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全人代第一報――政府活動報告

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
昨年、全人代閉幕後の李克強(写真:ロイター/アフロ)

3月5日、全人代(全国人民代表大会)が開幕した。いつもは10日間の会期が15日間に延期される。まずは李克強国務院総理による政府活動報告などから何が読み取れるかを、第一報として読み解いてみよう。

◆GDP成長率目標値6.5%と「トップランナー型」

 3月5日、日本時間の10時から全人代(全国人民代表大会)が北京の人民大会堂で開幕し、李克強国務院総理(以下、初出以外は敬称略)による約1時間50分にわたる政府活動報告(以下、報告)がなされた。汗っかきの李克強は、冒頭20分ほどで、すでに額から汗をタラタラ流していた。場面がフロアーに切り替わってしばらくすると、その汗が無くなっていたので、報道するCCTV(中央テレビ局)側も「汗っかき体質」を知っていて、彼が汗を拭く時間を与えてあげていたのだろう。特に緊張しているという様子はなく、いつもの李克強だった。

 報告の内容に関して、まずは、日本人が最も関心があると思われる今年のGDP(国内総生産)の成長率目標に関して見てみよう。

 GDPに関しては、今年は6.5%前後の成長目標値が設定された。2017年の成長率は6.9%と、目標値の6.5%を上回っている。しかし李克強は「高い成長率を目標とせず、あくまでも質の高い経済発展を目指す」と、目標値を抑制的に設定したと述べている。

 それでも、イノベーションやインターネット+(プラス)により経済発展を牽引するとして、これまで中国は「(先進国に)追いつけ型」だったが、これからは「トップランナー型」として世界の先端に立つことを強調した。

 というのも、「中国のGDPが世界に占める割合は15%に達しており、世界の経済成長への寄与は30%を越えているからだ」と、李克強は声を大きくした。

◆国防予算案8.1%増

 日本人が次に興味があるのは、中国の国防予算ではないかと思う。

 今年の国防予算は、11069.51億人民元(約18兆4000億円)で、前年実績比8.1%増となる。アメリカに次いで、世界第二の予算額だ。

 李克強は報告で、「(中国共産)党の新時代における強軍目標を達成するため、習近平強軍思想を国防と軍隊建設の指導的地位に定め、断固として中国の特色ある強軍の道を歩まねばならない」とした。

◆貧困脱却

 今般の報告で目立ったのは「貧困脱却」に関して何度も触れたことだった。李克強は先ず、この5年間で6800万人の人民を貧困から脱却させたと述べ、さらに今年は1000万人を脱却させるつもりだと言っている。

 ということは、これだけでも合計7800万人の貧困層がいる(あるいは「いた」)ということになろうか。政府統計ではなく、民間では1億人~2億人の極貧層がいるとされており、習近平政権が目指すところの「社会主義国家」とは、およそ掛け離れた現状であるということができよう。

 憲法改正により国家主席の任期を撤廃して、「社会主義国家」の実現を目指すとしているようだが、果たしてこの現実とのギャップをどう埋めるのか、見ものである。

◆異様な会期日程

 例年の全人代は3月5日に開幕し、14日には投票によって国務院(政府)系列の人事が決定し、15日に閉幕した後、国務院総理による全人代に関する記者会見を開くというのが、基本的な日程だ。

 しかし今年は違う。

 国家主席の任期を撤廃すべく憲法改正を行なうため、閉幕は3月20日のようだ。

 憲法改正案の採決は3月11日に行われる見通し。

 開幕式における李克強の報告は午前中で終わったが、午後には憲法改正案の説明がある。

 

 なお、習近平国家主席は終始、憮然たる面持ちでふんぞり返っており、その表情から「紅い皇帝」になる心中を読み取ろうとしたのだが、書くべきことが多すぎて、できたら11日の投票結果を待ってから、詳細に述べたい。司会は党内序列ナンバー3の栗戦書が行なった。彼はこの全人代で、「全人代常務委員長」に選出されるであろうことから、すでに決まったものとしてこの任に当たったものと考えることができる。

 国家主席&副主席の選出は17日で、国務院総理の選出は18日、国務院副総理や国務委員などの選出は19日に行われる模様である。

 (このコラムを書いているのは李克強の報告が終わった時点なので、先ずは第一報として全人代の様子をご紹介した。今後、第二報、第三報として発信していくつもりである。)

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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