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ニセカウンセラーに要注意 - 心のケアを誰に任せればよいのか・・・

原田隆之筑波大学教授
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

新型コロナウィルス感染者への誹謗中傷

 島根県で新型コロナウィルス感染症のクラスターが発生した学校に対して、「日本から出ていけ」「学校をつぶせ」などの卑劣な誹謗中傷が殺到していると報じられました。生徒の顔写真がSNSなどで拡散されたこともあるそうです。

 一方、このような匿名の攻撃に晒され、メンタル不調を訴える生徒が増えているとも報じられています。学校から協力を依頼された臨床心理士・公認心理師には、約50人もの生徒からの相談が寄せられているとのことです。

 感染症の蔓延のなかで、ただでさえ不安な日々を送っていたところに加えて、身近でクラスターが発生したということの不安、そしてそれに対する悪意に満ちた匿名の攻撃という恐怖。心理的な不調が出て当然です。

 新型コロナウィルス感染症が蔓延するなかで、「コロナうつ」「コロナ不安」などという言葉が用いられるようになり、感染症だけでなくメンタルヘルスの問題もクローズアップされています。そしてそのたびに、テレビのコメンテーターは「心のケアが必要ですね」などという決まり文句で結びますが、一体どんな心のケアが必要なのでしょうか。

心のケアとは?

 体の病気の場合、代替医療や民間医療に頼る人もいるでしょうが、ほとんどの人は病院を受診し、医師の診療を受けるはずです。日本のように保険制度が整っている国では当たり前のことです。

 しかし、心の不調は誰に相談すればよいのでしょうか?もちろん、精神科医の診療を受けてもよいのですが、「不安だ」というだけで受診するのは敷居が高いですし、薬に頼りたくないという人も多いでしょう。

 それでは、カウンセラーはどうでしょうか?カウンセラーという言葉はよく耳にすると思いますが、実際カウンセラーに相談をした経験のある人は、まだ少ないかもしれません。また、相談したいと思った場合、どこでカウンセラーを探せばよいのか、料金はどれくらいか、本当に「効果」があるのか、など多くの疑問を持たれると思います。

 「心のケア」と一口に言っても、そしてそれを担うカウンセラーについても、その質は千差万別です。「心のケアが必要ですね」だけではダメなのです。どのような心のケアが必要で、どのようにカウンセラーを選べばよいのか、世間にはあまりにもその情報が少なすぎます。

 したがって、ここではカウンセラーの選び方について少し説明したいと思います。

カウンセラーとは

 先に生徒の心のケアのために、学校が「臨床心理士」「公認心理師」の協力を仰いだという報道についてふれました。これはよい選択だったと思います。

 まず、世の中には「自称カウンセラー」「ニセカウンセラー」が山ほどいます。なかには、たった数時間の「養成講座」を受けただけで「カウンセラー」を名乗り、ホームページなどを立ち上げて華々しく宣伝をしている人もたくさんいて、それには驚かされます。

 多くの場合、もっともらしい資格を有していることを宣伝文句としていますが、それもやはりよくわからない民間団体が、これまたよくわからない資格を作って、それを高い料金を取って「養成講座」受講者に与えているという例がたくさんあるのです。ひどいケースでは、自分で団体や資格を作って、その団体の代表を名乗り、自分で自分に資格を与えてあたかも業界の権威であるかのように振舞っている人もいます。

 もちろん、なかには優秀な人もいるでしょうし、真摯に相談者と向き合って問題を解決してくれる人もいるかもしれません。しかし、本当に専門知識を基に人々の援助をしたいのであれば、インチキまがいの資格ではなく、きちんとした本物の資格を取ればいいのです。それを取らないということは、そのための勉強もしていないのでしょうし、実力もないのでしょう。

 臨床心理士になるためには、大学での4年間のほかに、少なくとも大学院で2年間は専門課程を履修し、心理学はもちろん、精神医学や法律などの教育のほか、心理検査、心理療法などの専門知識を学びます。さらに、座学だけではなく臨床の訓練を受ける必要があります。言うまでもなく、インチキ講座の数時間とは量だけでなく質も違います。

 そして、必要な過程を修めて修士論文を書いたあと、臨床心理学などの学位(修士号)を受ける必要があります。それで初めて、臨床心理士試験の「受験資格」が得られるのです。つまり、大学院での課程を終えた後、厳しい試験に合格しなければ「臨床心理士」を名乗ることはできません。その合格率は60%程度です。

 しかし、「臨床心理士」は国家資格ではありません。日本臨床心理士資格認定協会という民間団体による民間資格です。とはいえ、30年以上の歴史があり、これまで3万人を超える臨床心理士を輩出しています。わが国のほとんどの臨床心理学の大学院では、臨床心理士養成課程を有しており、民間資格とはいえ、最も権威のある資格であることは間違いありません。

公認心理師とは

 もう1つの「公認心理師」は国家資格です。こちらは臨床心理士に比べると歴史が浅く、2017年に施行された「公認心理師法」による資格であるため、まだ3年の歴史しかありません。カウンセリングや臨床心理学の専門職は、長い間その専門職の国家資格化を切望してきたのですが、いろいろな困難があり、国家資格化が難航しました。そして、ようやく悲願の国家資格化がなされたわけですが、こちらも大学や大学院で、省令で定められたカリキュラムを修め、一定の訓練を受けて初めて受験資格が得られます。

 心理職の国家資格化がなされたことは、カウンセリングを受ける側にとっても有益なことであると言えます。体の問題には、医師、歯科医師、看護師、保健師、薬剤師、理学療法士、臨床検査技師など多くの国家資格があり、その資格を有している専門家に安心して治療を任せることができます。

 しかし、それと同じくらい重要な心の問題に対して、これまで国家資格がなかったということのほうが先進国として異常な事態でした。やっと国家資格を有する専門家が誕生したということは、一定の質が担保されたということであり、ようやく安心して心の問題を任せられる専門職が誕生したということになるのです。

 とはいえ、国家資格が誕生するまでの間、さまざまな民間資格が乱立することになり、そのなかでいい加減な「資格」を有する「カウンセラー」が多数生まれてしまったというのが現状です。

 だとすると、やはりカウンセリングを受ける際には、まず相手のカウンセラーの有する資格に着目するべきです。一般の方が資格の判断をする際に信頼のおける資格は、公認心理師と臨床心理士、ほぼこの2つを確認していただければと思います。それ以外の資格は、いくらたくさん持っていても信頼が置けるとは限りません。

 これ以外には、さまざまな学会が認定する追加的な資格もたくさんあり、民間資格のすべてが「怪しい」わけではありません。しかし、やはり「本物」の専門家は、まずは公認心理師や臨床心理士を有しているはずで、追加的にその専門性を深めるために他の資格を取得するという場合がほとんどですから、やはり公認心理師か臨床心理士であるかどうかを確認すべきです。

なぜ「自称カウンセラー」が存在するのか

 それではなぜ「自称カウンセラー」などが存在しているのでしょうか。それは「公認心理師法」では、カウンセリングや心理療法に関して、公認心理師は「名称独占」ではあっても、「業務独占」ではないと決められているからです。これは医師や弁護士などとは大きく異なります。

 つまり、公認心理師でない者が、公認心理師を名乗ってはいけないが(名称独占)、その業務は乱暴に言えば「誰が行ってもよい」という決まりになってしまっているからです(業務独占ではない)。自分で「ナントカカウンセラー」を名乗り、カウンセリングを行っても違法ではないのです。

 また、先に述べたとおり、民間資格であってもすべてが「ニセモノ」「インチキ」とは限りません。何らかの事情で国家資格は取らなかった、または取れなかったけれども、優秀なカウンセラーもたくさんいるはずです。

 しかし、相談者がカウンセラーの専門性の質を判別することは困難ですし、法外な料金を取るインチキにかかってしまい、症状が悪化したなどということがあっては目もあてられません。

公認心理師なら大丈夫か

 最後にもっと難しいことを少し述べておきます。それは、実は臨床心理士や公認心理師であれば、すべて大丈夫というわけではないということです。もっとも、これは医師や歯科医師であっても同じでしょう。いわゆる「ヤブ医者」と呼ばれる人はいるし、悪徳医師もいるでしょう。

 医療の分野では、こうしたことへの対策として、「エビデンスに基づく医療」ということが重要視されています。つまり、その医療にきちんとした「エビデンス(科学的根拠)」があるのかどうかに基づいて、医療の効果を判断するという動きです。

 ですから、患者の側も賢くなって、提供される医療の質を見きわめるべき時代になっているのです。インターネットを駆使したり、セカンドオピニオンを求めたりして、エビデンスを確認することは可能です。

 カウンセリングも同様に、エビデンスに基づくカウンセリングや心理療法という動きが盛んになりつつあります。今のところ確固としたエビデンスがある心理療法は「認知行動療法」と呼ばれるものです。逆に、「精神分析」「箱庭療法」「描画療法」などにはほとんどエビデンスがありません。

 しかし、残念なことに日本ではこれらの療法の人気が根強く、エビデンスを軽視して、今でもこうした方法に固執している「専門家」はたくさんいます。

 したがって、もしメンタル不調の相談に行って、「箱庭をやってみましょう」「絵を描いてみてください」などと言われたら、セカンドオピニオンを求めるか、ほかのところに行ったほうが賢明だと思います。

 できるだけ簡単に説明したつもりではありますが、それでもやはり最適な心のケアを見つけ出すことは、相当難しいと感じられたかもしれません。ニュースキャスターやコメンテーターも、軽々しく「心のケアが必要ですね」と締めくくるだけで問題解決になるとは思わず、これからはもっとその「ケアの質」に対して問題意識を持っていただきたいと思います。

 そして、メンタルヘルスの問題が注目を集めている今、われわれ一人ひとりも、同様の問題意識を持つことがますます重要になっていると言えるでしょう。

筑波大学教授

筑波大学教授,東京大学客員教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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