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「そこで初めて『戻った』と思いました」。山本圭壱が語る“空白の10年”と「極楽コンビ」の理想形

中西正男芸能記者
今の思いを語る「極楽とんぼ」山本圭壱さん(撮影・倉増崇史)

 YouTubeチャンネル「けいちょんチャンネル」の登録者数が40万人を突破するなど新たな歩みを重ねる「極楽とんぼ」の山本圭壱さん(53)。相方・加藤浩次さんは3月末で吉本興業とのエージェント契約が終了。加藤さんは完全に個人事務所、山本さんは吉本所属という形にもなりましたが、加藤さんへの秘めた思い、そして、2006年からの“抜け落ちた40代”を吐露しました。

なくてはならない10年

 10年ね…。改めて考えると、今の自分を語るためになくてはならない10年だったと思います。例えば「2003年には何をしてましたか?」と尋ねられてもスッと出てこない。

 でも、2006年以降は事細かに年号でハッキリ出てくるんですよ。いつから肉巻きおにぎりの仕事を始めて、いつから高野山のお寺でお手伝いをさせてもらって…というのが明確に刻まれています。

 なぜそこまで覚えているのか。これはね、自分でも明確な答えは分からないんですけど、2006年に僕が迷惑をかけることを起こしてしまって、いわば“土俵”を割ってしまった。

 突然の流れでもあったのでいきなりそうなってしまった。もう一回戻って迷惑をかけた人にお詫びをして、そこからお返しもしないといけない。その思いはずっとありました。そのために積み重ねた、積み重ねようとした時間だったからですかね。

 ただ、いろいろな部分で進まなかったり、すんなりいかない部分ももちろんありました。その都度、加藤とも相談しながらの10年でした。

「意地だ」

 今は「10年でした」と過去形で、長さも分かった上でお話ができますけど、その途中ではいわば“トンネル”がいつまで続くのか。さらに言うと、出口があるのかどうかも分からない。もちろん、根本として僕が迷惑をかけたからなんですけど、そんな状況だったので加藤とも本当にいろいろ話しました。

 今年8月、コンビそろってインタビューを受けたんですけど、その時に加藤が言ったんです。「意地だ」って。

 どのコンビも屋号を保つのはそれ相応の苦労があると思うんですけど、オレたちの場合は本当に意地だったと思います。加藤が言った瞬間「それ、オレもこれから使っていいか?」と聞いたくらい(笑)、本当にそうだなと思いました。

 加藤はね、さすが生放送を毎日やってるから、そういうひと言が本当にうまいんですよ(笑)。でもね、本当に、本当に、意地なんですよね。

 僕はただただ芸人という仕事が好きで、まわりに芸人が集まっている空間が好きで、そこに戻りたいと思った。吉本興業さんにも多大なる迷惑をかけましたけど、戻ることができた。そこに対する恩があります。それは自分の中では揺るがない部分です。

 一方、加藤は加藤で、今年の春に「自分は(吉本から)離れる」ということを決めました。それは加藤の判断で、一人の大人の思いです。それを僕が止めることでもない。

 そして、コンビとしては別れるものでもないし、コンビの仕事はそのままやるし「極楽とんぼ」は続いていく。本当にね、それだけのことなんですよ。だから、周りが考えるほど難しい話ではないと僕は思ってるんですけどね。

 「何かそれに伴って変化はありますか」と聞かれたりもするんですけど、僕らとしては本当に何も変わってないんですよね。それが何の偽りもない、正直な話です。

「けいちょん、頑張れよー!」

 10年ということで言うと、そりゃ、プロの世界ですからブランクは感じました。もっと言うと、その間に自分が何もできなくなったことをすごく感じました。

 2018年3月31日に放送された「めちゃ×2イケてるッ!」(フジテレビ)の最終回の時点でも(芸能界に)戻って1年半くらいは経ってるわけです。でも最終回でいろいろな売れっ子のゲストを迎えて「しりとり侍」というコーナーをやったんですけど、そこで感じていたのは引け目ばっかりでした。

 これは戻ったんじゃない。常にキョロキョロして、しゃべってる人の方を見てるけど、気の利いた一言も言えない。何とも言えない申し訳なさを感じながら、物理的にそこにいる。やっぱり、これは戻ったんではない。皆さんのありがたい思いで、この空間に存在させてもらっているだけ。いろいろな意味で戻ったという言葉は使えない。

 そんな思いで「めちゃイケ」を終えて、2019年の秋ごろから「めちゃイケ」を担当していたディレクターとYouTubeをやることになりました。

 ただ、やり始めて半年も経たないうちに新型コロナ禍になり、身動きが取れなくなった。その中でも、何とかやれることを探して少しずつ積み重ねをしていきました。

 そんな中、去年の11月頃に加藤とのロケがあって、ゲストの方も含め外でカメラをまわしていたんです。

 普通に考えて、そのロケの様子を見ていたら一番目立つのは加藤のはずなんです。毎日生放送で司会をして、それ以外の露出も多いですから。ただ、そこで僕たちがいるところの70~80メートル先にいる兄ちゃんから大きな声がかかったんです。

 「けいちょん、頑張れよー!」

 「え、加藤じゃないの?」とまず思ったんですけど、次に「『けいちょん』と呼んでくれているということはYouTubeを見てくださっているんだ」ということでした。

 その時で登録者数が10万人いくかどうかくらいの時期だったと思うんですけど、実は、その瞬間が僕にとっては本当に大きくて、今でも忘れられない瞬間だったんです。

 “戻った”とは程遠い感覚だった「めちゃイケ」の最終回から手探りながらYouTubeを始めた。それを1年ほどやったところでの声援でした。

 なんなんでしょうね…。手ごたえ。そうですね、手ごたえなんだけど、もっと深いものというか。そこで自分の中で「これは…」という感覚というか、やっぱり手ごたえですね(笑)。それを強く、強く感じたんです。

 もう30年近く前になりますけど「とぶくすり」という「めちゃイケ」の前身にあたる番組があったんですけど、あの頃も「ナインティナイン」がいて「よゐこ」がいて。

 一方、オレらというのはネタで上がって実績を作っていったコンビではなかったので、学園祭とかに行っても「ナインティナイン」が出ていったら「キャー!」、「よゐこ」が出ていっても「キャー!」となる中、オレらが出ていくと一部の熱狂的なファンが野太い声で「『極楽』頑張れよ!」とか「山本、行け!」と応援してくれる感じだったんです。

 他とは違う異質な声援。でも、そこに本当に思いが乗っているというか、応援してくれているのが声からも分かるというか…。

 なんかね、「けいちょん、頑張れよー!」で、その当時を思い出したんですよ。

 あと、これは本当に偶然なんですけど、そのロケの3日ほど前に件の「めちゃイケ」最終回の映像を自宅で見てたんです。家のDVDに入ってたんで、ふと見てみたんですけど、少し映像を見た瞬間に、引け目を感じていた感覚がよみがえってきました。

 そこで何とも言えない思いになって、正直、ちょっと見ただけでDVDをサッと消しました。なんというか見ていられないというか。

 でも、そこからYouTubeをやって、今は「けいちょん!」と声をかけてくれる人がいる。そのうれしさというか、前に進んでいる感じ。これが本当に大きかったなと。

 去年11月ということは2020年ですよね。2006年から静かに目をつぶったとしたら、そこから14~15年はかかりました。本当に戻ってくるには。

 そして、そこからまた1年近く経って、今はさらに違うんです。「もう一回『めちゃイケ』の最終回の場に行きたい」と思えるんです。今なら、少なくともあの日のようにはならない。今は違う。そう思える自分がいるんです。

コンビの今後

 今、53歳になりましたけど、僕が一旦芸能界を離れたのが38歳。なので、40代がすっぽりと抜けてるんです。もちろん、本当は40代も生きてきたんですけど、芸人としての自分は「今が38歳だ」と思ってるんです。「さぁ、これから40代だ」と。

 あとね、これは加藤ともたまに話すんですけど、加藤が70歳、僕が72歳、要は二人とも70歳を超えた状態で、ジジイ同士がケンカする。小突き合いをしている。いい年した二人がもめてるのが一番面白いじゃないですか(笑)。しかも「ナニでもめてんだよ!」というようなことでケンカするのが面白いなと思うんです。

 …加藤はどう思ってるか、そこまでは話したことがないので分からないんですけど、オレが思ってるのは70歳を超えたら全国ライブをやりたいなと。ジジイがもめながら全国をまわるというのが、なんとも楽しいだろうなと(笑)。

 人生で「ああしておけばよかった」「こうしておくべきだった」というジャッジって、死ぬ寸前に自分でしかできないと思っているんです。だから、大金持ちで端から見れば「幸せだったんだろうな」と思われている人でもそこは分からない。本当に、人それぞれですから。

 ただ、そんな70代を送れたら、それこそ、人生、最高だったと思えるでしょうね。もう今から20年経ったら、さすがに加藤も「スッキリ!」とは言ってられないでしょうし(笑)。

 どこが悪い、あそこが痛いとか言ってるとは思いますけど、そんな二人のケンカをお見せできたらなと思っています。

■山本圭壱(やまもと・けいいち)

1968年2月23日生まれ。東京都出身、広島県育ち。本名・山本圭一。89年、加藤浩次とお笑いコンビ「極楽とんぼ」を結成する。フジテレビ「とぶくすり」などで注目され、96年から「めちゃ×2イケてるッ!」に出演。2006年、女性トラブルで所属の吉本興業を契約解除となる。その後は宮崎県を拠点に活動し、16年に吉本復帰が発表される。YouTubeチャンネル「けいちょんチャンネル」で様々な企画を展開中。お笑いと音楽を融合させたイベント「けいちょんフェスティバル2021 けェスin宮崎」を11月7日に宮崎・メディキット県民文化センターで開催する。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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