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羽生結弦を撮り続ける“神ラマン”が語る 思い出深い2枚の写真

秋吉健太編集者

昨年夏にプロ転向後、ことし2/26にはスケーター史上初となる東京ドーム公演『GIFT』を開催したプロスケーターの羽生結弦さん。

東京フィルハーモニー交響楽団の生演奏に乗せ、18年平昌(ピョンチャン)五輪などで演じたショートプログラム「バラード第1番」などを披露、会場の3万5000人もの聴衆を魅了したことは多数のメディアでも話題となりました。

そして、3/10(金)〜12(日)にはプロ転向後初めて地元・宮城でアイスショー『notte stellata(ノッテステラータ)』を開催。体操男子で個人総合五輪連覇を果たした内村航平さんとの初共演も話題となっています。

羽生結弦さんを撮り続ける“神ラマン”

プロ転向後、数々の新しい挑戦を続ける羽生結弦さんの魅力について、羽生さんの内面をも写す“神ラマン”としてファンの間で知られる、スポーツニッポンの写真映像部・小海途良幹(こがいとよしき)さんに話を聞くことができました。

“神ラマン”ことスポーツニッポンの小海途良幹さん

小海途良幹さん/スポーツニッポン新聞社写真映像部。2017年から羽生結弦さんを撮影。写真集『YUZU'LL BE BACK IV 羽生結弦写真集2021~2022』には小海途さんの撮影した写真が多数掲載
小海途良幹さん/スポーツニッポン新聞社写真映像部。2017年から羽生結弦さんを撮影。写真集『YUZU'LL BE BACK IV 羽生結弦写真集2021~2022』には小海途さんの撮影した写真が多数掲載

「最初に羽生結弦さんを撮影したのが17年の2月です。韓国の江陵(カンヌン)で行われた四大陸選手権ですね。翌年、平昌(ピョンチャン)五輪があった場所です」と小海途さん。

以来、羽生さんの演技を撮り続けている小海途さんに、羽生さんについての印象を教えていただきました。

小海途さん「羽生さんはアスリートっていう枠組みの中に入れて語りきれない、ひとりの表現者だと思っていて、それは他のアスリートにはない特別な面だという風に感じてます」

これまで数々の試合で羽生さんの姿を撮り続けた小海途さん。カメラマンとして、いつもどのようなシーンを見ているのでしょうか。

小海途さん「基本的に見られるところは全部見る感じですね。練習も含め、会場に入ってくる様子だったりとか、会見だったり」

カメラマンとして、羽生さんはどのような存在なのでしょうか。

小海途さん「カメラマンとして傍で見ている彼は、僕たちに対して丁寧に接してくれますし、尊重してくれます。一人一人その取材者をしっかり認識してくれているので、一方的かもしれませんけど、心が通じるような。そういう取材対象だという風に思っています」

スポーツニッポン本社で話を聞かせていただいた
スポーツニッポン本社で話を聞かせていただいた

小海途さん「僕たち取材陣の撮った写真や書いた原稿をちゃんと見てくれているんだなっていうのは感じていて、写真や原稿に対してリアクションや感想を言ってくださったこともあります。『いつもありがとうございます』っていう言葉を向こうからかけていただくことも多いんです。本当に我々を大事にしてくれてるんだなと思うことが多いです」

羽生さんのファンへの接し方にも感じ入るものがあるのだそう。

小海途さん「報道陣に限らず、ファンの方に対してもやっぱりすごい大事にしてるんだなって見ていて感じることは多いです。周りの人を大事にしながら、自分の道を歩んでいっている人なんだなっていうのを近くで見ていて感じますね」

400ミリ望遠レンズや一脚などを入れたカメラバッグを背中に背負い、全国いろんな場所へ撮影に向かう
400ミリ望遠レンズや一脚などを入れたカメラバッグを背中に背負い、全国いろんな場所へ撮影に向かう

表現の追求と結果という2つの軸を持つ選手

「羽生さんは、競技者としてパフォーマンスをして『結果が出ればいい』っていう風に、そこで留まっていない。僕が彼を表現者だと思うのはそういう理由です」と小海途さん。

小海途さん「競技者時代はオリンピックの金メダルであったり、これまでもう疑いようのない結果を残してきた人ではあるんですけれども、結果を出すことだけを目指してやっているのかと言われると、それだけじゃないように僕の目には映っていて。“フィギュアスケーター・羽生結弦”という作品を表現していく、そういう表現の追求とアスリートとしての結果、その2つの軸を両立してきたアスリートなんだと思います」

昨年からプロに転向した羽生さんについて、カメラマンとしてはどのような期待をしているのでしょうか。

小海途さん「今回プロになられたことで、競技会で結果を出すということから解放されるので、さらに表現の方に重きを置いて自由にやっていけるのではないかと。我々はプロスケーター・羽生結弦という表現者の部分をより多く見ていけるんじゃないかなって思っています」

羽生さんの作り出す体のラインは他にはない美しさ

スポーツニッポンの報道カメラマンとして、日々いろんなスポーツの撮影をしている小海途さん。普段はどんなことを意識しながらカメラのファインダーを覗いているのでしょうか。

小海途さん「たとえば試合だと表情、全体、両方を見ます。羽生さんの場合、体のラインとかは結構意識的に見ようというところはありますね」

小海途さんが撮影した羽生弓弦さんの写真が掲載されている写真集『YUZU’LL BE BACK Ⅳ 2021~2022』を手に
小海途さんが撮影した羽生弓弦さんの写真が掲載されている写真集『YUZU’LL BE BACK Ⅳ 2021~2022』を手に

その理由を聞いてみたところ、「もう作りだす体のラインっていうのが、他のスケーターにはない美しいものがあるんです」と羽生さんのラインを絶賛する小海途さん。

小海途さん「それは彼の意識からくるところだと思うんですけれども、頭のてっぺんから手の指先、足の先、体の隅々まで意識が行き届いているので、羽生さんが作り出す体のラインっていうのはやっぱり特別なものがあって」

「羽生さんのラインの美しさをシルエットだけで表現したくて撮影した一枚です」(小海途さん)
「羽生さんのラインの美しさをシルエットだけで表現したくて撮影した一枚です」(小海途さん)

羽生さんは写真の力を再認識させてくれる

学生時代に一眼レフカメラを持って世界一周の旅に出かけ、そこでの数々の出会いからカメラマンを志すようになった小海途さん。

学生時代、カメラを片手に世界一周をした小海途さん。写真はペルーを訪れた際に南米3大祭りの一つとして数えられる『インティ・ライミ』で出会った家族との一枚。「いい思い出がいっぱいあります」(小海途さん)
学生時代、カメラを片手に世界一周をした小海途さん。写真はペルーを訪れた際に南米3大祭りの一つとして数えられる『インティ・ライミ』で出会った家族との一枚。「いい思い出がいっぱいあります」(小海途さん)

スポーツニッポンに入社し、報道カメラマンの道へ。「駆け出しの頃ですが、本当にありとあらゆる失敗をしましたね」とのことですが、羽生さんを撮影するようになり、写真の持つ力を再認識しているのだそう。

小海途さん「普通は羽生さんの演技をテレビや動画などで流れとして見ることが多いとは思うんですが、僕らは写真を撮っていく中で彼の動きを切り取るっていうか、その瞬間瞬間を止めて見るわけじゃないですか」

スポーツニッポン本社には小海途さんが撮影した羽生さんの写真が飾られている(「連覇の雄叫び」/江陵アイスアリーナ/平昌五輪/18年2月17日)
スポーツニッポン本社には小海途さんが撮影した羽生さんの写真が飾られている(「連覇の雄叫び」/江陵アイスアリーナ/平昌五輪/18年2月17日)

小海途さん「そうすると、動画で見ている時には見えなかった美しさが、写真に切り取られてる時が多々あります。それは羽生さんが一瞬一瞬を大切に滑っていることの表れだと思うのですが、その時に凄い感動や驚きがあって。写真の力を再認識させくれるっていうか、写真っていいんだなというのを感じさせてくれる。羽生さんはそういう被写体だと思っています」

海外の羽生ファンからも反響

“神ラマン”と呼ばれる小海途さん、国内だけでなく国外でも羽生さんのファンからの反響があるのだそう。

小海途さん「以前、スウェーデンのストックホルムを訪れた時、ふらっと入った地元のスーパーで店員の方が私のことを知っていてくれて、向こうから声を掛けてくれたことがありました。こんなところにまで自分を知ってくれている人がいるのかと驚いた体験でした。羽生さんはそういう体験を周りに与えることができるスケーターなんだなって思います」

神ラマンが選んだ 思い出深い2枚の写真

今回、小海途さんがこれまで撮影した羽生さんの写真の中から、思い出深い写真を2点選んでいただいた。

小海途さん「1つは17年のもので、彼を撮影し始めて2回目の大会の時のものです。3/10〜12に宮城で開催される次のアイスショー『notte stellata』はイタリア語で“満天の星”を意味するタイトルなんですけど、彼の演目名から来ています。その演目の衣装を着た写真を1枚目に選びました。この写真を撮影した瞬間に、羽生さんはちょっと特別なスケーターなんだと認識したんです」

「世界フィギュアのエキシビションでジャンプを披露しようとして、失敗して横たわった時の一瞬の表情です」(小海途さん)/17年世界フィギュア(©スポーツニッポン新聞社)
「世界フィギュアのエキシビションでジャンプを披露しようとして、失敗して横たわった時の一瞬の表情です」(小海途さん)/17年世界フィギュア(©スポーツニッポン新聞社)

スケートリンク上に横たわる羽生さんの表情は少しはにかんでいるようにも見えます。小海渡さんはなぜ、この一枚を思い出深い写真として選んだのでしょうか。

小海途さん「それまでのアスリートとしての強い表情、強い姿を四大陸選手権と世界フィギュアの競技の中で見てきたわけです。羽生さんの鬼気迫る勝負師としての顔を見ていたんですが、この時のエキシビションでジャンプを失敗した後に、写真にあるようにちょっと照れ笑いの表情を浮かべたんですけど、その柔らかい表情に、彼の振り幅というか奥の深さを垣間見て、『この人はきっと特別な人なのかな』っていうのを認識した瞬間の一枚です」

羽生さんが自分の写真を変えてくれた

小海途さん「もう1つはモノクロで羽生さんの横顔を撮影した写真です。19年の世界フィギュアの時の写真なんですけれど、スポーツ紙の報道カメラマンとして報道写真、スポーツ写真という枠組みの中で写真を撮っていた自分が、そこから逸脱してしまった瞬間の写真です」

「最初からカメラの設定をモノクロにして撮影したものです。報道写真としてはありえないけれど、どうしてもそう撮るべきだと思ったんです」(小海途さん)/19年世界フィギュア(©スポーツニッポン新聞社)
「最初からカメラの設定をモノクロにして撮影したものです。報道写真としてはありえないけれど、どうしてもそう撮るべきだと思ったんです」(小海途さん)/19年世界フィギュア(©スポーツニッポン新聞社)

小海途さん「報道写真はきちんと情報を伝えるためにも、基本的にはカラーで撮影するものなんです。これは編集で白黒加工したのでなくて、カメラの設定をモノクロモードにして撮った写真なんです。つまり撮影した瞬間から新聞で使える写真ではないんです(笑)。新聞で全く使えないような写真を『ここで撮りたい!』そう思わせてくれた羽生結弦というアスリートの凄さ、そういう意味でこの一枚を選びました」

フィギュアスケートの撮影によく使う135ミリレンズを付けた愛用のカメラはSONYのα1。「スケートリンクや屋外スポーツの撮影など寒い中で撮影しているので、手はずっとあかぎれなんです」と小海途さん
フィギュアスケートの撮影によく使う135ミリレンズを付けた愛用のカメラはSONYのα1。「スケートリンクや屋外スポーツの撮影など寒い中で撮影しているので、手はずっとあかぎれなんです」と小海途さん

小海途さん「この写真を撮影したことが、自分の写真の表現が新たなステージに一歩進むことができた。これを境に、羽生さんを撮ることに関しては、『報道という枠組みで撮る必要はないんじゃないか』という風に考えるようになって。今まで撮ってきたスポーツ写真とはまた違った撮り方をするきっかけになった写真だと思います」

小海途さんの撮影した羽生さんの写真が多数掲載された写真集『YUZU’LL BE BACK Ⅳ 2021~2022』を手に
小海途さんの撮影した羽生さんの写真が多数掲載された写真集『YUZU’LL BE BACK Ⅳ 2021~2022』を手に

小海途さんは3/10〜12、羽生さんが故郷・宮城で開催するアイスショー『notte stellata』にも撮影で行かれるのだそう。最後に“神ラマン”としてのこれからの羽生さんへの想いを教えていただいた。

小海途さん「羽生さんはプロに転向され、より自由に自分がやりたい表現を既にやり始めて、突き詰めだしているので、この先どういうものを見せてくれるかっていうのは本当に楽しみでならないです。新しい世界を切り開いていく羽生さんの姿を、自分がどのように写真にしていくことができるか。そういったワクワクもありますね」

羽生結弦 notte stellata
開催日:2023年3/10(金)、11(土)、12(日)
会場:宮城県宮城郡利府町菅谷館40-1 
セキスイハイムスーパーアリーナ(グランディ21)
https://nottestellata.com/

編集者

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」「九州ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポットなどユーザーニーズを意識した情報を、それらの合わせ持つストーリーと共にお届けします。

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