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香港の大規模デモ「BBCの歪曲報道。中国は容疑者引き渡しを指示していない」駐英中国大使が大反論

木村正人在英国際ジャーナリスト
容疑者の中国本土引き渡しに反対する香港の大規模デモ(6月12日)(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]中国本土に容疑者を引き渡せるようになる「逃亡犯条例」改正案に反対する香港の大規模デモが激しさを増す中、強面で知られる劉暁明・駐英中国大使が12日、英BBC放送の深夜ニュース番組「ニューズナイト」に出演しました。

迎えたのは辛口コメントで鳴らす外交担当エディター、マーク・アーバン氏です。

白熱のインタビューは在英中国大使館のホームページにも転載されています。「逃亡犯条例」改正案を巡る香港の大規模デモだけでなく、新疆ウイグル自治区の再教育施設、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の次世代通信規格5Gネットワーク参入問題に及びました。

――中国は中英共同宣言を維持するつもりはあるのか

劉大使「中国は英国だけでなく世界に対して一国二制度を維持することを約束した。中英共同宣言は香港返還で使命を終えた。香港で一国二制度は成功している」

(筆者注)中英共同宣言では1997年の香港返還から50年間は「一国二制度」を維持するとうたわれています。

――2年前に中国外務省の報道官は、中英共同宣言はもはや現実的な意味を失い、単なる歴史的な文書になったと発言したが

「私は香港返還をもって使命を終えた歴史的な文書と考えている。平和的に国家間の紛争を解決するための好例として有効だ。今も模範にすべき成功例として輝いている。しかし、この宣言は英国に香港に内政干渉する主権も、権利も、法的権利も認めていない」

(筆者注)2014年の香港反政府デモ(雨傘運動)を巡り、在英中国大使館の公使が超党派の英議員代表団の香港訪問を拒否。この中で、中英共同宣言は香港が中国に返還された1997年までは適用されたが、今は無効だという中国側の見解を示しました。

――香港の人々が大規模デモを展開している。その気持ちを考えると英国には中英共同宣言に基づいて人々の権利を守る義務がある

「英国に自らの国民を守る義務はあっても、香港の、中国の一部の香港の人々の権利を守る必要はない。香港の人々は自ら統治している。彼らは中国本土とは異なる社会システムを持っており、英国政府がすることは何もない」

――人口の10分の1が街頭に繰り出している。中国は香港の人々の感情を尊重しないのか

「それは正しくない。すべての話が歪められている。このケースは法制度の抜け道という欠陥を塞ぐための手続きだ」

――誰が話を歪めているのか

「メディアだ。BBCを含めて。BBCは、香港政府が北京の指示によってこの改正案を作ったと報じているが、実際には中国は一切の指示を行っていない。命令も存在していない」

「この改正案は香港政府によって作られたものだ。そして台湾で起きた殺人事件によって改正が後押しされた」

――中国は香港政府に改正案を取り下げるようアドバイスするつもりはあるのか

「どうして中国が香港政府に取り下げるよう頼まなければならないのか」

――今、市民が警官隊に警棒で殴られている。これは草の根運動だ

「最初は平和的なデモンストレーションだった。しかし暴徒化し、警官に暴力がふるわれた。警官隊は自分たちを守らなければならなくなった。秩序を取り戻さなければならなくなった警官隊を非難することはできない」

「香港内外の勢力はトラブルを拡大するために利用しようとしている。話は誇張されている。警察発表では20万人の抗議に過ぎない。80万人の人々が改正案を支持している。BBCは英国でこうしたサイレントマジョリティーの声を十分には伝えていない」

「香港政府は公から意見を募った結果、4500件の回答のうち3000件が改正案を支持していた。反対は1500件に過ぎなかった」

――新疆ウイグル自治区の人々に対する扱いはどうか。少数派である100万人のムスリム(イスラム教徒)が再教育施設に収容されている

「また誇張だ。あなたがどこから100万人という数字を持ち出したのか私は知らない」

――国連の報告書だ

「国連がこの件に関していかなる報告書を出したとも思わない。過激派によって洗脳された人々を社会復帰させるために訓練する教育施設だ。施設では生計を立てる手段、技術を身につけ、言語や、彼らが彼らの権利を守る法的知識を習得できるよう訓練している」

(筆者注)国連人権パネルは昨年8月、再教育施設に100万人のウイグル族が収容されているという信頼できる多くの報告書を受け取っていると発言。国連人種差別撤廃委員会メンバーのゲイ・マクドゥーガル氏は「再教育センターに強制収容されている少数派のウイグル族やムスリムは200万人」という推計について言及しています。

――その施設を取材できるか

「もちろんだ。我々はジャーナリストや外交官を招待した」

(筆者注)朝日新聞は5月19日付で「ウイグル族女性『私は中国人』 新疆ウイグル自治区『再教育施設』ルポ」を報道。「女性は『党と政府に感謝している』と繰り返し、名前を聞くためメモ帳を渡すと、わざわざ漢字で『私は中国人です』と付け足した」と伝えています。

――イスラム教への信仰が侵害されているという報告を聞いたが

「それは完全な間違いだ。歪曲だ。すべてデッチ上げられた偽ニュースだ。人々の信仰の自由は尊重されている。BBCは大きな事柄を見落としている。施設がある理由は過激思想に毒された若者を再教育するためだ」

「この3年間、新疆ウイグル自治区では過激派の暴力はなくなった。これは、こうした方法が成功だったことを物語っている」

――再教育を施されている人は最大で100万人にのぼるという報告が繰り返されている

「どこからその数字が来たのか私には分からない。出たり入ったりしているので数字を出すのは難しい。大切なのは施設の目的が人々を誤らせるのではなく、過激思想に侵された若い人々がより良い生活を送れるようにするためにあるということだ」

――ファーウェイの5G参入について英国が米国からの要請に応じて全面排除すれば結果はどうなるか

「ファーウェイは5Gをリードする良い会社だ。英国に進出しているのは取引相手とウィンウィンの関係を築くためだ。通信だけでなく産業に大きな貢献をしている。7000人の雇用を生み出しており、英国がファーウェイと協力すれば未来は約束されている」

「もし全面排除を決定すれば非常に悪いメッセージになる。ファーウェイにとどまらず、中国ビジネス全般についてもだ。英国の市場は開かれているのか、中国にとって英国のビジネス環境は友好的なのか。もし全面排除することになればとても悪いメッセージになるだろう」

(筆者注)ファーウェイの5G参入を英政府が限定的に受け入れることが英紙に漏洩した問題で、テリーザ・メイ首相は5月1日、漏らした張本人はギャビン・ウィリアムソン国防相(当時)だとして更迭。

報道によると国家安全保障会議(NSC)で議長のメイ首相は「アンテナや他の『重要ではない(ノンコア)』インフラストラクチャーのようなネットワークの一部を構築するのをファーウェイが支援することを限定的に認める」方針を明らかにしたそうです。

米国のトランプ政権は日本やアングロ・サクソンの電子スパイ同盟「ファイブアイズ」に参加するオーストラリアやニュージーランドと同じように英国にファーウェイの5G参入を全面排除するよう圧力をかけています。

――貿易に悪影響は出るのか

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「貿易だけでなく、投資にも悪影響がでる。過去5年間、中国からの投資はそれより以前の30年間の合計を上回っている。英国で中国の投資は膨張している。昨年も14%拡大した。ファーウェイに対して扉を閉ざすことは他のビジネスにも非常に悪い、後ろ向きのメッセージとなる」

英下院の資料より抜粋
英下院の資料より抜粋

(筆者注)欧州連合(EU)離脱交渉が難航する英国は、その穴を対中貿易と中国からの投資で埋めようとしています。中国の英国への海外直接投資は貿易に比べるとそれほど大きくはありません。

中国にとって必要なのは国際金融センター、ロンドンへのアクセスと世界に冠たる英大学の研究・開発力です。ファーウェイは大学の5G研究者を支援しており、研究者の多くが米国の全面排除を疑問視しています。

市民生活と企業活動を大混乱に落し入れる「合意なき離脱」でEUとケンカ別れしてしまうと、英国は米国と中国の板挟みになって、非常に苦しい立場に追い込まれるでしょう。

安倍首相は行動を起こせるか

中国本土やマカオ、台湾と犯罪人引き渡し協定を結んでいない香港政府は今年2月、引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案を立法会(議会)に提出。香港の男性が妊娠中の彼女を台湾で殺害したにもかかわらず、台湾に身柄を引き渡すことができなかった昨年の事件が直接のきっかけになりました。

しかし香港の民主派は「中国共産党に批判的な市民運動の弾圧に悪用される」「高度な自治の崩壊や人権侵害につながる」と反発。普段は親中派のビジネス界も「香港の法の支配が損なわれる。国際市場としての評価が低下する」と反対しています。

英国の次期首相レースに名乗りを上げるジェレミー・ハント外相は5月30日、カナダ外相とともに「逃亡犯条例改正案は中英共同宣言にうたわれた権利と自由を損なうリスクがある」と重大な懸念を示しました。

米国のマイク・ポンペオ国務長官は5月16日、香港の民主化運動家と会談し、「香港の人権保護や基本的な自由、民主的な価値を支援する」と表明しています。

今月下旬、大阪での20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれます。安倍晋三首相はG20に合わせて来日する中国の習近平国家主席と首脳会談を予定しているだけに慎重な姿勢を見せています。日本も西側諸国と歩調を合わせて声を上げる必要があるのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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