテーレス国連事務総長は第6次評価報告書を受けて「人類にとって非常事態の発生だ。警鐘は耳をつんざき、突きつけられた証拠に反駁することはできない」と話しました。

「化石燃料の燃焼と森林破壊による温室効果ガスの排出が地球を窒息させ、何十億もの人々を差し迫った危険にさらしている。地球暖房化は地球上のすべての地域に影響を及ぼしており、変化の多くは不可逆的になっている。国際的に合意された摂氏1.5度の閾(しきい)値は危険なほど近づいている」

「温室効果ガス濃度は記録的なレベルにある。異常気象と災害は頻度と強度が増している。そのため、英グラスゴーで開催される今年の第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)は非常に重要だ。今、力を合わせれば、気候の大惨事を回避することができる。しかし先延ばしする時間はなく、言い訳の余地もない」と強調しました。

第6次評価報告書の主なポイント

気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」では、気温上昇を産業革命前に比べて2度未満に抑えることを目指し、可能なら1.5度に抑えるという努力目標を掲げています。66カ国234人の科学者が1万4千本の研究論文をまとめた第6次評価報告書のポイントは次の通りです。

・過去10年間の世界の平均気温は、化石燃料の燃焼や森林破壊などの人間の活動によって、産業革命前(1850~1900年)よりも摂氏1.1度近く高かくなった。北極圏は世界平均の2倍以上の速さで温暖化が進んでいる。

・変化の多くはこの数世紀から数千年を見渡しても前例のないものであり、世界は少なくともこの2千年で前例のないスピードで温暖化している。

・気候変動の最も危険な影響を回避するため世界各国が約束した二酸化炭素やその他の温室効果ガス排出量の大幅な削減を実行しない限り、今世紀中に摂氏1.5~2度の気温上昇を上回る。

・大気中の二酸化炭素レベルはこの200万年間で最も高くなり、メタン濃度もこの80万年間で最も上昇している。2つの温室効果ガスの上昇はこの数十万年間、自然の変化をはるかに上回っている。

・温暖化が進むたびに極端な変化が大きくなる。摂氏0.5度、気温が上がるたびに熱波が強まり、洪水を引き起こす豪雨や干ばつが発生する。

・1950年代以降、熱波がより頻繁に、より激しくなった。人為的な温暖化が主な推進力だ。過去10年間に観測された極端な熱波は人間の影響がなければ発生していた可能性は非常に低かった。摂氏1度の上昇で50年に1度の熱波は産業革命前に比べて4.8倍も起きやすくなっている。

・小さな変化が劇的な変化につながる閾値は除外することができない。そのような転換点には氷床の崩壊や海洋循環パターンの突然の変化が含まれる。

・人間が引き起こした気候変動は、世界中のすべての地域ですでに、より頻繁または激しい熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧をもたらしている。

・人間の活動が氷河の後退、海氷の減少、海洋の温暖化、海面上昇の主な要因である可能性が非常に高い。海面上昇の速度は加速している。

・継続的な温暖化は、極端な高温、海洋熱波、大雨、一部の地域での干ばつ、激しい熱帯低気圧の割合の増加、および北極海の海氷、積雪、永久凍土の減少を促進する。

・二酸化炭素排出量が増加するシナリオでは、海洋や森林などの陸地の炭素吸収源が大気中の温室効果ガスの蓄積を遅らせる効果は低いと予測される。

・過去および将来の温暖化の結果として、海面上昇、永久凍土と氷河の融解は、数十年、数世紀、数千年の間、不可逆的に進む。

・家畜の飼育や化石燃料の生産によるメタンの排出量を強力かつ迅速、持続的に削減すれば温暖化を抑制し、大気の質も改善する。産業革命以降の気温上昇1.09度のうち約0.3度はメタンが原因だ。

「すべての国が日本に従えば温暖化は3度を超え4度に達する」

環境団体による「クライメート・アクション・トラッカー」は日本の温暖化対策を「非常に不十分」と指摘。「すべての国が日本のアプローチに従えば温暖化は3度を超え4度に達する恐れがある」そうです。

日本政府は「温室効果ガスの排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への国際的な投資をすぐ止めなければならない」とした先進7カ国(G7)首脳宣言を受け、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電への新規の国際的な直接支援を21年末までに終了する」と表明しました。

しかし国際環境NGO「FoE Japan」によると、インドラマユ石炭火力発電事業(インドネシア)とマタバリ石炭火力発電事業フェーズ2(バングラデシュ)については、この新方針の適用外であるとし、国際協力機構(JICA)を通じた新規円借款を行う予定だそうです。

菅義偉首相は50年までに実質排出ゼロを目指すと宣言。30年に向けた削減目標について、13年度比で46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けていくと強調しています。

しかし環境団体は日本がG7首脳宣言を骨抜きにし、世界的な脱炭素の取組みを弱体化させていると抗議しています。コロナ対策の迷走ぶりを見ると、菅政権の温暖化対策は掛け声倒れに終わってしまう恐れが強いのかもしれません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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