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まるでマンガ“北斗の拳”!! 魔術と音楽が融合した世界一カオスな“コンゴ・プロレス”

内山直樹映像ディレクター/BUG共同代表

【コンゴ・プロレスは、コンゴ社会の縮図】

赤道直下、アフリカ・コンゴ民主共和国。世界最貧国の一つに数えられるこの国には、苦境に陥っても何かを作りだそうとする狂気じみたエネルギーがある。それを象徴するのが、貧民街の大男たちがしのぎを削るプロレスだ。トタン屋根がひしめく路上にリングが置かれ、奇抜なコスチュームに身を包んだレスラーが次々に登場。魔術まで飛び出す奇想天外なバトルに、警官・ストリートチルドレン・麻薬中毒者・娼婦など、社会矛盾を抱えた連中が、一緒になって熱狂する。コンゴ人にとってプロレスは、しみったれた日常に咲いたキング・オブ・エンターテインメントであり、コンゴ社会の縮図なのだ。
コンゴにプロレスが伝わったのは1972年のこと。フランス人がレスリングを持ち込み、その後、アフリカで広く信じられている魔術と音楽が融合し、コンゴ・プロレスは生まれた。

【資源大国なのに、最貧国、それでも】

2017年から、僕はカメラを持ってコンゴの首都・キンシャサに通っている。「エボラ出血熱」「600万の犠牲者を出した紛争国」といったネガティブワードがつきまとうコンゴの首都は、思いのほか平穏だった。路地のいたるところに小さな屋台が並び、中国製の衣類を売る露天商や、パンを頭に乗せて売り歩く行商人など、国の統計にはのらないインフォーマルな経済活動が盛んだ。
1960年の独立直後から、政争や軍事クーデターを繰り返し、金やダイヤモンド、レアメタルなど地下資源をめぐる紛争が続いてきたコンゴは、民主主義からも経済発展からも取り残された。高級車を走らせる政府関係者がいる一方で、街にはゴミが散乱し、道路は穴だらけ。何度もロケ車を止められて、お金をせびってくる警官に出会した。ごく少数の富裕層と、大多数の貧困層。決して両者は交わることはなく、まるで二つの国があるようだ。でもここには、庶民たちの生きることへの圧倒的な渇望がある。

【持たざる者たちが作る、エンターテインメントの原点】

夜、路地裏にあるプロレスチームの屋外練習場を訪ねた。体をぶつけ合う鈍い音が聞こえてくる。裸電球の灯りのもと、木屑の上にマットを敷いただけの場所で、40人が練習していた。子供や女子レスラーの姿もある。 日中は車の修理工や物売りとして働き、夜になると集まってくると言う。ファイトマネーは、交通費程度しかでないため職業レスラーはいない。草野球ならぬ、草プロレスの世界だ。キンシャサにはプロレスチームが60以上あり、およそ600人の草プロレスラーがいると言う。

「この国にとっちゃ俺たちは、虫けらみたいな存在かもしれない。でも町中の人が応援してくれる。それが原動力だ」「小さい時から路上で生きてきた。プロレスをはじめて、家族と呼べる仲間に出会えた」「プロレスは情熱だ、小さい頃からレスラーになるのを夢見てきた」。レンズに迫ってくる男たちの目は、少年のようだった。

子供もみなレスラーに憧れる。ストリートチルドレンの 11 歳の少女は口を尖らせてこう言った。
「強いレスラーなって、私を捨てた両親をぶん殴ってやる!!」全員の心が激しく揺れ動いた。少女は、孤独に打ち勝つ強さを、レスリングで体現しようとしている。

最後にチームをまとめるリーダーに、少し意地悪な質問をしてみた。
内山:「子供たちは将来レスラーになりたいと言うが、このまま貧乏草レスリングでいいのか?」
リーダー:「みんな貧乏だから、まったく問題ないさ(笑)」。

欠損だらけの社会の中で、持たざる者たちが路上に作り出す舞台には、どんな人間でも分け隔てなく包み込む、愛がある。戦後間もない頃の日本にもあったであろう、エンターテインメントの原点がここにはある。最後に「来年コンゴでインターナショナルマッチをやろう」と語り合い、僕はキンシャサを後にした。

映像ディレクター/BUG共同代表

1982年、東京都足立区生まれ。株式会社テムジン所属。アフリカや南米、戦争証言などのドキュメンタリー番組を多数制作。「遠い祖国 ブラジル日系人抗争の真実」で、ギャラクシー賞優秀賞を受賞。その後も中国残留孤児2世らを結成した愚連隊「怒羅権」など、社会の深淵にある物語に惹かれ追いかけている。ドキュメンタリー制作者コミュニティBUGの共同代表として、毎年、品川宿で開催しているドキュメンタリー祭「ドキュ・メメント」を主宰。2018年には「ゲームチェンジング・ドキュメンタリズム」を上梓(編集協力)。テレビや劇場だけにとどまらない「社会とドキュメンタリーの接点」をテーマに活動している。