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日銀政策委員と笑点メンバー

久保田博幸金融アナリスト

日銀の政策委員(総裁・副総裁の執行部3名と6名の審議委員)は、一時期、それぞれの個性が見えず、まるで白黒テレビを見ているかのようであった。現状維持も全員一致、政策変更も全員一致で、黒が白に白が黒に全員で変わっていたかの印象であった。

ところが昨年7月の佐藤健裕氏、木内登英氏が登場したあたりから、少しずつ色が見え始めてきた(途中でカラーが変わった気もしたが)。たとえば、1月の会合では佐藤委員と木内委員は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とすることに反対した。また審議委員からの議案提示も出されるようになった。

安倍政権の誕生をきっかけに、今後はこの政策委員それぞれのカラーがさらにはっきりしてくることが予想され、今後の金融政策決定会合ではいままであまり意識されなかった票読みも意識する必要が出てきた。

3月7日の金融政策決定会合では、白井委員から、基金の長期国債の買入れについて、「期限を定めない買入れ方式」を速やかに導入し、「金融調節上の必要から行う国債買入れ」と統合する議案が提出され、反対多数で否決された。

さらに宮尾委員からは、実質的なゼロ金利政策については、物価安定の目標の実現が見通せるようになるまで継続するとの議案が提出され、反対多数で否決された。

宮尾委員の提案は1月の会合でも出されていたが、サプライズとなったのは白井委員からの議案提示であった。これは3月20日からの新執行部の体制を意識して、先に布石を打ってきたかの印象である。内容については細かいところまではわからず、日銀券ルールをどうするのかといった問題も含む。ただ、これを見てもわかるように新体制の次元の異なる金融政策の選択肢としては、現在の次元の延長線上にある日銀の買い入れる国債の年限長期化がまず検討されるであろうと予想される。

今回の白井委員や宮尾委員の議案提示もあり、それぞれの政策委員のカラーが見え始めてきた。白黒からカラーの時代に変わりつつあり、市場参加者はそれぞれのカラーを見極めることが今後は重要なポイントになりそうである。

長寿番組となっているテレビー番組の「笑点」はメンバーの着物の色がそれぞれ異なり、それぞれキャラクターの特色を出すようにしている。このあたりのバランスがなかなか絶妙であり、それが長寿番組を支える大きな要素となっている。今後は日銀の政策委員も次元の異なる金融政策を目指す中で、それぞれの特色が表面化すると予想されるし、期待もしたい。

私なりに見ての現在の政策委員の位置関係としては、リフレ派のツートップの黒田氏と岩田氏の後ろに、白井氏と宮尾氏がついており、センターに石田氏と森本氏がいる格好か。付利引き下げを議案提示した石田氏はその後それを引っ込めているが、これはたぶん現実的ではないためとの判断か。森本氏についてはその出身が東京電力ということもあり、あまり派手な動きはしにくい面もあるのではなかろうか。

それに対してハト派として送り込まれたとされた佐藤氏と木内氏は、どうやらリフレ派とは距離を置くことが予想され、リフレ派のツートップとは反対の位置にポジションを移していると予想される。もうひとり中曽氏の位置が難しい。とりあえずゴールキーパーあたりで、ツートップにボールを蹴るが全体の様子をうかがうような立場となるのかもしれない。

この位置関係もカラー分けも今後の動向次第ではさらに流動的となりそうである。そして新体制となってからの最初の金融政策決定会合では何を打ち出し、その採決がどうなるのか、これは市場関係者ばかりでなく、アベノミクスへの注目度も高いため、国内外からの注目が集まるかもしれない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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