諸外国の人たちがどのような組織・制度に信頼を寄せているかをさぐる…主要国編(2017~2020年分)
諸国の人たちはどのような組織や制度に信頼を寄せているのだろうか。米中韓における実情を、国単位の価値観を中長期的に定点観測の形で調査報告している「World Values Survey(世界価値観調査)」(※)から確認する。
今回信頼に関する精査対象となる組織・制度は「宗教団体」「自衛隊(国軍)」「新聞・雑誌」「テレビ」「労働組合」「警察」「裁判所」「政府」「政党」「国会」「行政」「大学」「大企業」「銀行」「環境保護団体」「女性団体」「慈善団体」「国連」。
それぞれの組織・制度に対して選択項目に「非常に信頼する」「やや信頼する」(以上肯定派)「あまり信頼しない」「まったく信頼しない」(以上否定派)「分からない」「無回答」が用意されているが、このうち「非常に信頼する」「やや信頼する」を足して、そこから「あまり信頼しない」「まったく信頼しない」を引き、各組織・制度の信頼度(DI値)を算出する。要はこの値が大きいほど、その国では対象の組織・制度が信頼されていることを意味する。
まずはメディア先進国でもあり、従来型メディアへの信頼度が低いと言われているアメリカ合衆国。
「警察」もさることながら「国軍」への信頼度が極めて高い。これは「9.11.」に始まる愛国心の高まりが反映されているものと思われる。また、「●×団体」のような各種民間団体の値が高いのも特徴の一つ。よしにつけ悪しにつけ、民間による自主活動が進んでいる結果なのだろう。
他方従来型メディア以上に「国会」や「政党」に対する信頼度は低い。「政府」はまだそれらよりもマシだが、マイナス値には違いない。また本部が置かれている国にもかかわらず、「国連」の信頼度がマイナスなのは意外ではある。
続いて何かと話題に上る韓国。
意外にも最高値の信頼度を見せたのは「銀行」、そして次いで「国連」が続いている。今の国連事務総長アントニオ・グテーレス氏が就任したのは2017年で、潘基文氏はすでに辞めているが、韓国での今調査実施年は2018年。直接の影響は無いものの、余韻的なものがあるのだろうか。もっとも過去のデータを参照する限りでは似たような値を示しており、元々韓国では国連に対する信頼度が極めて高いようだ。また、「大学」や「慈善団体」への信頼度も高く、「国軍」はそれに続く程度に留まっている点にも注目したい(「警察」よりも低い)。
おおよその組織に対する信頼度は高いが、「政党」と「国会」は別。「政府」や「行政」がプラスであることと比べると、この信頼の無さには疑問符すら頭に思い浮かばれる。
最後に中国。共産圏で、かつ一党支配の国ということもあり、かなり特殊な数字が出ている。さらに「国連」に関しては現在集計中なのか、記事執筆時点では値が公開されていない。
この値をそのまま信じるならば「政府も国会も軍隊も政党も皆が皆信頼のおける、ハッピーパラダイスな国家」ということになるのだが(それでも「宗教団体」がマイナスなのもこの国らしい。恐らくは特定の団体がイメージされているのだろう)、数字をそのまま受け止めてもよいのかどうか、そしてこのような結果そのものが「信頼度」の総値としてどうなのか、色々と考えさせられるものがある。例えば「政党」なら事実上一党しか選ぶものがないため、まさに「イエスかハイか」を選択させられているようなものとなるからだ。
これらの値は2017~2020年当時のもので、現在ではかなり変動している可能性がある。特に景況感の変化、インターネットの普及を起因とする情報伝達スピードと量の加速化、各種国際情勢の変化、そして新型コロナウイルスの世界的流行などにより、各組織・制度への信頼度が変動している可能性は否定できない。
しかしながら今件のデータを読み解くことで、各国が持つ根本レベルでの組織・制度に対する思惑や認識は、大体の範囲でつかみとれるに違いない。
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※World Values Survey(世界価値観調査)
世界100か国以上が参加して実施している国際的プロジェクト「世界価値観調査」によるもの。各国・地域毎に全国の18歳以上85歳以下の男女1000サンプル程度(実際には1000~2000人程度)の回収を基本とした個人対象の意識調査。調査そのものはおおよそ5年おきに実施されているが、調査期間によって一時的に対象外となる国も少なくない。また現時点では集計が完全には終わっておらず、値が掲載されていない国もある。直近の調査結果は2017年から2020年にかけて行われたものだが、記事執筆時点で項目によって調査結果が掲載されていない国が複数確認できる(最終的な報告書は2021年秋に発表予定)。
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(注)今記事は【ガベージニュース】に掲載した記事に一部加筆・変更をしたものです。