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川崎、川口、尼崎……元・工場エリアのマンションが夫婦共働き世帯に好まれる理由

櫻井幸雄住宅評論家
駅を中心に超高層マンションが増える川口。荒川沿いにはまだ工場が見える。(写真:イメージマート)

 首都圏の川崎、武蔵小杉、川口、近畿圏の尼崎、塚口、神崎川……以上の場所には、共通点がある。

 それは、都心に近く、かつては工場が多かったが、今はマンションが増えている場所であること。加えて、夫婦共働きの世帯が好んでマイホームを購入する場所であることだ。

 そこには、納得の理由が4つあった。

納得の理由1

2人の職場の中間地点になる

 夫婦共働きの場合、2人の勤務先が同じような場所とは限らない。勤め先が離れている、もしくは真逆の方向ということもある。

 首都圏の場合、夫婦ともに都心の大手町に出勤するケースは珍しく、夫は都心に、妻は横浜に、と真逆の方向に出勤することがあるわけだ。2人の勤務先が異なる場合、どちらにも行きやすい場所が好都合となる。

 東京と横浜に分かれる場合は、中間の川崎が、東京と大宮に分かれるときは中間の川口が、大阪・梅田と神戸に分かれるときは尼崎や塚口、神崎川あたりが絶好の落とし所に。いずれも、以前は郊外と位置づけられ、工場が多かった場所だ。

 しかし、今は、都心に近接する便利な場所と認識が変わった。そして、2つの大都市の間に立地するため、夫婦共働き世帯に人気となりやすいわけだ。

納得の理由2

駅に近い大規模マンションが出る

 かつての工場エリアでは、駅の近くで大規模マンション、もしくは大規模超高層マンションが分譲されやすい。それも、忙しい夫婦共働きには好ましい条件となる。

 駅に近い物件が多いのは、駅のすぐ近くに工場があったから。明治から昭和初期まで、川崎や川口、尼崎などでは駅近の工場が建てられた。その敷地が、平成以降、マンション用地に変わってきた。

 「今どき、こんな便利な場所に工場がある必要はない」と考えられるようになり、「マンション用地として売却すれば、地方都市で広大な工場用地が手に入る」ので、工場を地方移転する企業が増えたのである。

 工場が移転した後の広い土地は、きれいな四角形をしており、マンションを建設しやすい。さらに、工場があった場所は建ぺい率や容積率が高い。大規模マンションを建てやすい条件がそろっているわけだ。

 大規模マンションであれば共用施設が充実し、建物内にコインランドリーやコワーキングスペースを備えることが多い。マンションとともにスーパーマーケットなどの商業施設も新設されれば、共働き世帯にとって生活しやすい条件がそろう。

 それも、かつて工場エリアだった場所に建設されるマンションが共働き世帯に好まれる理由となる。

納得の理由3

開発当初は割安物件が売られる

 工場エリアだったところがマンション街になると、共働き世帯が好んでマイホームを購入する……3つめの理由は、割安物件をみつけやすいことだ。特に、工場からマンションの場所に変わり始めた直後、いわゆる再開発の初期は割安なマンションが出る。

 理由は、工場エリアの印象が強く残っている時期であるからだ。

 「これから工場エリアからマンション街に変わる」という計画を示しても、「あんな場所、住むべきではない」という声が出てしまう。

 だから、最初の頃は思い切り抑えた価格でマンション分譲が行われる。

 割安な価格設定は、共働き世帯に限らず、すべての購入者にとって願ってもないものとなる。

 「多少イメージがわるくても、この価格なら買いたい。それに、工場エリアのムードはいずれなくなる」と考える人ならば、こだわりなく購入を決意する。

 ところが、ここで購入を止める動きも出る。

 購入者の親……55歳以上の近親者が待ったをかけることがあるのだ。それは、昭和時代に問題になった「公害」を心配してのこと。年配者はかつての「公害イメージ」で工場だらけの場所でマンションを買わないほうがよい、とアドバイスしがちだ。

 親からの資金援助が多い場合、この忠告を無視することができず、工場エリアのマンションをあきらめることがある。

 その点、夫婦共働き世帯は2人で頭金を貯め、ペアローンで購入する。つまり親の力に頼る部分が少ないので、親の意見に左右されない。これも、共働き世帯が工場エリアのマンションを積極的に購入する理由となる。

納得の理由4

資産価値が上がりやすい

 最後の理由は、「工場エリアのマンションは中古で値上がりしやすい」ということ。つまり、資産価値が高いことだ。

 工場エリアからマンション街に変わる時期=再開発の初期に分譲されたマンションは前述した通り割安価格で売られるため、特に値上がりしやすい。

 川崎駅の西口側、ラゾーナ川崎がある一帯や川口駅東口側でイトーヨーカドー・アリオ川口の周辺、近畿圏ではJR尼崎駅北口側の「あまがさきキューズモール」周辺などで開発初期に販売されたマンションは、すべて大きく値上がりしている。

 いろいろな事例を調べてそのことを知れば、工場エリアからマンション街に変わる場所の初期物件は狙い目ということが分かる。だから、購入者が多くなるわけだ。

 しかしながら、多くの工場エリアはすでにマンション街への変貌を遂げており、狙い目の「再開発の初期物件」を探しにくくなっている。今が初期といえる場所は、大阪市内の神崎川エリアなど限られた場所となってしまった。

 今から大きく値上がりする場所を探すのはむずかしくなったが、工場エリアからマンション街に変わった場所では、中古マンションの値上がりが続く。共働き世帯にとって暮らしやすい条件を備えているため、人気が上がり続けるのだ。

 つまり、何年経っても資産価値が下がりにくい……それも、共働き世帯が、かつて工場が多かった場所のマンションを好む理由となっている。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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