高価な機材を購入して球場に通い、野球少年に「科学的分析」を伝え続けるグラブメーカーの思い
野球少年の中学生から草野球をする大人まで、いま注目を集めているInstagramのアカウントがある。学生野球や社会人野球の注目選手のプレーを動画で撮影するとともに、その選手の癖や身体の使い方の特徴に注目して、Instagramのストーリーズなどで分析・解説しているアカウントだ。
「いくつか注目するべきポイントがあって、体幹の軸がどういう角度かとか、ボールを投げる時にグラブをどういうふうに巻き込んでいるか。脚を上げてボールを投げる時に、グラブが身体から離れる選手は、コントロールにあまり自信がないケースが多いんです。
そのピッチャーの独特のクセを見て、どういうふうに身体の使い方を改善すれば、その選手の能力をより一層引き出せるかを考えてアドバイスするようにしているのです」
なぜこのような専門的な分析が可能かというと、このアカウントの主である崔現大さんは、ピッチャーのグラブを専門に扱っているメーカー「ごりら印の野球道具」を経営しているからだ。崔さんは小学校から大学まで野球を続け、大学卒業後は独立リーグ「石川ミリオンスターズ」で活躍した選手でもある。
崔さんが販売する投手用グラブは、選手の身体や筋肉の使い方を矯正し、その選手の能力を引き出すという、まったく新しい概念のグラブだからだ。崔さんの要求に、グラブを製作する職人さんたちが高度な技術で応えてくれることによって初めてこうしたグラブが実現している。
「筋肉の連動を生み出して、力まずリラックスした状態で、少ないエネルギーで大きな爆発力を生み出すことによって、選手の元々持っているエネルギーを100%近く出し切ることが可能になるのです。
選手によっては、球速が11km/hも速くなった例もあります。社会人では、いまドラフト指名候補として注目を集める東京ガスの益田武尚投手や、髙橋佑樹投手も使用しています。彼ら2人は大学の時にドラフト指名から漏れて、涙をのんでいます。その彼らが社会人からなんとかプロに再び挑戦するために、うちのグラブを選んでくれたのです」
崔さんの持論は、野球のプロを目指す人たちは、小さい頃から身体や筋肉の使い方を科学的に分析して、正しく使うことが重要だということだ。崔さんが接骨院を開業している時に、腰椎分離症や「リトルリーガーズショルダー」と呼ばれる症状で骨を痛めてプレーできなくなった少年たちをたくさん目にしてきたからだ。
「私自身も感覚だけで身体を使ってプレーしてきましたが、独立リーグを引退して柔道整復師の道に進んで勉強をして、身体の使い方の重要性を思い知らされたのです。感覚だけでプレーしていると、いつか必ず限界が来ると気がつきました」
その思いから、崔さんは「高画質の映像や、スロー映像などを使用して、選手のプレーを撮影し、科学的に分析すること」の重要性に気がついたという。野球少年たちにその情報を一刻も早く伝えたいという思いから、50万円以上のお金を使って高価な撮影機材を購入。大会の開催中には、仕事を後回しにしてでも球場に通い、撮影をしているのだという。
「動画を見て身体の使い方の大切さをまずは感じてほしいです。そしてグラブって身体の一部なんだな、と知っていただき、グラブを変えることでプレースタイルを変えられるし、この先の野球人生も変わっていくんだと感じてほしいんです。そのためのアドバイスを続けていきたいんです」
崔さんの計画は、これにとどまらない。こうした「身体を科学的に使うこと」に対する理解を少年野球などの指導者や、スポーツ店のスタッフなどにも広げていきたいのだという。無理な身体の使い方をして、野球人生を縮めてしまっている人を少しでも減らしたいからだ。
「野球の人気は年々下降傾向で、野球人口が少なくなってしまっている現在、なんとか野球を盛り上げていきたいです。
野球は『マイナススポーツ』つまり失敗の積み重ねのスポーツなんです。あのイチロー選手でも3000本のヒットの影に7000打席以上アウトになっています。
野球の楽しさって結果を出せた時だと思うので、結果を出せる可能性を少しでも上げるお手伝いをすることで、野球人口が増えてくれればと思います」
崔さんはInstagram以外でもいろいろ情報発信をしていきたいという。野球を盛り上げようと科学的視点で頑張る崔さんの活動に、これからも注目していきたいものだ。
崔現大さんのInstagramアカウント: https://www.instagram.com/gorillajirushi_baseball