最低!齋藤法務大臣がウィシュマさん遺族に暴言連発、東京新聞・望月記者も「ショック」
現在、国会で審議されている入管法(出入国管理及び難民認定法)の改定案*1。難民及び在日外国人を支援する諸団体からは、「改正案ではなく改悪案」と指摘されている中、焦点となるのは、法務省及び出入国在留管理庁(入管)の人権軽視だ。今月7日と11日の記者会見においても、齋藤健法務大臣が入管収容の被害者家族の心を踏み躙るような暴言を連発した。
〇ウィシュマさん映像の公開に齋藤法相が逆ギレ
入管法改定案の審議と共に、改めて注目されているのが、名古屋入管で死亡したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の事件。ウィシュマさんは、2020年夏に名古屋入管の収容施設に不当に収容された上*2 、2021年1月頃から著しく健康状態が悪化したにもかかわらず、適切な治療を受けられないまま収容され続け、同年3月6日に亡くなった。これに対し、入管側の対応に問題があったのではないかと、ウィシュマさんの妹であるワヨミさんとポールニマさんら遺族らは、国賠訴訟を提訴。この裁判で遺族らと弁護団が証拠として、国側に提出させたのが、収容中のウィシュマさんの姿を収めた監視カメラの映像、約5時間分だ。その内のごく一部、約5分の映像を遺族らと弁護団は、今月6日、会見で記者達に公開した。
裁判過程で証拠提出された入管内映像を原告側が公開することは、これまで幾度もあり、今回もウィシュマさん遺族らと弁護団は、事前に裁判所に報告して映像を公開している。ところが、これに「逆ギレ」し、不快感を露わにしたのが、齋藤法相だ。今月7日の会見などで、
「原告側が勝手に映像を編集をして、マスコミに提供したり、ネットに公開するなどした」
との発言をくり返しているのである。だが、そもそも、ウィシュマさんの監視カメラの映像は全部で約295時間あり、ワヨミさんとポールニマさん及び弁護団はその全ての提出を求めてきた。つまり、法務省/入管は、映像の公開を拒否し続けた挙句、裁判所に勧告されて、295時間の内、たった5時間しか映像を出してこなかったのだ。しかも、この映像には、後述のように、裁判での証拠保全の制約もあり、法務省/入管にとって特に都合の悪い部分が含まれていないのである。
〇加害者側が「被害者の尊厳」を語る傲慢さ
さらに酷かったのが、11日の会見での発言だ。東京新聞の望月衣塑子記者が、
「『勝手に編集をして』と言うのであれば、ずっと2年前から遺族側が求めてきた295時間全てを早く公開すべきだったのではないでしょうか?遺族としては、この5時間の中のわずか5分しか一般の人に見せられないという状況についても懸念をしております。こういう状況下で、あのような発言を撤回すべきじゃないかという意見は沢山ありますし、私自身も聞いていて非常にショックでした。撤回しないのでしょうか?」
と、質問したところ、驚くべきことに、齋藤法相は「(映像の公開は)ウィシュマさんの名誉、尊厳の観点から問題があると考えているわけです」と発言したのである。
正に、盗人猛々しいとはこのことであろう。ウィシュマさん遺族弁護団の一人である高橋済弁護士は、筆者の取材に対し、
「一体、どの口で『尊厳』を語るというのでしょう?もし、自分の家族が誰かに殺されて、その犯人が証拠映像の公開を『被害者の尊厳に配慮してやめるべきだ』と言ったら、一体、どう思われるのでしょうか?」
と憤りを隠しきれない様子で言う。
「ウィシュマさんをあまりに酷いかたちで失ったワヨミさんとポールニマさんに対する、最悪の二次加害です。もはや、法務大臣として政治家としてという以前に、人としていかがなものでしょうか?一分一秒でも早く辞任していただきたい」(同)。
〇証拠提出に含まれなかった問題映像
ワヨミさんとポールニマさんが、ウィシュマさんの映像の公開を求めてきたのは、「姉がどのような状況で亡くなったのか、日本の人々に知ってもらいたい」という思いからだ。だが、上述したように、証拠として提出した映像から、法務省/入管側は彼らにとって最も都合の悪いシーンを編集で削除している。法務省・入管が裁判で提出した5時間の映像には、衰弱しているウィシュマさんに対し「薬きまっている?」と揶揄したり、飲食も困難になっていたウィシュマさんが飲もうとした牛乳を吐き戻してしまったことを「鼻から牛乳や」と茶化すなどの、名古屋入管職員が問題発言している場面が含まれていない。これらは、2021年に非公開の場で遺族・弁護団、国会議員に見せた映像の中にはあったものだ。
この件について、望月記者は、自身の出演するYouTubeチャンネル「Arc times」の動画の中で、「齋藤法相は『あくまで、裁判所からの勧告を受け、原告からの意見も聞いて証拠提出をした』『それ以上でもそれ以下でもない』と主張していますが、(入管施設内での人権状況を)本当に変えていくつもりならば、裁判所に勧告される以前に、295時間の動画を出すところから始めるべきではなかったのかと思います」と述べている。
前出の高橋弁護士も「裁判での証拠保全は、あくまでウィシュマさんの病状に関する部分のみという制約があり、しかも、私達は295時間の映像の全てを実際に観て確認することすらできませんでした」と語る。「今回、私達が証拠保全した5時間分の映像は、ギリギリの折衷案として得たものです。齋藤法相の『原告側からの意見を踏まえて映像を提出した』との趣旨の主張は、完全にミスリード。よくまあ、そんなことを言えると呆れています」(同)
〇組織として末期的な人権感覚の無さ
これまで裁判過程の中で証拠提出された入管内の動画の公開に対する抗議はなかったにもかかわらず、今回、齋藤法相含め法務省・入管側が強く反発したのは、国会で入管法改定案が審議されているからなのだろうが、逆にそのことが、ウィシュマさんを死なせてしまったことへの真摯な反省が無い証左であるように、筆者には思える。実際、6日のウィシュマさん遺族及び弁護団の会見で、ポールニマさんは「今回の入管法改定案のようにしても、やはり姉を救うことは出来なかったでしょう」と訴えた。入管法改定案では、国連人権理事会等から勧告された収容の是非を裁判所にさせることが盛り込まれておらず、3ヵ月毎に収容の是非を判断するのは、あくまで入管なのだ。そして、その入管を管轄する法務省のトップが、上述してきたように、「反省」は上辺だけで、真相究明をしようと尽力するウィシュマさんの遺族らや弁護団をバッシングするような人権感覚なのである。やはり、法務省/入管の人権感覚の無さは組織として末期的だ。入管法改定案は廃案、国連の勧告に従うことが望ましい道なのであろう。
(了)
*1 入管法改正案については、「むしろ改悪案」との批判も多いため、本稿では「入管法改定案」と表記する。
*2 ウィシュマさんは当時交際していた男性からDVを受けており、助けを求めて交番に行ったところ、留学生としてのビザが失効していたため名古屋入管に収容された。本来はDV防止法に基づき、ウィシュマさんは保護されるべきだったが、交番の警察も、名古屋入管の職員もそれを理解していなかった。