性暴力の被害者団体を「インチキ」「狂信的」? 立憲民主党・本多平直議員は説明を
性犯罪に関する刑法の性交同意年齢に関して、立憲民主党の本多平直議員が党内のワーキングチーム(WT)での発言が批判を浴びていた問題。
7月26日付の産経新聞が、WTの寺田学座長が25日に提出した意見書の中で、本多議員からこのほかにも「強姦された女性をフォローしているという建前で、女性、女性解放運動をやっている人たちとけんかした」「みんなフェミニストの人たちは、男がだましてセックスさせるもんだと思っているんだけど、今時代が変わってきていて、お金のためとか、興味のためとか、本当に惚れて、まー誘うこともある。そのことを分かっていないから」などの発言があったことを報じた。
立民・本多氏「12歳と21歳だってないとはいえない」 WT寺田座長が意見書(2021年7月26日/産経新聞)
産経新聞記事で引用されているのは一部だが、寺田議員が提出した意見書の中では、本多議員が性暴力の被害当事者団体の名を出して、痛烈に批判する様子が書き起こされている。
以下、意見書からの引用。
本多:
「強姦された女性をフォローしてるという建前で、女性、女性解放運動をやっているイデオロギーの人たちと喧嘩した。」
「スプリングとか。もう、論外。」
「男は敵。男性差別。」
寺田:
(なぜ被害者団体らが性交同意年齢の引き上げを求めていると本多さんは捉えているのか)
本多:
「変なイデオロギーとしか思えない。」
本多:
「イデオロギーから入っている。インチキ支援団体。」
「あんまり言い過ぎると不信を買うけど、不信の塊なんですよ。」
本多:
「漫画に描くこと自体は犯罪だみたいな狂信的なグループが、装いを変えてスプリングみたいな雰囲気になって、爽やか系な弁護士でやってっけど。」
本多議員が名前を挙げている一般社団法人Springは、性犯罪刑法のさらなる見直しを目指すために2017年7月に結成された被害当事者を中心とした団体。支援団体ではなく、被害当事者自身が活動する「被害当事者を中心とした団体」である。議員へのロビイングや署名活動のほか、昨年は被害者5899人へのアンケート調査を行うなどしている。
代表の山本潤さんは、性暴力の被害当事者として初めて2020年4月から行われている刑法改正のための検討会委員に選ばれ、約1年にわたって行われた検討会で、弁護士や刑法学者らと意見を交わした。
性暴力の被害当事者はこれまで沈黙を余儀なくさせられることが多く、被害に遭った人がその後、司法においてどのような状況に置かれるのかが世の中に広く知られてきたとは言い難い。だからこそ、その視点を可視化し、「私たちのことを私たち抜きで決めないで」と訴えてきたのがSpringの活動と私は理解している。
被害当事者の視点を「イデオロギー」「インチキ」「狂信的なグループ」と言ったのが事実であれば、本多議員のその思い込みはどのような部分から来たのだろう。山本さんが検討会メンバーに選ばれたのは、SANE(性暴力被害者支援看護職)としての専門性を持つことや、長年の活動の中で、被害者支援はもちろん加害者臨床や法曹関係者など様々な立場の人と意見を交わしてきたことが認められたからだ。
「男性差別」と言うが、Springは女性メンバーだけではないし、2017年の改正時に、強姦罪が強制性交等罪に変わり、男性の被害も強姦と同等に裁かれることに反対した性暴力被害者の支援団体は私が知る限りない。反対したのは日弁連である。
意見書には次のような部分もある。
また、本多氏自身が納得できる実例(裁判例)であるかどうかの前に、性犯罪被害者の方々が、何に強い疑問を持っているかを知る上で、フラワーデモのきっかけとなった2019年の4件の無罪判決は重要なものと捉えています。しかし本多氏はそれら4件の無罪判決について以下のように発言しています。
「4件の無罪判決っていうのは、そんな4件の無罪判決って言われるほどそんな一般的なものか。」
「僕、勉強不足ですみません。」
(5月28日WT)
自身として「実例(裁判例)がない」と再三述べていたにも関わらず、フラワーデモのきっかけとなった4件の裁判例を認知していなかったことは、私個人としては驚きでした。
おそらくその原因は、「学者という人とか、支援団体という人たちのデタラメさ加減。一度もストンと落ちたことがない。」「イデオロギーから入っている、インチキ支援団体。」(共に5月13日)などと述べているように、性犯罪被害者や学者に対する強い先入観によるものと思います。
また、「児童福祉法と条例で捕まっている人間が日本で500人ぐらいいますわ。淫行条例で捕まっている20歳とか24歳の可哀想な、これがね、俺から見れば可哀想な、真摯な恋愛かもしれないど、14才とセックスして、ふとした瞬間に親にバレて、会社員としての生活を棒に振った24(歳)もいるわけだよ」(5月13日)と、加害者である成人の立場に同情する発言があり、性犯罪被害の「被害」の対象が、むしろ加害者である成人側に向けられているのではないかと考えます。(原文ママ)
2019年3月に相次いだ4件の無罪判決には、その翌年から検討会が始まるきっかけになったとも言えるインパクトがあった。被害当事者や支援者は、この無罪判決は性暴力の被害当事者に立ちはだかる司法の壁を表すわかりやすい事例であると再三訴えてきた。それを知らないのだとすれば、被害当事者の話など聞いていないに等しい。
性暴力の被害当事者を取材してきた立場から思うのは、感情的になっているのは一体どちらかと言うことだ。頭を冷やす必要があるのはどちらなのか。
性暴力の被害者がその被害や訴えを口にするとき、「感情的」という言葉が何度も使われてきた。だからこそ、私の知る被害当事者のメンバーたちの中には、なるべく冷静に論理的に話すことを心がけている人が多い。エビデンス(調査結果や論文)を揃えて面談に挑むのもそのためだ。そうしないと話を聞いてもらえないからだ。
本多議員の主張にエビデンスはあるのか。
被害当事者が本多議員のように感情的にエビデンスもなく語ったとしたら、刑法の議論の場には加えてもらえない。
性暴力の被害当事者団体が、与党・野党に関わらず議員から「あなたたちのような団体とは会わない」と言われたケースや、「被害者なの?その割には元気そうだね」などと言われた話も耳にしている。そのような目に遭ったことは公にはせず、当事者らは黙々と活動を続けている。
それでもなお、感情的というレッテルを貼られる。ひどい偏見だと思う。同じく、党内の密室で発言されたという自民党・杉田水脈議員の「女性はいくらでもうそをつけますから」と同等か、それ以上にひどい発言だと感じる。
本多議員と本多議員を擁護する立憲民主党議員は、この意見書に書かれた内容について説明してほしい。
※寺田議員は本多議員の発言とされる書き起こし内容について、「引用する発言内容は、録音をもとに書き起こしたものであり、必要であれば全文の書き起こしを提出いたします。また本多氏の了解があれば録音も提出いたします。」と意見書に書いている。